デジタル信号処理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
デジタル信号処理(-しんごうしょり、Digital Signal Processing、DSP)とは、デジタル表現された信号とその処理方法に関する研究分野である。DSPとアナログ信号処理は信号処理の一部である。DSPには音響信号処理、デジタル画像処理、音声処理の三つの領域がある。
DSPの目標は実世界の連続的なアナログ信号を計測し、選別することである。その第一段階は一般にアナログ-デジタル変換回路を使って信号をアナログからデジタルに変換することである。また、最終的な出力は別のアナログ信号であることが多く、そこではデジタル-アナログ変換回路が使用される。
DSPで実行すべきアルゴリズムはDSP専用のコンピュータを使うことが多い。デジタルシグナルプロセッサという特殊なマイクロプロセッサが使われ、こちらもDSPと略記される。これは DSP向けに最適化されており、リアルタイムで信号を処理する。
目次 |
[編集] DSP領域
DSPにおいて、デジタル信号は以下のような領域に分類される。時系列領域(一次元の信号)、空間領域(多次元の信号)、周波数領域、自己相関領域、ウェーブレット領域である。ある信号の基本的特性を最もよく表す領域の処理手法を取捨選択して処理が行われる。測定機器から得られたサンプルデータ列は時系列領域か空間領域の表現となっている。これに離散フーリエ変換を施すと周波数領域の情報が得られる。これを周波数スペクトルと呼ぶ。自己相関はある信号自身の時間的・空間的に異なる部分との相互相関として定義される。
[編集] 信号標本化
記事 標本化も参照されたい。
コンピュータが広く利用されるようになると共に、デジタル信号処理の必要性も増してきた。アナログ信号をコンピュータ上で利用するには、アナログ-デジタル変換回路 (ADC) でデジタル化する必要がある。サンプリングは離散化と量子化という二つの工程に分けられる。離散化工程では信号を同値類に区分けし、対応する同値の信号に変換する。量子化工程ではその信号の値を有限集合から選択された近似値に置き換える。
アナログ信号を正しく標本化するには標本化定理に従わなければならない。つまりサンプリング周波数は信号のバンド幅の2倍以上でなければならない。デジタル-アナログ変換回路(DAC)はデジタル信号をアナログ信号に戻すのに使用される。デジタルコンピュータはデジタル制御にとって必須の構成要素である。
[編集] 時系列領域と空間領域
時系列領域と空間領域で共通する処理手法はフィルタリングによる入力信号の強化である。フィルタリングは一般に、ある(入力または出力)サンプルについて、その周囲のサンプルを変換することで構成される。フィルタは様々な性質で分類されるが、以下にその例を挙げる。
- 「線形」フィルタは入力サンプル列に線形変換を施す。それ以外のフィルタは「非線形」である。線形フィルタは重ね合わせの条件を満足する。つまり、入力に複数の信号の要素が含まれているとき、線形フィルタを通した出力も同じ複数の信号を同じ線形比率で含んでいる。
- 「因果性」フィルタは時系列上過去のサンプルだけを使って処理を行う。「非因果性」フィルタは時系列上未来のサンプルも使った処理をする。非因果性フィルタは遅延を追加することで因果性フィルタに変換できる。
- 「時不変」フィルタは時系列で変化しない一定の性質を持つ。その他の適応フィルタなどは時系列で変化する。
- 「安定」フィルタと「不安定」フィルタがある。安定フィルタは時間と共にある値に収斂する出力を生成するか、ある範囲の値を生成する。不安定フィルタは発散する出力を生成する。
- 「有限インパルス応答」(FIR)フィルタは入力信号のみを使うのに対して、「無限インパルス応答」(IIR)フィルタは入力信号と共に、それ以前の出力信号も使う。FIRフィルタは常に安定であるが、IIRフィルタは不安定な場合がある。
多くのフィルタはZ領域(周波数領域の上位概念)の伝達関数で記述できる。フィルタは漸化式でも記述できる場合がある。 FIRフィルタの出力は、入力信号とインパルス反応の畳み込みで計算できる場合がある。フィルタをブロック図で表現すれば、ハードウェアを使ってそのアルゴリズムを実装するのに使用できる。
[編集] 周波数領域
信号にフーリエ変換を施すことによって、時系列領域や空間領域から周波数領域に変換することができる。フーリエ変換は信号情報を周波数毎の大きさと位相に変換する。フーリエ変換の結果に対して、各周波数の大きさ成分を二乗してパワースペクトルに変換することが多い。
信号を周波数領域で分析する目的は信号の特性の分析にある。技術者はスペクトルを分析して信号に存在している周波数成分と欠けている周波数成分を知ることが出来る。
いくつかの共通して使われる周波数領域への変換手法がある。例えばケプストラム(cepstrum)は入力信号をフーリエ変換で周波数領域に変換し、それの対数をとって、再度逆フーリエ変換を施す。これにより、非常に弱い周波数成分を強調することができる。 また、自己相関からフーリエ変換によってパワースペクトル密度、またはその逆が成り立つ。Wiener-Khintchineの定理
[編集] 応用
DSPの応用分野は、音響信号処理、オーディオ圧縮、デジタル画像処理、ビデオ圧縮、音声処理、音声認識、デジタル通信などである。特定の例としては、携帯電話での音声圧縮転送、Hi-Fi機器での周波数特性の補正(イコライズ)、天気予報、経済予測、地震データ処理、製造工程の分析と制御、CGアニメーション、MRIなどの医療画像処理、コンピュータグラフィックスなどがある。