ファスケス
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ファスケス (fasces) とは、古代ローマにおいて高位公職者の周囲に付き従ったリクトルが捧げ持った斧の周りに木の束を結びつけた権威の標章。日本語では儀鉞(ぎえつ)や権標、木の棒を束ねていることから束桿(そっかん)などと訳される。ファシズムの語源としてよく知られている。単数形はファスキス (fascis)。
ファスケスは斧の周囲に十数本から数十本の棒を配し、皮の紐で束ねたものである。王政後期にエトルリアからもたらされたものとされ、王の権威の象徴であった。共和政に移ると王の権限に由来するインペリウムの象徴とされ、インペリウムを保持する高位公職者であるディクタトル(独裁官)、コンスル(執政官)、プラエトル(法務官)などの周囲にファスケスを持つリクトルは配された。
ファスケスの意味するところは、権力と求心力の象徴としての斧、その周囲に団結する人々であるといわれる。刑罰のための斧と鞭が「懲罰権」を象徴するとの説もあるが、実際に戦闘や処刑に使うことを目的とするものではなく、専ら権威をあらわすために用いられた。
共和政期に入ってからは原則として、ローマの市域内と外部を隔てるポメリウムの内側では斧は取り外され、棒の束として使用された。またコンスルの葬儀の際にはファスケスは逆さまで捧げ持たれた。
ローマ以降も多数の政府や団体が力の象徴としてファスケスのデザインを用いた。 現在でも見られるものにはアメリカ合衆国下院本会議場、リンカーン記念館の装飾やリンカーン像、フランス領事館で用いられる紋章などがある。
このファスケスを語源とするイタリア語「ファッショ」(facio、複数形 fasci)は「団結」の意味を持ち、20世紀のファシズム (Fascism) の由来となった。この語は1919年にベニート・ムッソリーニの結成した「戦闘ファッショ」(Fasci Italiani di Combattimento) の名称に使われた後、さらに1921年に彼が結党した「ファシスト党」(Fascisti) により定着した。
そのようないきさつはあるがハーケンクロイツやスヴァスティカと異なり、象徴としてのファスケス使用の禁止・表現の自粛等の強い動きは起こっていない。