バイブル商法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
バイブル商法(-しょうほう)とは、健康食品や代替療法に関して、その効能、理論、体験談等を書いた本(通称「バイブル本」という)を実質的な広告にして薬事法の規制を抜けようとする商法のこと。
ある特定の健康食品や民間療法行為で完治したという内容の本を出し、その本の巻末やしおりなどに健康食品の販売会社や医療機関、民間療法の連絡先が記載されている。その連絡先はその本の著者や出版社と関係が深いことが多い。また、その健康食品はその効果は広く認められているとしても劇的な効能を期待させるのには無理があることが多い。「○○療法」は、高価な自由診療(保険外診療)であり、医学的に広く有効性が認められているとはいい難く、研究・実験段階の医療であるものも多い。根本的な治療法がなかったり、末期の病気で苦しんでいる人を対象としたものが多い。またその本の新聞広告なども宣伝を兼ねている。
目次 |
[編集] 法律との関係
健康食品は、医薬品でなく食品であるから効能を謳うことは原則的(保健機能食品は例外)にはできない。もし、効能を謳えば医薬品として扱われるので、もはや「食品」ではなく「無許可の医薬品」ということになり薬事法違反となる。実際、2005年10月には薬事法違反の容疑で、アガリクスに関するバイブル本の執筆者、監修者、出版社の役員や社員、健康食品販売会社代表らが逮捕されたり書類送検されている。
また、健康増進法の観点からも「(食品について)著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。」(同法 第三十二条の二)に抵触する。これをかわすために表現の自由がある出版物の形で効能を謳っているのである。
[編集] 医療上の問題点
- 患者が、バイブル本の健康食品や代替療法のみを信じて通常の医療を拒否することがある。このため通常の医療を受ければ回復するはずの病気が悪化・進行し、最悪の場合、死に至る場合がある。
- バイブル本の健康食品、代替療法は、一般的に高価である上、有効性に乏しいものが多い。当然、健康保険は使えない。
[編集] バイブル本の特徴
独立行政法人の国立健康・栄養研究所は健康食品などの調査を通して、これらバイブル本等に特徴的な文言をピックアップ[1]している。
この発表に拠れば、以下のような特徴(問題点)が顕著だとされている。
- 即効性を謳ったり、万能・「最高の○○(効果)」と、何等かの直接的な・また普遍的効能を謳う。
- 「ガンが治った」などの具体的な治療・治癒例に言及している。
- 健康食品の場合では医薬品では無いため、薬効を謳う事自体がそもそも問題であるが、症状によっても求められる療法が違う事もあり、ある症例を持って(一応の類似性がある)他の症状も治るとは必ずしもいえない。
- 「天然」・「食品だから安全」・「全く副作用がない」等として、危険性やリスクが全く無いとする。
- フグ、毒キノコなどのように天然物には多かれ少なかれ毒も存在する。天然ではない人間による栽培物などを「天然」と言い強弁する。また、食用可能の農産物でも100%安全はありえない。現実に、一部の健康食品による健康被害例も発生している。特に「有効成分」を濃縮しているような製品では、原料のままなら無視できる程度の副作用が強く出る場合もある。
- 「新しい科学的進歩」「奇跡的な治療法」「他にない」「秘密の成分」「伝統医療」とし、何等かの薬理効果のある成分を含むとする。
- 実質的にまだ十分安全性が研究されていない未承認医薬品成分を含有し、その副作用が出る事例も報告されている。
- 「驚くべき体験談、医師などの専門家によるお墨付き」とする。
- ある症例を取り上げるが、そもそも万人に普遍的効果のある治療法は存在せず、症状に在った治療法が選択されるべきである。また臨床的にきちんとした客観的データであるとは認められず、他の要因(患者当人が通常の医院にも通っていたりする)による治療効果の可能性を無視しているケースも見られる。
- 「厚生労働省許可」「厚生労働省承認済み」を謳う。
- 特定保健用食品以外では、厚生労働省は健康食品の認可作業は行わない。また、輸入健康食品では過去の健康被害事例の教訓から成分表の提出を求める事もあるが、この成分表提出と輸入販売許可を持って「許可」や「承認済み」とするケースも見られる。この場合の輸入販売の許可は単に「毒にも薬にも成らない(特定の規制されるべき薬品成分を含まない)」という事の査証に過ぎない。
- 「○○に効くと言われています」
- 伝聞調とする事で、世間の噂・評判・伝承・口コミ・学説等の根拠があると消費者に思わせる。当然、根も葉もない噂話に上っても「言われて居る」という事には違い無いのだが、複数筋が効果を認めていると誤認させやすい。
- 特許番号を記載する。
- 特許は効果を証明するものではない。同様に商標登録等も利用される事も在るが、いずれにしても単に独自性があるだけに過ぎない。
- 「○○を食べると、3日目位に湿疹が見られる場合がありますが、これは体内の古い毒素などが分解され、一時的に現れるものです。これは体質改善の効果の現れです。そのままお召し上がりください。」
- このような表現は非常に危険で悪質であると考えられる。強い薬理効果があると誤認させるだけでなく、副作用による健康被害を被っている場合でも、適切な治療を受ける機会を逸させる危険性を伴う。過去にはアマメシバによる健康被害事例で、同種の問題も発生、厚生労働省では注意を呼びかけている。
この他にも、やってもいない動物実験や条件設定が不適切な動物実験で、実験動物の体の構造や持っている消化器などの機能が違うので、人間には同様の効果が出なかったり、害が出る事もある効果を謳う。架空の体験談をでっち上げるケースも報じられている。
[編集] 備考
なお、これらバイブル本であるが、執筆者が医師や医学博士・教授等とされる物でも、実質的にゴーストライターによる執筆や本文を読まずに推薦文を寄稿していることが報告されており、謝礼を受け取って名義を貸し、肝心の内容を査読・監督しない事が多い。
このようなバイブル本では、コマーシャリズムの観点から扇情的な文言が好んで用いられる傾向も見られ、他方では効果の論拠として記述された内容に「それっぽい(学術風・論文調の)用語」を羅列する事で、読者には肝心な情報は与えず、単に「何だか効果がありそうだけど、内容が難しくてよく解らない」という印象を与え、あたかも学術分野の専門書よりの抜粋のように誤認させるケースも見られる。(実際にはその部分を含めてゴーストライターの創作だったり、または本来無関係な引用だったりする)
ただ内容が非論理的であるために理解が出来ない場合でも、そのような特徴的用語で読者を混乱させているものも見られ、科学を「専門家のための学問(一般には理解できるはずが無い)」と思わせる事で思考停止を誘発させ、「だから○○の使用を勧めます」といったような宣伝文句に誘導、これを読ませる事に成功する本も見受けられる。(理科離れの項を参照されたし)
この他にも大手新聞社が発行する新聞の広告欄にバイブル本の広告や、その一節を掲載する事も見られる。特に記事形式の広告を出す場合もある。過去に大きな事件を起した企業でも無い場合では、大手新聞社ではあからさまに公共良俗に反する内容でなければこの広告を拒む事もしない。しかしバイブル本では自ら出したこの広告を指して「○○新聞に掲載」等と宣伝し、あたかも大手新聞に(有効性があるものとして)記事に取り上げられたと(意図して?)誤認させる場合も見られる。