デルフィニア戦記
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デルフィニア戦記(デルフィニアせんき)は、茅田砂胡作の長編冒険ファンタジー小説。
目次 |
[編集] 物語の概要
前国王の妾の子であったために、国内の貴族の陰謀によって王位と命を狙われて城を脱出し、追っ手の者たちと単身で戦う若き国王ウォルの前に、異世界から落ちてきたという謎の少女リィが現れ、助太刀をするところから物語は始まる。
王位の奪還、隣国との争い、謎の暗殺集団(ファロット)との戦いなどを通して、ウォルとリィを中心とした多くの魅力的な人物が活躍する姿を描き出した一大英雄譚である。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 主な国と登場人物
[編集] デルフィニア
「大華三国」の中央に位置する大国。三国中、もっとも肥沃な土壌に恵まれ、また首都コーラルは貿易港としても有数で経済力は豊か。国全体が広い平野となっているため、「ラモナ騎士団」「ティレドン騎士団」をはじめとした強力な騎馬軍団を持つ。
- リィ(グリンディエタ・ラーデン):非常な美貌で、かがやく金髪と緑瞳の少女。超絶的な戦闘力を持つ剣士で、後にデルフィニア王女、王妃となる。生まれてから黒狼の義父に育てられ、自分を狼だと信じていた。「グリンディエタ」はリィの世界で「白い太陽」の意味。
- ウォル(ウォル・グリーク・ロウ・デルフィン):先代デルフィニア国王ドゥルーワの妾腹の息子。辺境スーシャの山奥でフェルナン伯爵の子として育てられる。後にデルフィニア国王として即位。田舎出らしい好ましい人柄でありながら、国内随一の勇士であり、その政治的手腕も確かなもの。その体格から昼寝している牛とか熊とか呼ばれる。
- シェラ:王妃付き女官だが、本当の性別は男。元ファロットの暗殺者。初めはリィを倒したい一心でリィの侍女役をしていたが、最後にはリィを心から信頼し、また頼りにされる従者となっていた。銀の月、ともいわれる。
- ノラ・バルロ:ウォルの従弟で、国王の最有力候補と見なされていた。サヴォア公爵にしてティレドン騎士団団長。“狸寝入りの虎さん”とルウに言われる。
- ナシアス・ジャンペール:ラモナ騎士団団長であり、バルロの親友でもある。容姿端麗で、ルウからは“戦うお花さん”と言われる。
- ドラ将軍:正式には爵位を持つが、その実績から将軍と称されるロアの領主。ウォルの義父フェルナン伯爵の親友であり、その歴戦の経歴は前国王であるドゥルーワでさえ目線を同じくして話したと言われる。デルフィニア一の頑固者で、ウォルやリィはその振る舞いからよく雷を落とされる。一人娘のシャーミアンには少々甘い様子。
- アヌア侯爵:デルフィニア近衛司令官。ペールゼン侯爵によるクーデターと、その後の経緯の中で一時的に連隊長だったサングに司令官の座を奪われ、その後ヘンドリック伯爵が就き、再び司令官となる。
- ヘンドリック伯爵:デルフィニアの有力貴族。槍を取らせての騎馬戦は天下一品の腕前で、齢50を越えているにもかかわらずその名声は衰えを知らない。アヌア侯爵とは親交が深く、一時的に近衛兵団の司令官も務める。
- フェルナン伯爵:ウォルの義父。スーシャの領主であったが、ウォルの国王就任に当たって後見人となった。その後、ペールゼンの謀略にあい、投獄。獄中での拷問が元で死亡する。ウォルが先王の遺児であることを明かしてからは、臣下としての礼節を崩さなかったが、死の間際にその胸中をウォルとリィに明かした。ドラ将軍が閉口するほどの頑固者。
- ルカナン:近衛兵団第一軍第二連隊大隊長。
- ブルクス:ドゥルーワ先王の代からその地位にあるデルフィニアの名宰相。宰相としての手腕もさることながらリィやジルのような正体の知れない人物でも、その人格を認めて接する好人物である。
- カリン:デルフィニア王室の女官長。ブルクストともにドゥルーワ先王の時代から奥の間を仕切ってきた。
- ラティーナ:ウォルの元愛妾。後にナシアスの妻。昔ウォルが国王になる前、婚約していたこともあったが、今は二人とも“昔の事”と割り切っており、親しい友人同士でもある。後にナシアスと結婚する。
- イヴン:ウォルの幼なじみで、タウ山脈の自由民。デルフィニア独立騎兵隊長。ルウに“蜂蜜色のお兄さん”と呼ばれる。スーシャのゲオルグの息子だが、実はジルの息子でもある。スケニアの先住民族との戦いの中でシャーミアンに求婚し、結婚することになる。
- ロザモンド・シリル:ベルミンスター公爵。男装の麗人。後にバルロの妻となる。
- シャーミアン:ドラ伯爵家の一人娘。いっぱしの騎士として戦場にも赴く。後にイヴンと結婚する。
- ポーラ・ダルシニ:下級貴族の娘。とある晩餐会に一族の代理として参加し、国王ウォルと出会ったのがきっかけで、すったもんだの末にウォルの愛妾となる。よく栗鼠に喩えられる。
- キャリガン・ダルシニ:ポーラ・ダルシニの弟で、ティレドン騎士団の騎士見習い。団長であるバルロを尊敬している。直情的な性格で、いつも何かに飛び込んでは良くも悪くも失敗する。
- ルウ(ルーファセルミィ・ラーデン):本作品の途中から登場する、リィの相棒。黒髪に碧瞳で、リィの剣の師匠。「ルーファセルミィ」は「光と闇」の意味。太陽とバランスをとる闇。
[編集] タンガ
「大華三国」の一つでデルフィニアの東に位置する。首都はケイファード。国土の多くが山岳地帯で農業に向いておらず、政情も不安定だったが歴代の王の中でももっとも剛毅であろうゾラタスが王位についた後は一つにまとまり、デルフィニアの肥沃な領地をもぎ取らんと狙っている。
- ゾラタス:隣国タンガの国王。峻烈な戦上手。やせている自分の国土では満足できず、金銀山があるタウを持つデルフィニアを狙う。
- ナジェック:ゾラタスの嫡子。リィに痛い目に合わされ、それを深く恨んでいる。勇猛な騎士だが、考えが足りず、度々デルフィニアに翻弄される。その気性から父であるゾラタスには大して期待されていないが、本人はそれが何故だかわかっていない。
- ビーパス:ナジェックの弟。後のタンガ国王。若いが、しっかりした聡明な少年。戦を嫌う。
[編集] パラスト
「大華三国」の一つでデルフィニアの西に位置する。首都はアヴィヨン。多くの属国を抱え、交易も盛んであるため経済的には安定しているが、国王オーロンは満足せず、デルフィニアの弱体化を図り、戦の機をうかがっている。
- オーロン:隣国パラストの国王。大狸、と喩えられる。策を弄するのがうまい。タンガと同じくデルフィニアを狙う。
- ボーシェンク公:オーロンの弟。非常に残忍な性格で、捕虜となったウォルを拷問にかけ、処刑しようとする。デルフィニアの怒りを鎮めるために処刑される。
[編集] タウ
大華三国にまたがる山丘地帯周辺を指す。各地で罪を犯した者や故郷を捨てた者が集まり、「自由民(アーザート)」と自らを呼び山中にいくつもの村を作って暮らしている。王を持たず、三国のいずれにも属さずに独自の統治形態(共和制に近い)を取っていて、全体としての団結力も強い。そのような経緯から「タウ」という言葉は地名にとどまらず、そこに住む自由民たちを指す場合もある。
- ジル:タウの自由民。べノアの村の頭目。実は、大貴族ベリンジャー家の長男・ジョルダン。ロザモンドの従兄にあたる。貴族であった過去を捨てており、それに言及されることを好まない。後にアビーを妻に迎え、名義上タウの領主となる。
[編集] サンセベリア
パラストの隣国にあり、表面上は独立国家であるが実際にはパラストの属国扱い。首都はラグラン。
- オルテス:パラストの隣国サンセベリアの王子。不甲斐ない兄王にかわって国王になる。その際、ウォルに後ろ盾となってくれるよう依頼した。
- ホーリー・ダルトン:サンセベリアの騎士。オルテスの側近。傭兵あがりのためか、飄々とした性格のためか、一国の王や王妃(リィ)に対しても不遜とも言える態度で接している。
[編集] ファロット
国としてまとまっているわけではなく、世界各地に主に実行部隊が拠点とする「里」が存在し、全体を掌握する司令塔としてスケニアにファロット伯爵家がある。「里」の者は一部を除いて自分たち以外の存在も、また自分たちが「ファロット」の一員であることも知らされていない。
- レティシア:ファロット一族の腕利き。本当は一族のものではなく、子供のときに拾われたらしい。リィを理解できる唯一の生き物。黒い太陽と言われている。
- ヴァンツァー:レティシアを理解している可能性のある唯一のファロット。シェラと同じ境遇にあるも、ファロットの呪縛を解くことができずにいる。それゆえに、シェラがファロットの呪縛をとく存在であるのかどうか試すため、彼を狙っている。新月と呼ばれる。
- ファロット伯爵:スケニアの貴族。ファロット一族の族長。シェラの父親だが、暗殺者として育てるために里に赤ん坊のシェラを預けた。16巻でシェラの手で殺される。
[編集] リィの世界にある神話
むかし昔。今世界を掌握しているラー一族(ラーデンガー)がまだ、古い神とこの世界の支配権を奪い合っていたころ。 古い神を倒したラーは、敵の総大将である王と王子と姫を生かしていました。それ以外は殺してしまいました。 王は闇と呼ばれ、漆黒の髪に紺碧の眼。王子と姫は、太陽と月と呼ばれ、太陽は黄金の髪に翠緑の眼。月は銀の髪に紫水晶の眼です。 本来第一に殺すべきである総大将を生かしたのには理由があります。 闇の神が唯一の命を産む、つまり世界を作れる神で、命を産むには太陽と月がいないとならなかったからです。 ラーは命の保証はするから、世界を作ってくれ、と言いました。 王子と姫を助けるなら、と王は納得しました。 しかし、ラーは王を騙しました。 愛し合う王子と姫をむごたらしく殺したのです。 王は怒り狂いました。 自分の体を自ら爆発させ、「我は死ぬ。我は滅びる。だが、いずれ必ず蘇り、お前たちを残らず滅ぼす。」といいながら王は死んでゆきました。ラーは今でも王たちの復活を恐れて生きています。 王の爆発した亡骸が、その歪んだ怒りが、この不完全な世界なのです。
[編集] 作品リスト
- デルフィニアの姫将軍(大陸書房)
- グランディスの白騎士(大陸書房)
- デルフィニア戦記 全18巻(C★NOVELS)
- 放浪の戦士
- 黄金の戦女神
- 白亜宮の陰影
- 空漠の玉座
- 異郷の煌姫
- 獅子の胎動
- コーラルの嵐
- 風塵の群雄
- 動乱の序章
- 憂愁の妃将軍
- 妖雲の舞曲
- ファロットの誘惑
- 闘神達の祝宴
- 紅の喪章
- 勝利への誘い
- 伝説の終焉
- 遥かなる星(トキ)の流れに 上
- 遥かなる星(トキ)の流れに 下
- 外伝「大鷲の誓い」(2006年3月25日、C★NOVELS)
- 王女グリンダ(C★NOVELS、上記『デルフィニアの姫将軍』、『グランディスの白騎士』を合本、再刊したもの)
- デルフィニア戦記(中公文庫、上記C★NOVELS版『デルフィニア戦記』を文庫化したもの)
- デルフィニア戦記 第I部 放浪の戦士 全4巻
- デルフィニア戦記 第II部 異郷の煌姫 全3巻
- デルフィニア戦記 第III部 動乱の序章 全5巻
- デルフィニア戦記 第IV部 伝説の終焉 全6巻
デルフィニア戦記の登場人物の一部は、暁の天使たちへと継承されている。暁の天使たちに登場する他の人物をより深く理解するためには、スカーレット・ウィザードを読むことが推奨される。
[編集] 大陸書房版とC★NOVELS版の関係
処女作『デルフィニアの姫将軍』と『グランディスの白騎士』は大陸書房から出版されたが、出版社の倒産により未完のまま打ち切られた。後に中央公論社のC★NOVELSで再開されるにあたり、時をさかのぼって新たに書き始められたため、大陸書房版のストーリーとの食い違いが発生している。
作者は大陸書房版は過去の作品であると主張し、再販はしないと宣言していたが、既に絶版で入手困難となっており、それでも読みたいという読者の要望にこたえる形で『王女グリンダ』としてC★NOVELSから再販された。