サリチル酸
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サリチル酸 | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | 2-ヒドロキシ安息香酸 |
別名 | |
分子式 | C7H6O3 |
分子量 | 138.12 g/mol |
組成式 | |
式量 | g/mol |
形状 | 無色の針状結晶 |
CAS登録番号 | 69-72-7 |
SMILES | C1(O)=C(C(O)=O)C=CC=C1 |
性質 | |
密度と相 | 1.44 g/cm3, 固体 |
相対蒸気密度 | 4.8 (空気 = 1) |
水への溶解度 | 0.2 g/100 mL (20 ℃) |
への溶解度 | g/100 mL ( ℃) |
への溶解度 | g/100 mL ( ℃) |
融点 | 159 ℃ |
沸点 | 211 ℃/20 mmHg |
昇華点 | 76 ℃ |
pKa | 2.97 |
pKb | |
比旋光度 [α]D | |
比旋光度 [α]D | |
粘度 | |
屈折率 | 1.565 |
出典 | ICSC |
サリチル酸(—さん、salicylic acid)は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基を併せ持つ物質で、示性式は C6H4(OH)COOH、CAS登録番号は 69-72-7。無色の針状結晶である。隣接するヒドロキシ基の影響でカルボン酸としては比較的強い酸である。そのまま飲むと胃穿孔を起こし腹膜炎の原因となる。酸性を弱め胃を通過できるようにしたものがアセチルサリチル酸である。
目次 |
[編集] 発見
1819年にイギリスの神父エドワード・ストーンが柳の解熱成分にサリシン(サリチル酸の配糖体)と名付け、1838年にイタリアのラファエレ・ピエリがサリシンを分解してサリチル酸を発見した。名称は柳の学名 Salix alba にちなむ。日本でも「歯痛には柳楊枝」として知られていた。
[編集] 製法
1853年にマールブルグ大学のヘルマン・コルベはサリチル酸の構造を解明し、その合成法を確立した。ナトリウムフェノキシドに高温、高圧(5–6 気圧、125 ℃)で二酸化炭素を反応させるとオルト位にカルボキシル基が導入されたサリチル酸ナトリウムが合成される。サリチル酸ナトリウムに強酸を作用させるとサリチル酸が遊離する。これをコルベ・シュミット反応という。
一方、カリウムフェノキシドに同条件で二酸化炭素を反応させるとパラ位にカルボキシル基が導入されたパラヒドロキシ安息香酸が 90% 程度生じる。これのメチルからブチルエステルはパラベンとして防腐剤に用いる。
[編集] 存在
サリチル酸は天然にも広く認められる。植物内(特に果実)にエステル体であるサリチル酸メチルの状態で存在しており、これは消炎剤に用いられる。植物では、サリチル酸がウイルスやバクテリアなど様々な病原微生物に対する抵抗性(全身獲得抵抗性)を誘導する鍵となる物質として働くことが知られ、一種の植物ホルモンともされる。分子生物学による植物免疫研究の対象である。
[編集] 鎮痛剤
19世紀には、苦味が強い柳エキスに代わって鎮痛剤に使われたが、強い胃痛という副作用があった。その後、副作用がより少ないアセチルサリチル酸(アスピリン)に取って代わられることになる。
日本では、明治12年(1879年)から飲食物の、明治36年(1903年)以降は酒の防腐剤として用いられていたが、WHO の勧告や世論の反対運動などによって昭和44年(1969年)に全面禁止となった。また、腐食作用を利用してイボ取りの薬の主成分となっている。