アスピリン
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アセチルサリチル酸 | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | 2-アセトキシ安息香酸 |
別名 | アスピリン |
分子式 | C9H8O4 |
分子量 | 180.16 g/mol |
組成式 | |
式量 | g/mol |
形状 | 無色固体 |
CAS登録番号 | [50-78-2] |
SMILES | |
性質 | |
密度と相 | 1.40 g/cm3, 固体 |
相対蒸気密度 | (空気 = 1) |
水への溶解度 | 0.46 g/100 mL (20 ℃) |
への溶解度 | |
への溶解度 | |
融点 | 136 ℃ |
沸点 | ℃ |
昇華点 | ℃ |
pKa | 3.49 (25 ℃) |
pKb | |
比旋光度 [α]D | |
比旋光度 [α]D | |
粘度 | |
屈折率 | |
出典 |
アスピリン(Aspirin)とは、代表的な消炎鎮痛剤の一つで非ステロイド性抗炎症薬の代名詞とも言うべき薬剤。
ドイツのバイエル社が、一般名アセチルサリチル酸 (Acetylsalicylic acid) に対し付けた名前である。日本薬局方では、アスピリンが正式名称になっている。消炎、解熱、鎮痛作用や抗血小板作用を持つ。
サリチル酸を、無水酢酸によりアセチル化するとアスピリンが得られる。
目次 |
[編集] 歴史
ヒポクラテスの時代には柳の木が解熱、鎮痛作用を持つ事が知られていた。
19世紀には柳の木からサリチル酸が分離された。その後、アスピリンの出現まではサリチル酸が解熱鎮痛薬として用いられた。しかし、サリチル酸には強い胃腸障害があった。1897年ドイツの化学会社バイエル社のフェリックス・ホフマンによりサリチル酸をアセチル化することで副作用の少ないアセチルサリチル酸が合成された。アスピリンは世界で初めて合成された医薬品である。1899年3月6日にバイエル社によってアスピリンは商標登録された。しかし、第一次世界大戦のドイツの敗戦で連合国(大日本帝国を含む)に商標は取り上げられた。
第一次世界大戦後のアメリカでは禁酒法や大恐慌などによる社会的ストレスからアスピリンを服用する人々が激増しアスピリンエイジという言葉が生まれたほどであった。また、アスピリンには血管を拡張する効果もあるため、少量のアスピリンを毎日摂取することで脳血栓や心筋梗塞などを予防できるといわれている。特にアメリカでは疾患を持っていなくても日常的にアスピリンを飲む人が多く、現在でもアメリカはアスピリンの大量消費国であり年間に16000トン、200億錠が消費されている。但し、アスピリンは過剰摂取すると胃潰瘍などの諸症状を引き起こす。さらに、鎮痛作用が仇となって、多くは致命的な合併症となって始めて病に気付く事が多いため、注意が必要である。アメリカでは年間で10万人弱が副作用の胃痛で入院し、2000人が死亡していると言われている。アメリカにおける薬の副作用被害の4分の1を、アスピリンが占めているとも言われている。
[編集] 作用機序
アスピリンはシクロオキシゲナーゼ活性を阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制する。炎症、発熱作用を持つプロスタグランジンが抑制される事で抗炎症作用、解熱作用を発現する。このときの用量は 330 mg 1日3回である。また、シクロオキシゲナーゼは血小板の作用に関係するトロンボキサンの合成にも関与している。アスピリンはトロンボキサン作用も抑制するため、抗血小板作用も有し、81-100 mg 1日1回の投与を抗血小板剤として行う事がある。
プロスタグランジンを発見しアスピリンの抗炎症作用のメカニズムを解明した薬理学者のジョン・ベイン(英国)、ベンクト・サムエルソン(スウェーデン)、スーネ・ベルクストローム(スウェーデン)の3人は1982年にノーベル医学生理学賞を受賞した。
[編集] 合成法
アスピリンは以下の手順で合成される。
フェノールを高温と高圧の下で二酸化炭素と水酸化ナトリウムと反応させて、サリチル酸の二ナトリウム塩を合成する。このカルボキシ化はコルベ・シュミット反応 (Kolbe-Schmitt reaction) と呼ばれ、フェノールの互変異性体であるエノラートアニオンの、二酸化炭素に対する求核付加反応である。続いて二ナトリウム塩を希硫酸で中和し、サリチル酸を遊離させる。
このサリチル酸に無水酢酸を作用させてアセチル化し、アスピリンを得る。
[編集] 副作用
胃障害が生じる可能性がある。イオン補足により胃細胞に取り込まれたアスピリンがプロスタグランジン生産を抑制し、結果胃酸分泌制御・胃粘膜保護も同時に抑制されるためである。この副作用を抑制するためにアスピリンを制酸剤であるダイアルミネートで包んだ薬が「半分は優しさで出来ている」のキャッチコピーで有名になったバファリンである
また気管支喘息の素因を持つと気管支喘息の発作が誘発されることがあり、アスピリン喘息と呼ばれる喘息を生じ得る。風邪(特にインフルエンザや水痘)に感染した小児が使用すると、ライ症候群を起こすことがある。肝障害を伴った重篤な脳障害で死に至る危険があり、小児は服用するべきでない。小児の解熱鎮痛薬としては、アセトアミノフェンなどがある。
[編集] 参考文献
Charles C. Mann(原著), Mark L. Plummer(原著), 『アスピリン企業戦争―薬の王様100年の軌跡』平沢 正夫 (翻訳),ダイヤモンド社 ; ISBN 4-47-886009-2