トマソン
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トマソン、もしくは超芸術トマソン(ちょうげいじゅつとまそん)とは、赤瀬川原平らの発見による芸術上の概念。不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物。創作意図の存在しない、視る側による芸術作品。
マルセル・デュシャンの「レディ・メイド」の方法に、日本古来の「見立て」「借景」を取り入れたものと見ることもできる。
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[編集] トマソンの発見
1972年、赤瀬川原平、南伸坊、松田哲夫が四谷の道を歩いていると、上り下りするだけで上った先には特に何もない階段を発見した。
翌年、赤瀬川原平が、江古田の駅である窓口を発見した。ベニヤ板で塞いである使われなくなった窓口である。そのベニヤ板が、必要以上に律儀に、微妙な曲線に合わせて切断されていた。
また、南伸坊が、お茶の水の病院で、塞がれてしまったがきわめて堂々とした門を発見する。
これら「四谷の純粋階段」「江古田の無用窓口」「お茶の水の無用門」は、”作成者が芸術と考えていない芸術=超芸術”と定義され、「超芸術」の中でも不動産に付着するものに「トマソン」という名前が与えられた。当時、読売ジャイアンツに助っ人として所属したが、さっぱり打てないゲーリー・トマソン選手にちなんだ名前である(「無用なものを保存している」としてこの名前になったが「写真時代」連載開始直後に解雇となる)。
赤瀬川原平が講師をしていた美学校の生徒たちによるトマソン採集、白夜書房の雑誌『写真時代』での連載を経て、「トマソン」の概念が一般に広まる。『写真時代』の連載は書籍『超芸術トマソン』にまとめられた。
[編集] 影響
トマソンは、一時期ちょっとしたブームとなり美術に関心のある学生などに大きな影響を与えた。
また「超芸術トマソン」単行本の表紙の写真に現れる谷町という地上げ再開発によって消えた港区の町をめぐるエピソードは理論としてはトマソンの概念には関係の無い話であるがトマソンがそのような町を愛する視点と関係しているという基調を示していてトマソンのブームの盛り上がりにも深い影響を与えたと言わざるをえないであろう。
またこのような大規模な地上げ再開発が誰の目をも驚かすもっとも盛んなバブル経済時代の反映も背景としてあった。
1983年にトマソン観測センターによる「悶える町並み」という展覧会が新宿のギャラリー612で開かれ、赤瀬川原平の絵画や物件の写真が展示された。
その後出版社東京堂後援による東京での「トマソンバスツアー」や赤瀬川原平によるレクチャーが所々で開かれまたNHKや11PMなどのTV番組で取り上げられ、単行本「超芸術トマソン」が出版されひとつのブームのピークを迎えた。
しかし当の赤瀬川やその生徒によるトマソン観測センターはブームの盛り上がりによって疲弊し次第に活動は下火となった。
そのころ藤森照信らの建築探偵(古い市井の建物の観察・分析・コレクション)、林丈二のマンホールその他路上のもろもろの蒐集、南伸坊のハリガミ採集分析、一木努の建築破片収集などの路上にまつわるコレクションの活動とブッキングされて、筑摩書房から路上観察学入門という本が出版され。それに合わせて1986年、学士会館で路上観察学会の発足式と称したイベントが開催され記者会見などを行なった。企画したのは筑摩書房の現取締役松田哲夫である。
路上観察はごく一部でブームとなったがトマソンのように雑誌投稿や生徒と赤瀬川とのやりとりのようなものは無かったので「運動」的な盛り上がりは存在しなかった。ファンのような人達はおおぜい居たが「天才達」のやる路上観察を市民レベルで愛好するというような近代の芸術と同じようなヒエラルキーとして受け入れられたのは皮肉である。一方では超芸術トマソンの「写真時代」での赤瀬川と読者投稿のやり取りからヒントを得たと思われる、宝島社の『VOW』を代表とする俗化されたオモシロ投稿写真のもととなった。 こうして路上観察(学会)の定着と交代するようにしてトマソンは消えて行ったのである。
トマソンは、映画などの分野にも影響を与えていて、映画『機動警察パトレイバー the Movie』において、トマソンの一種である「原爆タイプ」があるシーンに登場し、奇妙なリアリティを与えていたという例や、ウィリアムギブソンの小説にも「超芸術トマソン」の出てくるものがあると書かれたトマソン選手の項目のある合衆国の野球選手名鑑のサイトも存在している。またトマソンのような要素をデザインとして最初から引用し織り込んだ建築も散見されるようになったので今日においてトマソンを探す際には気をつけなければいけない。
[編集] トマソンの分類
ちくま文庫『トマソン大図鑑』による分類。
- 無用階段
- 純粋階段ともいわれる。上って下りるだけの階段。
- 無用門
- 塞がれてしまってもいまだ門としての威厳を保っている門。
- ヒサシ
- 庇。無用庇ともいう。下にあった窓や扉が無くなってしまったにもかかわらず、雨を防いでいる庇のこと。
- 無用窓
- 塞がれた窓。塞ぎ方に念が入っているものが美しい。
- ヌリカベ
- 無用門や無用窓と重なる。塞いだ窓や門の跡。コンクリートで塗り込めても完全には隠しきれていない領域。周囲との微妙な差異を楽しむ。
- 原爆タイプ
- 平面状のトマソン。建物などの痕跡が、壁にシルエット状に残っている物件。
- 高所
- 物体そのものは正常だが、普段ある場所よりも高いところに存在しているために違和感をもたらす構造物。二階にある取っ手付のドアなど。
- でべそ
- 塗り込めた壁からわずかに飛び出た、ドアノブや蛇口などの小さい突起物。
- ウヤマ
- 看板や標識の文字が一部消えているもの。最初の物件が「?はウヤマ/卯山?店」というものだったのでこの名前が付いた。
- カステラ
- 壁面から飛び出した直方体状の部分。出窓の塗りつぶしなどで発生する。また、逆に引っ込んでいる部分は「逆カステラ」と呼ばれる。
- アタゴ
- 道路脇にある意味不明の突起物。車の駐車禁止のため役に立っている可能性もある。
- 生き埋め
- 路上の物件の一部がコンクリートなどで埋められているもの。
- 地層
- 地面に断層が形成されたもの。同一箇所を複数回工事したときなどに見られる。
- 境界
- ガードレール、柵、塀など、境界を表示する物件で、意味が即座に理解しがたいもの。
- ねじれ
- 通常、まっすぐ直角に作られている建築物のなかにおいて、微妙なねじれを有する物件。
- 阿部定
- 途中で切られた電信柱の跡。命名は阿部定事件より。
- もの喰う木
- 木が、柵やワイヤーなどを飲み込みながら成長している様子。
- 無用橋
- 埋め立てられた川に架かる橋など、無用となっている橋。
- 純粋タイプ
- 分類不能で、実用的意味が考えられないもの。空けると壁面の「純粋シャッター」など。
- 蒸発
- 看板の退色や、記念碑の一部損壊などで、もともとの意味がわかりにくくなっているもの。
[編集] 参考文献
- 赤瀬川原平編 『超芸術トマソン』 筑摩書房、1987年、ISBN 4480021892
- 赤瀬川原平・南伸坊・藤森照信 共編『路上観察學入門』 筑摩書房、1986年、ISBN 4480853154
- 赤瀬川原平編 『トマソン大図鑑・無の巻』 筑摩書房、1996年、ISBN 4480032010
- 赤瀬川原平編 『トマソン大図鑑・空の巻』 筑摩書房、1996年、ISBN 4480032029
[編集] 関連リンク
- 美的価値 (「超芸術」の名称について)
[編集] 外部リンク
- トマソン・リンク[1]