スクーター
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スクーター (scooter) とは、前後輪の間に低くえぐられたスペースを設け、足を揃えて置ける床板を備え、8インチから14インチ(20~35 cm)程度のタイヤを用い、椅子の下にエンジンやモーターを抱える特徴がある二輪車のことである。
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[編集] スクーターの起源
起源には諸説ある。1910年代に発売されたアメリカAutoped社のものは、4ストローク125cc単気筒エンジンに前後10インチホイールを備え25km/hでの走行が可能であったが、構造的には大型キックボードの前輪にエンジンを一体化させ直立姿勢で運転するような乗り物であり、直系の祖先であるかどうかは意見が分かれる。
1919年のイギリスABC社のSkootamotaはアンダーボーンフレームの完全なステップスルーで女性をターゲットに発売され、4ストローク125cc単気筒エンジンで40km/hを出せたようだ。エンジンはサドル部の直下に搭載されているが、これを覆うカバーの類は設けられていない。
1920年代前半にはSkootamotaに似たコンセプトのオートバイが各国の複数のメーカーから発売されている。
1920年のイギリスGloucestershire Aircraft社のUNIBUSには現在のスクーターで言うカウルが全体に装備され、メカニカル部分はほぼカバーされるようになっている。
1930年代にはアメリカのCushman、Powell、Salsbury他数社が外装で覆われた小排気量エンジンと小径ホイールを備えた、スクーターとしてほぼ完成されたスタイルを持つオートバイを販売している。
現在のスクーターのスタイルを決定づけた機種は1946年に製造が開始されたイタリア・ピアジオ社製のVESPA 98であると考えられがちだが、前述の基本的なスタイル要素はベスパ登場以前にすでに完成されていた。
[編集] スクーターの特徴
スクーターには、一般的なオートバイ(以下単にオートバイ)と異なるいくつかの特徴がある。
[編集] 機械的構造
- オートバイはホイールベースの中心付近に重量物(エンジン、トランスミッション)を置き、チェーン等を介してスイングアームに取り付けられた後輪を駆動する。そのため重心が車体の中央近くにあることになる。一方スクーターの多くは、スイングアームにエンジン、トランスミッション、後輪等の駆動系を一体化した「ユニットスイング」と呼ばれる機構を採用している。そのため重心が後よりになり後輪のバネ下荷重が大きくなり、また比較的小径のタイヤを用いるため、路面の凹凸を拾いやすく直進性も劣る。
- スクーターにとって大きな特徴になるステップスルーを可能にするために、フレーム形状はある程度限定される。そのためオートバイで採用されるダイヤモンド型やクレードル型といった自由度の高いフレーム形状を用いることができないので、車体剛性は限定されたものになる。
- 多くのオートバイでは膝でタンクを挟むことにより操作性を増すことが出来るが、スクーターではこのニーグリップするためのタンクがないため、車体に対する人体の一体感が乏しい。ただし、車種によっては座席前方中央部に突起があり、下半身と車体を一体化しやすくしたものもある。
- 車体はフルカバードされており、内部機構へのアプローチするには車体を覆うカウルを外す必要がある。このためカウルを持たないオートバイに比べると整備性が低い。
- エンジンをおくスペース等にも制限があるので、オートバイに見られるV型2気筒、直列2気筒、直列4気筒といった多気筒のエンジンを搭載することが難しく、多くは軽量かつ小型な単気筒のエンジンが採用される。
- スクーターでもこれらの問題に対するメーカーの回答として、一部の大排気量のスポーツタイプにはユニットスイングを用いず比較的大径のタイヤを履くものが見られ、エンジンも2気筒程度のものが採用される ([1])。
[編集] ユーティリティ
- 利便性はスクーターが圧倒的に高い。標準で大きな収納スペースを持つ場合が多く、ヘルメットや雨具だけではなくさまざまな物品を収納することができる。そのため、買い物、通学通勤のみでなく、ツーリングにも便利である。
- 特にビッグスクーターはフルカバーされた車体と大型のスクリーンのために、雨風を遮る能力が高い。オートバイでこれらを実現するためには、別にカウル、バッグなどを整備する必要がある。
- 内部機構が露出していないため普段着に近い状態でも乗れる。だからといって、ライダーの装備が重要であることはオートバイと変わりがない。
- メットインスペースはスクーターの利便性を象徴するものである。これに先鞭をつけたのが1985年のヤマハ・ボクスン (2ストローク単気筒、49 cc、5.2 ps)であった。この流れは1987年のホンダ・タクト(「メットイン・タクト」2ストローク単気筒、49 cc、5.8 ps)に引き継がれ、現在販売されている50 cc以下のクラスの小型スクーターではヘルメットを収納することのできるスペースがあることが常識である。近年では250 ccクラスの中型車はヘルメットを二つ格納できるのが普通となっている。この場合格納スペースの容積は60から80リットルに及ぶ。オートバイにはヘルメットを掛けるフックが用意されることが多いが、ヘルメットはむき出しのままである。一方メットインスペースは施錠できるので、ヘルメットを雨からだけでなく盗難からも守ることができる。更に、高速道路の通行券などを収納するスペース、買い物袋を下げるためのフックが用意されるなど、利便性が高められている。
[編集] 日本のスクーター史
[編集] 黎明期
日本で本格的に普及した最初のスクーターは、1947年に富士産業(現:富士重工業)が製造を開始したラビットである。翌1948年には中日本重工業(現:三菱重工業)がシルバーピジョンの販売を開始した。
当初は5インチ程度の小径タイヤに2馬力の非力なエンジンで、サスペンションもごく単純なものしか備えられていなかったが、国内の道路状況の改善と共に急速に進化し、国民の足として活躍するようになった。
1950年代には三光工業のジェット、平野製作所のヒラノ、東昌自動車工業のパンドラ、宮田製作所のミヤペットなど大小各社が参入したが、スクーター市場はラビットとシルバーピジョンの二社がリードしており、メグロやキャブトンといった戦前からのオートバイメーカは参入しなかった。
現在もオートバイの製造を行っているメーカーとしてはホンダがジュノオ、ヤマハがSC-1とそれぞれ発売した。ジュノオはFRPを用いた全天候型のボディと片持ち式足回り(ジュノオKB型、1954年)、バダリーニ型無段階変速機(ジュノオM85型、1962年)などを装備、1960年のSC-1は当時のライバル、ラビット・スーパーフロー型を上回る動力特性(2ストローク、10.3ps)と流体式トルクコンバータを備え、ジュノオ同様に片持ち式足回りを採用した。だが1958年発売のスーパーカブがその低価格と高性能により3年あまりで生産台数100万台を突破した時代であり、両社ともに続く製品をスクーター市場に投入することはなかった。
[編集] 衰退
1960年代に入ると、四輪自動車の普及とスーパーカブなどの台頭に伴いスクーター市場は減少した。シルバーピジョンが1964年に、ラビットが1968年に生産を終了すると、日本国内にはスクーターを製造販売するメーカーが存在しない時期が訪れる。
[編集] ソフトバイクブーム
その後、1976年にホンダはホンダ・ロードパルを発売し、簡単操作、軽量、低価格を売り物にして主婦層への浸透を図った。これに対抗して1977年にヤマハはヤマハ・パッソルを発売した。これらは形態的にはモペッドとスクーターの中間に位置するものだが、カブなどの実用車とは一線を画すおしゃれなアンダーボーンの車体に、自動クラッチ、自動変速を備えており、始動方式もゼンマイ式など工夫されていた。またブレーキ系統も実用車や従来のオートバイと異なり、左レバーで後輪ブレーキを操作する自転車式であった。出力は2.2 ps(ロードパル)、2.3 ps(パッソル)と極めておとなしいものであったが、自転車感覚で乗れることが大いに受けブームを巻き起こした。中でもパッソルはステップスルーを採用、女性がスカートをはいたまま足をそろえて乗れることをアピールし、これがスクーターブームの先駆けとなった。
[編集] 復活
1980年にホンダ・タクトが登場すると本格的にスクーターが復活した。ラビット時代のスクーターは2006年現在でいう第二種原動機付自転車(普通二輪小型限定免許が必要)から軽二輪(普通二輪免許が必要)が主であったが、免許制度の変遷や、車体・エンジン・トランスミッションの性能向上によって、第一種原動機付自転車(50 cc)の製品がほとんどとなった。同時に50 ccの原付車の国内市場は、実用車とわずかな趣味車を除くと、ほぼスクーターに占められるようになった。
[編集] 大型化
1990年代からは、スクーターの大型化がみられるようになった。原付と異なり道路交通法上の制限がなく、従来のオートバイより利便性が高く、都市での利用に適した250 cc程度のスクーターが人気を博し、2003年には(50cc超の)自動二輪車の出荷台数の内6割以上がスクーターになった。これがビッグスクーターブームである。ブームを受けて、AT限定免許も新設されることとなった。
ビッグスクーターブームの先駆けとなったのは1986年のホンダ・フュージョンで、スペイシー250のエンジンと足回りを移植したものである。2006年現在では、国内4メーカの内カワサキを除く3社が幅広い商品ラインを展開している。
ブームが成熟するなかで、より個性的な乗り方を模索する若者らを中心にラッコ乗りと呼ばれる乗車方法が考案された。これは、通常、ビックスクーターの座席にはタンデムシートと段差が付いているものが多いが、これを平らにしたシートに交換し、座面全体を使い体を仰向けにして座り、足を前方に投げ出すように座り運転するものである。その姿がさながらラッコのようなことからこの名がついた。ラッコ乗りをする若者をラッコライダーと呼ぶ。
[編集] スクーターの区分
日本国内において一般にスクーターと言うと多くの人が原付免許で乗れる50ccクラスを連想し、実際そのクラスが主流であったが、近年はそれ以上の排気量を持つ車体が市場で増加しており、車検の義務が無く比較的維持費が抑えられる250ccクラス(125ccを超え250cc以下)も人気が高くなっている。特に、250ccクラス~400ccクラスのスクーターをビッグスクーターという。なお、50ccを超え125cc以下のスクーターをミドルスクーター、400ccクラス(250ccを超え400cc以下)以上をメガスクーターと呼ぶこともあるが、一般的な表現ではない。また、大型免許が必要な400cc超のスクーターをあえて大型スクーターと呼ぶ場合もある。
2005年6月1日より普通二輪免許・大型二輪免許にもAT車限定免許が新設されたため、スクーター市場が一層活気付くのではないかといわれている。ただし現時点では大型AT二輪免許で乗れる二輪車は現時点での国内販売車両に基づき排気量650cc以下のものに制限されている。なお、免許制度から見ても教習所での実習時間が若干短いなど、AT車の操作は比較的簡便とされるものの、運転操作が楽である事は運転そのものが簡単になる事ではなく、路上で要求される運転技能にMT車とAT車の差異はない。
[編集] スクーターすなわちAT車という誤解
日本国内ではMT(手動変速)車とAT(自動変速)車を併売していたラビットスクーターが生産を終了した後、復活したスクーターはごく一部の特殊なものを除けば、ベルト式CVTを基本とした無段変速の車種のみをラインナップした。そのため「スクーターはオートマチックである」とする向きがあるが、この認識は間違いであり、ヨーロッパ、インド、アジアに於いてマニュアルトランスミッションのスクーターはいまだポピュラーな存在である。
[編集] 輸入スクーター
1980年代以降の日本国内のスクーター市場はほぼ完全にヤマハ、ホンダ、スズキの三社で寡占されていたが、以前より輸入されていたピアジオのベスパに加え、キムコやSYMなど台湾メーカーの製品が小排気量クラスの市場に進出しつつある。