ヒルデブラントの歌
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ヒルデブラントの歌(ドイツ語:Das Hildebrandslied)は古ドイツ語の詩。父子が戦場に遭遇する話を語る。古代のドイツ人の口誦の内容を反映した重要な作品とせられる。
目次 |
[編集] 概略
二人の武将が相まみえた。老いた武将ヒルデブラントは若き武将ハドゥブラントに名のりを問う。我が父は妻と幼き私とを棄て東のテオドリック王のもとに落ちのびて死んだと答えるとヒルデブラントは我こそその父であると言う。ハドゥブラントは敵を欺こうとは浅ましいことよと言いそれを信ぜない。ついに戦いが始まり、二人は槍を交える。
[編集] 文章
全68行。結末を記した部分が残っていない。以下は冒頭である。
Ik gihorta ðat seggen |
我かく言えるを聞けり。 |
[編集] 写本
もとはフルダ修道院にあり、現在はドイツのカッセル大学図書館に保存せられている。1715年にヨハン・ゲオルク・フォン・エッケルト(Johan Georg von Eckert)が発見したとせられる。9世紀のコーデクスの羊皮紙(二枚)に記されており、830年代にコデクスの余白に書きこんだものであるとせられる。書き込んだ人は二人おり、二人目が書いたのは二枚目の初頭の11行のみである。文字は主にカロリング小文字体(Carolingian minuscule)でwにウィンが用いられている。第二次世界大戦のときに米兵が略奪して稀覯書として売られた。後にカリフォルニアで発見せられ1955年にドイツに返還せられたがそのとき一枚が誰かに切り取られており、1972年になってフィラデルフィアで発見せられた。
[編集] 方言
文章は一人称主格代名詞のikとihなど古高ドイツ語と古低ドイツ語(サクソン方言)が混ざっている。サクソン方言の部分に誤記が散見せられること、48行目にriche と reccheoが押韻している(サクソン方言ではrīke および wrekkioになり押韻しない)ことから元は高地ドイツ語であったとせられる。混ざった理由は不明であるが途中で書写した人が混ぜたのではなく原本のときからそうであったとみなされている。
[編集] 類作
後代の類似した内容の作品からヒルデブラントがハドゥブラントを殺したという結末が推測せられる。
- 13世紀のノルウェーのシドレク・サガ(Thiðrekssaga)では父ヒルディブランド(Hildibrand)が子アリブランド (Alibrand)を破っている。アリブランドは剣を差し出したふりをして不意打ちをかけるが失敗し、和睦にいたる。
- 13世紀に中高ドイツ語で書かれた新ヒルデブランドの歌(Jüngeres Hildebrandslied)ではヒルデブラントがハドゥブラントを破ったが殺さずに終わる。
- 14世紀の北欧のアースムンドのサガ(Ásmundar saga kappabana)ではハドゥブランドを殺している。
- フェーロー諸島に伝わるSnjólvskvæðiではヒルデブラントがだまされて息子を殺すことになっている。
- 13世紀初期のゲスタ・ダノールム(Gesta Danorum)では七巻でヒルディゲルが息子を殺したと明かす記述がある。
またペルシアのシャーナーメに英傑のロスタムが敵兵に深手を負わせるがそれは昔産まれたときに与えた腕輪をしている実の子であったという話がある。
[編集] 史実
ヒルデブラントはおそらく架空であるがテオドリック(文中ではテオドリック=フン族の王=アッティラとせられているがこれは史実ではない)とオドアケルは実在の人名でテオドリックがオドアケルを破ったことになっている。
[編集] 外部リンク
- ドイツ語版ウィキソース・ヒルデブラントの歌
- ヒルデブランドの歌
- 写本の画像とテキスト(Bibliotheca Augustana)
- 英語訳
- 現代英語の意訳
- ロスタムとソーラブの解説
[編集] 参考書籍
- Althochdeutches Lesebuch, ed. W.Braune, K.Helm, E.A.Ebbinghaus, 17th edn, Tübingen 1994. ISBN 3-484-10707-3. Provides an edited text of the poem which is widely used and quoted.
- J. Knight Bostock, A Handbook on Old High German Literature, 2nd edn, revised by K.C.King and D.R.McLintock, (Oxford 1976) ISBN 0-19-815392-9. Includes a translation of the Hildebrandslied into English.
- K. Düwel, "Hildebrandslied" in Die deutsche Literatur des Mittelalters. Verfasserlexikon (de Gruyter, 1981), Vol 3. ISBN 3-11-008778-2. With bibliography.
- Cyril Edwards, "Unucky Zeal: The Hildebrandslied and the Muspilli under the Acid" in The Beginnings of German Literature (Camden House, 2002) ISBN 1-57113-235-X
- Opritsa D. Popa: Bibliophiles and bibliothieves : the search for the Hildebrandslied and the Willehalm Codex. Berlin 2003. ISBN 3-11-017730-7
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