コピーレフト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コピーレフト (copyleft) とは、著作権 (copyright) に対する考え方で、著作権法の下、公での引用、改変、内部情報と二次的著作物の再配布を抜け道なく可能にすることを目的とした概念である。1984年にフリーソフトウェア財団を設立したリチャード・ストールマンによって提唱され、初めはソフトウェアに関して用いられたが、その後、ソフトウェア以外の著作物にも適用しようという動きがある(クリエイティブ・コモンズなど)。
しばしば、GPLやGFDL等(後述)の特定のライセンスを指す事もある。
目次 |
[編集] 概念
コピーレフトの考えでは、著作権保持者はそのコピー(複製物)の受取人に対して取り消しの出来ないライセンスを認め、販売を含む再配布を許可し、翻案(改変)されることも可能とする必要がある。逆に、コピーレフトを利用する側では、このライセンスのものをコピーや変更、再配布する時にはこのライセンスをそのまま適用し、それを明確に示さなければならない。
コピーレフトの定義をまとめると次のようになる。
- 著作物の利用、コピー、再配布、翻案を制限しない
- 改変したもの(二次的著作物)の再配布を制限しない
- 二次的著作物の利用、コピー、再配布、翻案を制限してはならない
- コピー、再配布の際には、その後の利用と翻案に制限が無いよう、全ての情報を含める必要がある(ソフトウェアではソースコード含む)
- 利用、コピー、再配布、翻案のいずれにおいても、複製物又は二次的著作物にコピーレフトのライセンスを適用し、これを明記しなければならない
コピーレフト以外にもフリーソフトウェアのライセンスは数多く存在し、BSDやX Window Systemなどの、オープンソースソフトウェアで適用されているものがある。これらは派生物へのライセンス適用や、使用可能なソースコードのコピーを義務づけていないため、コピーレフトではない。よく議論されることに、これらのライセンスとコピーレフトのどちらがより自由なライセンスであるのか?というものがある。これは視点の問題で、他のライセンスでは制作者など、現在のライセンス保持者の自由を最大限にしたもので、コピーレフトでは今後のライセンス保持者の自由を最大限にしたものだと考えることができる。
「コピーレフト」という語は1984年にドン・ホプキンスがストールマンに宛てて送った "Copyleft--all rights reversed" というフレーズが元になっている。
[編集] 思想的背景
[編集] 著作物の利用権の共有
インセンティヴ論に基づく著作権制度という議論はあるものの、著作物の利用権を共有(準共有)することは、著作物をより発展させるための有用な手段となりうる場合がある。これは典型的な商業ソフトウェアが制作・流布される際に、複製や内的構造の研究や改変が禁じられているために、既存のソフトウェアを改良して新しいより優れたソフトウェアを開発する可能性が閉ざされている、という点を考えると分かりやすい。あるいは、インターネットを支える基礎的な技術はソフトウェアを共有し改良し合うことで発展してきたということを考えても良い。
一般に、芸術作品や評論、解説文、コンピュータプログラムなどを含む著作物は、その作者が著作権を持っている。そのため、作者の許可を得なければ改変したり、(個人的なバックアップを除いて)複製したり、配布・販売することはできない。しかし、このような制度の枠組みは、作品を共有して多人数で共同的な創造活動を行う際にはかえって妨げとなり得る場合がある。
そのためにまず最初に行われたのは、明示的に著作権を放棄したり(パブリックドメイン)、放棄はしないが「誰でも自由に使って良い」と宣言したり、という形で共有する方法であった。
ところが、本当に誰でも自由に使えることにしてしまうと、共有・発展という作者の意図に反するような利用が行われることもある。パブリックドメインの状態にある著作物を改変した場合、二次的著作物はパブリックドメインになるわけではなく、改変者に著作権が帰属することになるためである。
このような問題をストールマンが経験した際に、コピーレフトという発想が生まれた。シンボリックス社から、ストールマンが作成したLISPインタプリタを使いたいと打診された際、ストールマンは彼の作品のパブリックドメイン版を提供した。シンボリックス社はそのプログラムを拡張して更に強力なものにした。そして、彼のもともとのプログラムに対して拡張した部分を見せてくれるよう求めた時に、シンボリックス社はそれを拒否した。これは法的にはどうすることもできなかった。
[編集] 共有状態の維持
このような経緯のため、以降のソフトウェアの公開に際してストールマンは、著作権を主張しライセンスに利用する際の決まりを書くようになり、これがコピーレフトへと繋がっていった。
つまり、利用権を共有するための仕組みとして、著作権を放棄するのではなく、ライセンス(利用許諾)の形で共有と共同的な創造活動を保護する方法を採る。すなわち、「著作権は私が有していて複製・改変・配布(販売)には私の許可がいるのだが、利用権を共有して発展させるという意図に反しないならいつでも誰に対しても許可する」という形態を採る。
その様な仕組みには、
- 「コピー/改変した共有物を共有的な状態から、独占的な状態へ移行させる事」を一定の条件の元に誰にでも許すパブリックドメインに近い仕組みと、
- 「独占的な状態への移行を許さない」より強い共有的な仕組みがある。
後者の「独占的な状態への移行を許さない」強い共有の仕組みは、特にフリーソフトウェア財団 (FSF) によって(コピーライトに対する)コピーレフトと呼ばれている。しかし、コピーレフトはコピーライトを否定するものではない。通常コピーライトと言ったとき、これは著作物を独占的に使用するための著作権法上の権利を意味する。これに対し、コピーレフトは共有を前提にした著作と著作者の保護を行なうために著作権法を利用している。
[編集] ライセンス種別
コピーレフトの考えが導入されているライセンスには以下のようなものがある。
- GNU General Public License - GNU の一般的ライセンス
- GNU Lesser General Public License - GNU の弱い一般的ライセンス
- Mozilla Public License - Mozillaプロジェクトのライセンス
- フリーソフトウェアライセンス
コピーレフトではないフリーソフトウェアライセンスの例としては以下の物がある。
- Q Public License - Qtに適用されたライセンス
- X11 License
- BSD License
また、コピーレフトの概念をプログラム以外のものに適用しているライセンスには以下のようなものがある。
- Open Content License
- GNU Free Documentation License - ウィキペディアに投稿された文書にも適用されている
[編集] その他
GNU GPL以前に、ストールマンが作ったEMACS専用のライセンスがあり、これを元に一般的なプログラムに使える形にかえたものが、GNU GPLの始まりである。