ストレプトマイシン
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ストレプトマイシンは抗生物質の1つである。最初に発見されたアミノグリコシド類であり、結核の治療に用いられた最初の抗生物質である。放線菌の一種 Streptomyces griseus に由来する。ストレプトマイシンはタンパク質合成を阻害することによりバクテリアの成長や代謝を停止させる。具体的には、バクテリアのリボソーム上の 23S rRNA に結合し、代謝を担うあらゆるタンパク質の合成、つまりリボソーム上でのポリペプチド鎖の合成の開始を阻害する。ヒトは真核生物であり、原核生物であるバクテリアとは異なる構造のリボソームを持つため、選択的にバクテリアに効果を与える。ストレプトマイシンは経口で投与できず、筋肉注射を行わなければならない。
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[編集] 歴史
1943年10月19日、ラトガース大学 (Rutgers University) のセルマン・ワクスマンの研究室の卒業研究生、アルバート・シャッツ (Albert Schatz) によって最初に単離された。ワクスマンらはアクチノマイシン、クラバシン (clavacin)、ストレプトスリシン (streptothricin)、ストレプトマイシン、ネオマイシン、フラジシン (fradicin)、カンジシジン (candicidin)、カンジジン (candidin) など数々の抗生物質を発見している。これらのうちストレプトマイシンとネオマイシンの2つは、多くの伝染病の治療に広く適用されている。ワクスマンは抗生物質の英語 antibiotics の考案者としても知られる。
ストレプトマイシン発見者としての詳細と名声がシャッツによって主張され、これは訴訟にまで発展した。シャッツはストレプトマイシンの発見者ではあるが、ワクスマンの指導のもとストレプトマイシンの研究を行うよう命じられていた卒業研究生にすぎず、ワクスマンの研究室の技術、装置、設備を使っていたことが論争の原因である。シャッツを1952年のノーベル賞受賞者に含めるべきという主張もあった。しかし委員会は、受賞理由はストレプトマイシン発見の功績だけでなく、発見につながった方法論や技術、および他の多くの抗生物質の発見を含めたものであるとして、この主張を退けた。
この訴訟は、ワクスマンとシャッツがストレプトマイシンの共同発見者であるとみなすという公式判定が下り、和解により終息した。シャッツは1994年、74歳のときにルトガース賞を受けた。この論争によって、ワクスマンとシャッツは共にその経歴に汚点を残した。論争は今日でも続いている。
[編集] 適応
- 結核。他の抗結核薬と併用される。
[編集] 副作用
他のアミノグリコシド系抗生物質と同様に第VIII脳神経、腎臓に対する毒性を持つので、副作用として難聴、腎障害等が現れる。したがって投与に際しては聴覚機能、腎機能検査の併用が必要であり、副作用の兆候が現れたら投与を中止すべきである。
かつては、ストレプトマイシンによる難聴は「ストマイ難聴」と呼ばれた。
[編集] 参考文献
- Kingston, W. (2004). "Streptomycin, Schatz v. Waksman, and the Balance of Credit for Discovery". J Hist Med Allied Sci. 59(3), 441-462. DOI: 10.1093/jhmas/jrh091
- Lawrence, P. A. (2002). "Rank injustice". Nature 415 (6874), 835-836. DOI: 10.1038/415835a PubMed
- Mistiaen, V. Time, and the great healer. The Guardian, Saturday 2 November 2002. ストレプトマイシン発見の隠された歴史(英語)。