ツェッペリン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ツェッペリン(Zeppelin)とは、20世紀初頭、フェルディナンド・フォン・ツェッペリン伯爵が開発した硬式飛行船の一種のことをいう。
ツェッペリンの設計した船体は非常に成功し、その結果ツェッペリンという語は慣用的にあらゆる硬式飛行船のことを指すようになった。ツェッペリン飛行船は一般に「小型飛行船(blimp)」と呼ばれる非硬式飛行船とははっきり見分けられる。
目次 |
[編集] 概要
ツェッペリン飛行船は空気よりも軽い気体を用いた航空機で、空気力学的外皮を被せた剛体枠組構造と、セルと呼ばれる、空気より軽い水素ガスを詰め、完全に枠内に収めた個別の気嚢数個を使用している。外皮は主にアルミニウムなどの軽金属が使われた。乗客・乗員の乗る比較的小型の居住空間が枠組の底部に取り付けられている。動力源は、数基のレシプロエンジンである。
[編集] 歴史
20世紀初頭に、ツェッペリン伯爵は飛行船の製造事業とともに、DELAG(Deutsche Luftschiffahrt Aktiengesellschaft)という世界初の商業航空会社を創立した。両方の会社とも本拠地はドイツのフリードリヒスハーフェンにあった。
後に、ツェッペリン伯爵はツェッペリン社の代表をフーゴー・エッケナーと交代した。エッケナーは宣伝の名人であるとともに極めて技量の優れた航空機の機長だった。ツェッペリン社がその絶頂期に達したのはエッケナーの功績によるところが大きい。
ツェッペリン社は1930年代までは順調に経営され、ドイツからアメリカ合衆国や南米に至る長距離空路を擁した。しかし、大恐慌とナチス党の台頭が会社に災いした。特に、エッケナーとナチスとは犬猿の仲であった。そのため、ツェッペリン社はドイツ政府により1930年代なかばに国有化された。
また、従来の水素ガスの替わりに、爆発の危険がなく安全なヘリウムガスを使用する予定だった新造船ヒンデンブルク号は、独米関係の悪化によって、当時唯一のヘリウムガス生産国であったアメリカからの(アメリカは飛行船の軍事転用を恐れていた)供給が滞り、水素ガスを使用しなければならなかった。 1936年、同社の旗艦であるヒンデンブルク号は、アメリカのレイクハースト飛行場に着陸作業中、火災を起こし墜落、多数の犠牲者を出した。これにより、ツェッペリン飛行船の定期旅客航路の運航は中止され、ツェッペリン社は惨事の数年後には事実上活動を停止した。 事故当時は水素ガスの使用がこの事故の原因とされたが、現在ではこの説は否定されている。(→ヒンデンブルク号爆発事故)
しかし、約20年間の航空会社の私企業としての運営の間、少なくとも幾分かは利益を生み、ヒンデンブルク号の事故が起こる前までは完全な安全記録を保持していた。
なお、第一次世界大戦においては、ツェッペリン飛行船は偵察機のほか、英国に対する長距離爆撃機としても使用された。戦略的に有効な打撃を与えることはなく、主に恐怖爆撃が中心であった。また、飛行船は低速で大きく、極めて燃えやすい水素浮揚ガスを使用していたため、イギリス軍が対空防御体勢を固めると、対空砲や飛行機からの銃撃の容易な的となり、撃墜されることも多かった。
ツェッペリン飛行船のような硬式飛行船は、たとえそれがツェッペリン社と縁が無くともしばしばツェッペリンと呼ばれた。この種の飛行船はアメリカ、イギリス、イタリアおよびソ連で1920年代から1930年代に掛けて製造された。致死墜落事故が相次いだため製造は中止された。
[編集] ツェッペリンNT
ツェッペリンNT(Zeppelin NT)は、1990年代にドイツのツェッペリン・ルフトシフ・テクニーク社によって開発された飛行船。NTはドイツ語で「新技術 Neuer Technologie」を意味する。
その名の通り、ツェッペリン型硬式飛行船を最先端の技術で現代に継承することを目的としており、外皮膜を新素材の化学繊維、骨格を炭素繊維で組み上げ軽量化しているほか、エンジン配置や制御方法を工夫し、従来の飛行船よりも地上要員を少なくして運用できるなどの次世代飛行船の名にふさわしい特徴を持つ。全長75m、乗員2名、乗客12名、巡航速度80km/h、最大航続距離900kmの性能を持つが、将来的には積載能力や航行能力の拡大も可能。
1997年9月に試作機が初飛行をし、2006年1月現在、日本飛行船が日本で保有する1機を含め3機が存在する。
[編集] ツェッペリン飛行船
数多く生産されたツェッペリン式飛行船の中でも、Lz-127とLz-130は機体そのものの愛称としてグラーフ・ツェッペリン(ツェッペリン伯爵号)を冠された、ただ2隻の飛行船である。Lz-127は1929年に北半球周遊を行い、336325kmを273時間27分で飛行したとされる。またこの際、日本の霞ヶ浦に寄港している。Lz-130はLz-129ヒンデンブルク号の同型船で、1938年9月に進空したが、その後の開戦とそれによる諸事情の悪化で殆ど運用されること無く解体された。
[編集] 備考
有名なロックバンドのレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)と混同してはいけない;この名称は、「落ちる風船、つまり失敗」を意味する「鉛の(=レッド lead)風船」という表現を、大事故を起こしたヒンデンブルク号のイメージから「ツェッペリン」に置き換えるという軽い冗談から生まれたものである。
またウインドサーフィンのボードにツェッペリン(Zeppelin)という有名な製品がある。
[編集] 参考文献
- 関根伸一郎『飛行船の時代 ツェッペリンのドイツ』(丸善ライブラリー、1993年) ISBN 4621050788
- 柘植久慶『ツェッペリン飛行船』
- (中央公論社、1998年) ISBN 4120027449
- (中公文庫、2000年) ISBN 4122036801
[編集] 外部リンク
- Zeppelin Luftschifftechnik GmbH もともとのツェッペリン飛行船の会社で、同じ設計思想の飛行船を開発し続けている。
- パリエアショー番外編:ツェッペリンの新型飛行船に乗る 同社の飛行船の近況取材
- Cargolifter ツェッペリン式から「ブリンプ」まで各種の改良型を開発している会社
- Advanced Technologies Group この会社は無人飛行機(UAV)や電気通信用の高高度プラットフォームステーション(HAPS)まで様々な製品を開発している
- SkyStation HAPSの開発に集中している会社
- ドイツのツェッペリン博物館
- グラーフ・ツェッペリン号の情報と写真