サクソルン
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サクソルン(saxhorn)は、1843年頃にベルギーの管楽器製作者アドルフ・サックスによって考案された一連の金管楽器群である。当初は7種類が製作され、これらは全て円錐状の管を持ち、サクソフォーンと同様に音色の統一が図られており、また、その全てに3つのピストン式の弁(バルブ)が持たされた。
目次 |
[編集] サクソルンの歴史
[編集] 南北戦争時代のサクソルンバンド(軍楽隊)[1]
サクソルンが目的通り使用されたのは、南北戦争時代の米国軍楽隊である。米国では南北戦争以前から軍楽隊が組織されていたが、初期には鼓笛隊と呼ぶべき形態であった。南北戦争時には、オバー・ザ・ショルダー・サクソルン(Over the shoulder saxhorn:OTS)と呼ばれるベルが後ろ向きのサクソルンとドラムを組み合わせた軍楽隊が多く組織された。音量が大きく、行進のとき先頭に立つ軍楽隊の音が、後方に聞こえる必要があったため、こうした楽器が使用された。
南北戦争が終了すると、軍楽隊はコンサートバンドとして活躍するようになり、ステージ上で演奏するためには、オバー・ザ・ショルダー・サクソルンは不都合であり、次第に上方あるいは前方にベルを向けた楽器が製造されるようになった。移行期にはベルが前方を向いたものや後方に向いたもの、上方に向いたもの混在していた。1880年代になると、ヨーロッパからの影響から、木管楽器を編成に加える現代の吹奏楽団に近いバンドが発達し、サクソルンバンドは衰退していった。
[編集] ヨーロッパでの発達
サクソルンの活躍の場は、主に吹奏楽団の中であった。サクソルンが開発される以前、特にフランス革命勃発の1789年にパリで国民軍楽隊が編成された。これが、周囲の諸国に影響を与え、イギリス、ドイツなどでバンド活動が盛んになった。この頃の楽器は、金管楽器でもキー付きの楽器であり、音色の統一、イントネーションなどに問題があった。1838年にドイツのウィーブレヒトがバルブシステムを改良した楽団を編成、その後1845年サックスがサクソルンを発表し、それが取り入れられることとなった。バンドの技術をあげるきっかけになったのが、1867年パリ博覧会を記念した国際軍楽隊コンテストであり、楽器の改良も進んだ。
[編集] フランス
サックスが移り住んだフランスでは、パレ(Pares) が1898年『吹奏楽編曲法』'Traite d' Instrumentation et d' Orchestration a l' Usages des Musique Militaires' の中に、フランスのバンドの標準編成を示しているが、サクソルンをフルセットで備えるように指示している。パレは、ギャルド・レプブリケーヌ軍楽隊の隊長であったが、パレの2代後の楽長であるデュポン(Dupont) が1927年に就任したが、2つの標準編成表のうち、金管楽器の部分のみ示す。
1898 Pares | 1927 Dupon | ||||
---|---|---|---|---|---|
大編成 | 中編成 | 大編成 | 中編成 | 小編成 | |
コルネット | 4 | 3 | 2 | 2 | 1 |
トランペット | 3 | 2 | 4 | 3 | 3 |
ホルン | 4(必要時) | 0 | 4 | 2 | 0 |
トロンボーン | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 |
E♭ビューグル | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 |
B♭ビューグル | 3 | 3 | 4 | 3 | 3 |
E♭アルト | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
B♭バリトン | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 |
B♭バス | 6 | 6 | 4 | 3 | 2 |
E♭コントラバス | 2 | 2 | 1 | 1 | 0 |
B♭コントラバス | 3 | 2 | 3 | 2 | 2 |
総人数 | 81 | 53 | 85 | 55 | 35 |
サクソルンを多く備えたバンドを想定した作品として、フローラン・シュミット(Florent Schmitt) の「ディオニソスの祭り」Dionysiaques, Op 62 は特記すべき作品である。1913年にギャルド・レプブリケーヌ軍楽隊のために作曲され、1925年に初演された。第2次大戦後は、米国の影響を受け、アルトホルン、バリトンホルン、E♭バスが削除されたりした。しかし、年代により揺り戻しもあり、サクソルン属の取り扱いには注目したい。
フランスのサクソルンで忘れてはならないのは、フレンチチューバである。チューバのページにフレンチチューバについて少し触れられているが、ここでもサクソルンとしての側面について、ついて触れる。フレンチチューバは、バスサクソルンに分類される楽器だが、B♭ではなく一音高いC管である。ペダルトーン領域まで半音階が演奏できるように6本のバルブを備えている。フランスでは、19世紀前半低音金管楽器はセルパン、オフィクレイドが担当していた。これに代わる楽器としてバスサクソルンが使用され、1892年に6バルブのC管のフレンチチューバが成立し、徐々に広まったとされている。その後、1960年代頃までは、フレンチチューバが使用されていたが、求められる音量が大きくなるにつれ、ドイツ、アメリカ式の大きなチューバが使用されるようになった。
現在フランスでは、ユーフォニアムとは違うバスサクソルンを育てようとする動きもあり、コンペンセーションシステム・スプリング式トリガを組み込んだモデルも発表されている。フランスで学んだ日本のサクソルンバス奏者のインタビュー1インタビュー2が現在の状況を知る上で有用である。
[編集] サクソルンの名称
この呼称は現在でもロータリー式のバルブを持つものを含めて当初のサクソルンと形状の似た楽器の一群を指すために用いられる。これらの楽器はイタリアではフリコルノ(flicorno)と呼ばれる。また、朝顔(ベル)が前を向くビューグルに対して、上向きの金管楽器を指すこともある。
サクソルンを含め、サクソルンから派生した楽器をサクソルン属と呼ぶ。リップリードの金管楽器で、音程調節機構の部分を除き、ほとんどが円錐管で形成されている楽器と考えて良い。サクソルン属には、コルネット、フリューゲルホルン、アルトホルン/テナーホルン、バリトンホルン、ユーフォニアム、チューバが含まれる。
[編集] サクソルンの種類
- コントラルト・サクソルン(サクソルン・コントラルト saxhorn contralto)
- アルト・サクソルン(サクソルン・テノール saxhorn ténor)
- バリトン・サクソルン(サクソルン・バリトン saxhorn baryton)
- 現在の「バリトン」と呼ばれる金管楽器に近い形状を持ち、この原型とされる。変ロ調(B♭管)の移調楽器で、記譜よりも1オクターブと長2度低く演奏される。コントラルト・サクソルンの約2倍の管の長さを持つ。イタリアではフリコルノ・テノーレと呼ばれる。『ローマの松』でバンダに用いられる楽器の1つである。
- バス・サクソルン(サクソルン・バス saxhorn basse)
- コントラバス・サクソルン(サクソルン・コントルバス saxhorn contrebasse/サクソルン・ブルドン saxhorn bourdon)
- かつて日本では「中バス」「大バス」と呼ばれた楽器。「中バス」は変ホ調(E♭管)の移調楽器で、記譜よりも1オクターヴと長6度低く演奏される(イギリスの場合)。「大バス」は変ロ調(B♭管)の移調楽器で、記譜よりも2オクターヴ低く演奏される(イギリスの場合)。現在のアップライト型の(広い意味での)チューバの原型ともされるが、現在のチューバはこれらのサクソルンよりもはるかに巨大な楽器であり(管長と調は同じ)、その多くは4つ以上のバルブを持つ。
元来どの楽器も上記のように移調楽器として書かれてきたが、近年、低音楽器にあっては、他の低音金管楽器同様、実音で書かれることが原則となってきている。
[編集] 特徴
サクソルンの特徴は、変ロ(B♭)と変ホ(E♭)の2種類に集約された調性と、大きさの異なるそれぞれの楽器の間での統一感のある音色である。サクソルンに由来するとされる多くの楽器は、より良い音質と吹奏感を求めて改良の重ねられた現在では、その音色を当初のものとは異にしていると推測されるが、考案者の意図でもあるこれらの特徴は完全には失われること無く、とくにイギリス・スタイルの金管バンドにおいてオルガンの様な重厚な音を生み出している。
[編集] 脚注
- ^ Band Music from the Civil War Era: ISBN 0-933126-60-3