硝酸
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硝酸 | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | 硝酸 |
別名 | |
分子式 | HNO3 |
分子量 | 63.01 g/mol |
組成式 | |
式量 | g/mol |
形状 | 無色液体 |
CAS登録番号 | 7697-37-2 |
SMILES | [N+](=O)(O)[O-] |
性質 | |
密度と相 | 1.4 g/cm3, 液体 |
相対蒸気密度 | (空気 = 1) |
水への溶解度 | 混和 |
への溶解度 | g/100 mL ( ℃) |
への溶解度 | g/100 mL ( ℃) |
融点 | −41.6 ℃ |
沸点 | 121 ℃ |
昇華点 | ℃ |
pKa | −2 |
pKb | |
比旋光度 [α]D | |
比旋光度 [α]D | |
粘度 | |
屈折率 | |
出典 | ICSC |
硝酸(しょうさん、nitric acid)は窒素のオキソ酸で、化学式 HNO3 で表される。代表的な強酸の1つで、様々な金属と反応して塩を形成する。有機化合物のニトロ化に用いられる。
目次 |
[編集] 性質
五酸化二窒素(無水硝酸、N2O5)を水に溶かすと得られる、一価の強酸性の液体で、金属と反応して硝酸塩(水に可溶)を作る。任意の割合で水に溶け、通常「硝酸」という場合には水溶液を指す。濃度の低い硝酸を希硝酸という。希硫酸とは異なり、濃硝酸は水素よりイオン化傾向の小さい金属を溶かすことが可能である。白金、金を溶かすことはできないが、濃硝酸と濃塩酸を混ぜて王水を作るとこれらの金属も溶かすことが可能になる。また、アルミニウム、クロムなどは不動態が作られるため完全には溶けない。濃硝酸と濃硫酸の混合物である混酸を用いたニトロ化合物の合成などから爆薬が作られ、他にも染料、肥料などの製造に用いる。
強酸化剤で、木炭の粉末とともに熱すれば木炭は酸化して二酸化炭素となる。
二酸化窒素や四酸化二窒素を吸収させて発煙硝酸や赤煙硝酸とし、ロケットエンジンの推進剤の酸化剤として用いられる。有機系の燃料と混合するだけで点火する。
硝酸に触れるとキサントプロテイン反応によって皮膚が黄変する。
光に弱く、長時間光を浴び続けると分解する。
4HNO3 → 4NO2 + 2H2O + O2
そのため褐色瓶中で保管する。
[編集] 歴史
古くは8世紀ごろアラビアにおいて緑礬 FeSO4・7H2O または明礬 KAl(SO4)2・12H2O と硝石 KNO3 とを混ぜて蒸留によってつくられた。17世紀にはいってヨハン・ルドルフ・グラウバーがこれを改良し、硫酸と硝石との混合物を蒸留し、純粋な硝酸を作っている。銅・銀などをも溶かし硫酸よりも強いということから、強い水という意味のラテン語をとり aqua fortis と呼ばれた。イギリスでは硝石の精という意味の spirit of nitre ともいわれていた。硝酸という言葉は1789年にラボアジエによってフランス語で acide nitrique と命名されて以来用いられるようになった。
[編集] 工業的製法
2004年度日本国内生産量は 630,290 t、消費量は 331,347 t である。アンモニアから生成するオストワルト法での生産が一般的である。
[編集] オストワルト法
アンモニアを白金触媒の存在下で 900 ℃ 程度に加熱すると一酸化窒素が得られる。
- 4 NH3 + 5 O2 → 4 NO + 6 H2O
- 2 NO + O2 → 2 NO2
二酸化窒素を水[温水]と反応させると硝酸と一酸化窒素が発生する(一酸化窒素は最初のサイクルに戻る)。(冷水との反応は二酸化窒素を参照せよ)
- 3 NO2 + H2O → 2 HNO3 + NO
全体として、
- NH3 + 2 O2 → HNO3 + H2O
[編集] 硝酸イオン
硝酸イオン(しょうさんイオン、NO3−)は硝酸およびその化合物の電離、分解によって主に生じる1荷の陰イオン、窒素化合物。硝酸は強い酸化剤なので、多くの金属と塩を生成する。また一般に、金属の硝酸塩は水に溶解しやすい。
[編集] 硝酸塩
消防法により硝酸塩類は危険物 第1類 酸化性固体に分類される。
- 硝酸カリウム (KNO3)
- 硝酸ナトリウム (NaNO3)
- 硝酸アンモニウム (NH4NO3)
- 硝酸ウラニル (UO2(NO3)2)
- 硝酸カルシウム (Ca(NO3)2)
- 硝酸銀 (AgNO3)
- 硝酸鉄(II) (Fe(NO3)2)
- 硝酸鉄(III) (Fe(NO3)3)
- 硝酸銅(II) (Cu(NO3)2)
- 硝酸鉛(II) (Pb(NO3)2)
- 硝酸バリウム (Ba(NO3)2)
[編集] 硝酸塩鉱物
鉱物学において、硝酸塩からなる鉱物を硝酸塩鉱物(しょうさんえんこうぶつ、nitrate mineral)という。硝石(KNO3)、チリ硝石(NaNO3)などがある。
[編集] 生態系における硝酸
硝酸は好酸素菌によって生物の屍骸等からアンモニア、亜硝酸と経て生成される。さらに嫌酸素菌によって窒素等に分解され空気中等に放出されていく。なお、アクアリウムの生態系において嫌酸素菌の発生は困難であり、水槽中に硝酸が分解されないまま溜まっていくので、高濃度となる以前の適度な水換えが必要となる。ただし一般的に、アクアリストにとって硝酸はアンモニアや亜硝酸との比較において毒性の低い物質と認識されている。
[編集] 硝酸にまつわるエピソード
高野長英は蛮社の獄により投獄されたが火事により脱獄、そのときに硝酸で顔を焼き人相を分からなくした。