標本化定理
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標本化定理(ひょうほんかていり: サンプリング定理とも)は情報理論分野で、非常に重要な定理として知られており、アナログ信号をデジタル信号へと変換する際に、どの程度の間隔で標本化(サンプリング)すればよいかを定量的に表すものである。
[編集] 概要
標本化とは、数学的には連続関数の値からある点の値だけを標本として取り出して離散関数に変換する操作であり、与えられた連続関数と標本化関数の積を求めることと等しい。標本化関数とは、ある離散値(連続でない、飛び飛びの値)xに対してのみg(x)=1となり、その他のxに対してはg(x)=0となるような関数である。対象となる関数f(x)と標本化関数g(x)の積を取ると、関数h(x)=g(x)f(x)が得られる。g(x)=1となるxに対してのみh(x)=f(x)となり、その他のxに対してはh(x)=0となる。
標本化定理とは、ある関数f(x)をフーリエ変換した関数F(s)の成分(スペクトル)が、|s|Wの範囲でF(s)=0であるような関数f(x)に対して、s=2Wに相当する周期より小さい周期をもつ標本化関数で標本化したときに得られる関数は、そのスペクトルのうち|s|<Wが原関数のスペクトルに一致するというもの。
工学的には、原信号に含まれる最大周波数成分を f とすると、2f よりも高い周波数 fs で標本化した信号は、低域通過(ローパス)フィルターで高域成分を除去することによって原信号を完全に復元することができるということを示している。たとえば原信号に含まれる周波数が最高で f=22.05kHz だった場合、fs=44.1kHz よりも高い周波数で標本化(1秒間に44100回超、値を取得)すれば、原信号を完全に復元することができる。現信号が復元可能な最大周波数 fs/2 を「ナイキスト周波数」と言い、ナイキスト周波数の逆数を「ナイキスト周期」と言う。
標本化周波数が 2f 以下であった場合、原信号にはない偽の周波数 fs-f がエイリアス信号として、復元信号に現れる。よって、連続信号の標本化においては、ナイキスト周波数 2f よりも高い周波数で、標本化を行わなくてはならない。
なお、アナログ信号からデジタル信号への変換については、標本化のほかに量子化が必要である。
[編集] 歴史
標本化定理は1928年にハリー・ナイキスト(Harry Nyquist)によって予想され、1949年にクロード・E・シャノン(Claude E. Shannon)と日本の染谷勲によってそれぞれ独立に証明された。