フーリエ変換
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フーリエ変換(フーリエへんかん, Fourier transform)は、関数変換を行う線型作用素の一種で、時系列の関数を周波数域の関数へ変換することである。
これにより、関数をフーリエ級数で書き表すこと(すなわち、三角関数の和の形として表現すること)が可能になり、例えば「ある波(関数)について、どういった周波数成分がどの程度含まれるのか」といった事項を調べることができる(後述)。
フーリエ変換(特に高速フーリエ変換)は工学、理学の広い分野で利用されている。具体的には、分光法におけるスペクトル解析やX線散乱実験などの解析、バンド計算などでの実空間⇔逆格子空間の変換などに利用される。
離散フーリエ変換を計算機上で高速で計算できるようにしたのが高速フーリエ変換 (FFT)。特に高速フーリエ変換を使うことにより畳み込みは高速で計算できる。
同じくフーリエ変換と呼ばれるものの、分野によっては係数などに細かな違いを持っていることがあるが、これらは本質的にみな同じものである。
目次 |
[編集] 定義
n 次元ユークリッド空間で可積分関数 f(x), g(ξ) を考える。この時、
(· は Rn の標準内積)を f のフーリエ変換といい、
を g の逆フーリエ変換(フーリエ逆変換)または共役フーリエ変換という。また、この変換によって引き起こされる写像
のこともそれぞれ、フーリエ変換、逆フーリエ変換と呼ぶ。フーリエ変換は L1 の代わりに二乗可積分関数の空間 L2 や急減少関数の空間 S などで考えることもできて、以下の性質を満たす。
[編集] フーリエ変換テーブル
いくつかの重要なフーリエ変換テーブルを以下に示す。 G と H は g(t) と h(t) のフーリエ変換を示す。 g と h は積分可能もしくは連続している関数であることに注意してください。
[編集] 関数関連
入力 | フーリエ変換 角周波数表記 |
フーリエ変換 通常表記 |
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線形性。 |
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時間領域のシフト。 |
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角周波数領域のシフト。2と同等。 |
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もし![]() ![]() ![]() |
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ωをtに書き換えてもフーリエ変換は成り立つ。 |
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フーリエ変換の積分特性。 |
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6と同じ。 |
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9 | ![]() |
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8と同じ。 |
[編集] 二乗可積分関数
入力 | フーリエ変換 角周波数表記 |
フーリエ変換 通常表記 |
注 | |
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10と同じ。,矩形波は理想的なローパスフィルタであり、sinc関数はインパルス応答のフィルターである。 |
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triは三角波である。 |
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12と同じ。 |
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exp( − αt2)はガウス関数である。積分可能にするためRe(α) > 0。 |
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光学で広く使われている。 |
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a>0。 |
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関数自身の変換である。 |
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J0(t)は0のベッセル関数である。 |
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Tn (t) はチェビシェフの多項式である。 |
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Un (t)はチェビシェフの多項式である。 |
[編集] 分布
入力 | フーリエ変換 角周波数表記 |
フーリエ変換 通常表記 |
注 | |
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δ(ω)はディラックのデルタ(デルタ関数)。この分布はフーリエ変換の恒久的変換である。 |
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23とおなじ。 |
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これは3と24から得られる。 |
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これはオイラーの方程式をつかって1と25から得られる(オイラーの方程式)。cos(at) = (eiat + e − iat) / 2.。 |
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1と25から得られる。 |
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nは自然数である。δn(ω) is the nはn次のディラックのデルタ(デルタ関数)である。これは7と24から得られる。 |
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sgn(ω)はsign関数である。7と24から得られる。 |
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29から得られる。 |
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29と同等。 |
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u(t)はヘヴィサイドの階段関数である。1と31と使用。 |
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u(t)はヘヴィサイドの階段関数である。a > 0。 |
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くし型関数。連続時間から離散時間に変換するのに有用である。 |
[編集] 性質
- フーリエ変換と逆フーリエ変換は互いに逆の変換である:
- すなわち、
- 二つの関数 p, q の畳み込み (convolution) は、フーリエ変換でそれらのフーリエ変換の関数としての積に帰着させることができる:
[編集] フーリエ変換特性
tを時間、ωを周波数、 をフーリエ変換として
と
をフーリエ変換ペアとする。
- 共役性
- 大きさの変化
- 反転
- タイムシフト
- 周波数シフト
- sin ω0t をかけた場合
- cos ω0t をかけた場合
- 積分
- パーゼバルの等式
[編集] フーリエ変換表
f(t) | F(ω) |
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δ(t) | 1 |
u(t) | ![]() |
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f(x) | F(ν) |
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f(ax) | ![]() |
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[編集] 応用
特に電気電子情報工学系では通例、t を時間、ω を複素角周波数、j を虚数単位として
と書く。ここで F(ω) は複素数であり、極形式 A(ω)ejφ(ω) で表したとき、A(ω) を振幅スペクトル、φ(ω) を位相スペクトル、A(ω)2 を電力スペクトル(パワースペクトル)と呼ぶ。通常我々が単純に周波数特性と呼ぶときは、電力スペクトルを対数表示したものを指すことが多い。
なお、理論上フーリエ係数を求めるには無限の区間に渡って積分を行わなければならないが、実験値等からフーリエ係数を求めるには範囲を区切らなければならない。そのために、ある範囲の実験値のフーリエ係数を求めるには、このある範囲の実験値が周期的に無限に繰り返されていると仮定して計算するのが一般的である。だがここで問題なのは、ある範囲の最初の値と最後の値を無理やりつなげることによって発生する不連続な要素である。これを解決するため、中央が1付近の値でその範囲外で急速に0に収束する関数を掛けて、不連続な要素を極力排除することが行われる。このとき、この掛け合わせる関数を窓関数という。
波には色々な周期の波が混ざっていることが多い。例えば音声は色々な周期(高さ)の音の混合である。それを、どの周波数の波がどのくらいの割合で混ざっているかを調べるのに、フーリエ変換する。そうすると、例えば「50Hzが12の強さ、347Hzが45の強さで混じった音」などということが分かる。この12や45はその周波数成分がどの程度含まれているかという相対的な値であり、単位を持たない。
これを応用した「スペクトラム・アナライザー」は、通信機やオーディオ機器の周波数応答特性の測定や調整などに使われるほか、今や高級オーディオ機器の定番装備となっている(「高音・中音・低音などいくつかの音域にごとに分かれて上下する棒」など)。
関東地震の69年周期説も、考案者が(戦後すぐなので手作業で)地震発生期間をフーリエ変換した時の、卓越周期として出てきたものである。
[編集] 一般化
フーリエ変換に現れる積分因子 e − 2πixξ は加法に関する局所コンパクト群 R の C における既約指標 であり、R の既約指標はこのようなものに限る。一般に、局所コンパクトな位相群 G のハール測度 μ を一つ固定すると、G 上の関数 f に対して G 上の線型汎関数 fdμ
が定まる。このとき、G の指標群 G^ について、
と置いて得られる G^ 上の関数 f^ を f のフーリエ変換という。この変換により、convolution algebra としての G 上の関数の環から G^ が通常の積と和に関して作る環への準同型写像が得られる:
R 上の周期関数 f を 1 次元トーラス S1 上の関数とみなすとき、この一般化された定義で G = S1 とおくと、得られるフーリエ変換はフーリエ級数として表れる。また、離散群上で考えれば離散フーリエ変換を得る。
最後に、G = R のとき、R 上の汎関数
を考えると、
となって、これを ξ の関数と見れば冒頭の定義となる(次元が上がれば、その指標は1次元の時の指標を次元の数だけ積にしたもので得られる)。