フォックス姉妹
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フォックス姉妹(フォックスしまい)とは、19世紀のアメリカ人家族、フォックス家の3人姉妹のうち、次女・マーガレット・フォックス(Margaret Fox1838年‐1893年。)と、三女・キャサリーン・フォックス(Catherine~1841年‐1892年。愛称は、ケイト、ケティー。)の二人を指す。(二人の生年には別の記述もあり。英語版では、マーガレットの生年は1836年。)
彼女らは後に、超常現象・心霊現象の一つとされる、ラップ現象を起こす事が可能な、言い方を変えるなら、死者の霊といわれる目に見えない存在と、音を介して対話や交信できる霊媒師(霊能者)として有名になり、その事が一大センセーションを巻き起こした。また、その現象に対して、当時のマスコミ関係者や大学の研究者を巻き込んでの、騒動や論議となったことでも有名となった。また、この発端となった出来事は、一家の住んでいた村の名をとって、ハイズビル事件とも、研究者の多くの間では呼ばれている。
(注;これは、当項目やハイズビル事件についての説明をし、肯定派・否定派双方からの見解を客観的に中立的に述べたものです。したがって、ウィキペディアとしても、当項の内容に関して、肯定、否定もせず、いかなる責も負いません。)
この出来事がきっかけとなり、19世紀後半から20世紀初頭にかけて顕著になった、交霊会や心霊主義による心霊現象研究が盛んとなった。特に、アメリカやイギリスでこういった研究やイベントが盛んとなり、ヨーロッパ各国や日本にも、研究目的、好奇問わずに広まってゆくこととなる。
[編集] 事の発端
1847年12月に、両親であるフォックス夫妻と、二人の娘マーガレットとケイトの計4人が、ニューヨーク州北端の村ハイズビル(註;「ハイヅヴィル」の方が忠実。)に引っ越してきた。なお、長女レア(「リー」と記述するものもあり。Leah~1814年‐1890年)は、既に結婚してアンダーヒル夫人となり、ニューヨーク市に住んでいた。
翌1848年3月31日の夜、姉妹がベッドに入った後に、この、「音が鳴る事件」が発生した。木を叩くような小さく虚ろな音とのことであったが、この時点で、(1)夫妻(両親)が毎夜の音に悩まされていたために、思い切って、家族の誰かが交信をするに至った (2)姉妹の寝静まった寝室の前で通りかかった母親が、最初に交信を始めた (3)姉妹が、音の主と交信できる事実を両親に伝えた (4)ケイト、マーガレットの順に音の主と交信をはじめ、両親へ知れることとなった、など、文献で様々な記述とバリエーションがあり、そのきっかけは不明。
交信者側が、ある質問に対して、あらかじめ用意した答えに対応する回数の音を鳴らす(つまり、「イエス」なら1回、「ノー」なら2回。あるいは、該当する数だけ音を鳴らす等。)などといったシンプルなものであったが、村を越えて噂が広がり、ひいては、全米の心霊研究者や学術関係者、マスコミ、霊と通信したい人々、この傾向を信じる者などに広まったというもの。また、この段階で、この現象をラップ現象(「鼓音現象」とも日本では呼ばれた)と名づけられることとなった。
[編集] インチキ説と暴露
噂が広まってイベント化するに従い、金銭が絡み出した。一説には、歳の離れた姉レアが、「金儲けの手段として妹たちを利用することを思いついた」とも、「レアが黒幕的存在となったために、後に妹らとわだかまりができたが、当の妹たちは、姉に逆らえない状態だった」とも、伝えられている。ニューヨークを拠点とした全米でのパフォーマンスの結果として、一家は、巨大な富を手に入れた。好奇心や物珍しさだけとは言い切れず、ピーク時には、150万人を超える信者や支持者がいたともいわれ、彼女らはカリスマ的存在ともなっていた。
民衆の噂や、新聞などのマスコミによって、アメリカからヨーロッパにまでこの事実が広まり、当時の学術研究の対象ともなってきた一方、本物説とインチキ説とが、常に対立していた。そんな中で、1851年、バッファロー薬科大学の調査結果が発表された。それは、「音の正体は、足首や膝の関節を鳴らしていたものであった」とするものであった。
そんな中で、1888年10月21日付けのニューヨークの新聞に、マーガレットが手記を出して全てを告白し、内容を暴露する。次いで、ニューヨークの音楽アカデミーをはじめとして、各地で、このトリックを暴露する実演付きの公演を行った。一説には、ケイトも加えて姉妹二人で暴露公演を行ったとされている。また、「厳重な実演に際し医師も立会い、関節を鳴らしていた事が証明された」など、経過についてはいくつかのバリエーションがある。
しかし、彼女の暴露の内容は、どの文献でもほぼ共通している。
- すべてがバッファロー薬科大学の結論どおり、足の関節を鳴らしたもので、トリックであり詐欺。
- 当初は、リンゴを紐で結び、ベッドから床に落とした音で、まず母親を信じ込ませた。
- トレーニングした結果、足首か膝の関節を無制限に鳴らすテクニックを身に付けた。
- 単なる悪戯から話が大きくなり、その事実を告白できなくなった。
- 金銭がからむようになった段階で、当時かなりの年上の姉・レアに脅されるような形で、真実を口止めされた。
- と同時に、パフォーマンスを続けるうち、一家の金儲けも絡んできて、ますます、真実を公表できない状態になっていった。
などといったものである。
この告白の背景には、マーガレットが良心の呵責に耐え切れなくなり、精神不安定になった事情があったからだとも、あるいは、レアの長年の支配からいさかいが生じた事への、マーガレットのレアに対する仕返しとして行われたとも、その双方の理由があったともいわれている。また、この証言により、信じていた者は衝撃を受け、彼女らも、以前のような大金を稼げない状態とはなったが、それでも霊との交信や、この種の現象を信じる者は少なくはなかったといわれている。
一般的な心霊実験や研究も、この出来事の後から20世紀初頭にピークを迎える。
超常現象をはじめとするトンデモに対する批判本の多くや、従来の科学至上主義傾向の強い書物などでは、このあたりまでしか取り上げられていないが、その裏に関する記録や、後日談も残っている。
[編集] 暴露の背景とその後
暴露に関する告白に際し、その報酬として、スピリチュアリズム反対派から1500ドルが、(当時未亡人となり、酒に溺れて金銭的に困っていた)マーガレットに支払われたといわれている。
それから約1年半後、マーガレットは暴露の内容の撤回をした。当時の彼女の貧困状態や、姉とのいさかいの中での情緒不安定な環境に乗じて申し入れて来た、前述の反スピリチュアリズム派の者からの金銭がらみの申し入れに応じたことなどを告白した。また、その後、生涯通じて彼女ら(マーガレットとケイト)は、この現象について事実であったと主張し続けた。
ただし、この点については「一度は告白によって足を洗おうとした姉妹が、再度、この方法で金儲けをしようとしたためである」という説明付けもある。が、これは「酒に溺れて貧困状態だったマーガレットが、良心の呵責だけで、生活の糧を得る方法を自ら放棄する為の自白をし、その後わざわざ発言撤回して、信用を落とした状態で当初と同じ方法で金儲けをしようとしたのはなぜか」といった点への回答にはなっていない。自ら暴露し足を洗った後も、彼女らを信仰する神秘主義者や心霊現象を信じる者はかなり残っていて、そういった人々に担ぎ出される結果となったとの見解を述べる者もいる。逆に、次に並べる点などを指摘する研究者やマスコミ関係者もいる。
- 当初、フォックス一家が引っ越してきた家は、以前から不思議な物音がするという理由で気味悪がり、前の住人が引っ越してしまった家であったこと。
- フォックス一家がその家を引っ越した後も、その家ではラップ音現象はおさまらなかった。
- 一方、姉妹の引っ越した先々でも不思議な音が鳴り、一生涯音につきまとわれていたといった、他者からの証言についての是非。(それが全てインチキであった、という説もあるが)
- フォックス夫人が、最初の事件の数日後に書いた手記(日記ともいわれている)の内容をまとめると、「村人たちが大勢家に集まり、姉妹が家の外に出た後にも、家の中では、音による対話が続いていた」こと。(張本人側の証言は信用するに値しない、とする主張もあるが、まだ姉妹が長女のレアに相談する前であり、当初はこれで金銭をもうけられるとは、家族の誰一人思ってもいなかった段階だと推測される。よって、目撃者が多数いた出来事に対し、個人的な文書内でわざわざ偽る必要はなかった。)
- 初期において、何度か調査委員会が組まれて正式に調査が行われたが、音の原因や正体は不明のままだった。また、その中で、「姉妹の足首を縛り上げて動かない状態でベッドの上に立たせたが、当時の調査員全員が誰もいない壁や床の部分から鳴る音を耳にしている」といった内容の報告もあるという点。また、それを無視して一大学の批判的な見解だけを唯一の調査結果のようにして取り上げていること。
- 公演や交霊会の出席者は彼女らの信者や支持者、あるいは心霊現象を信じる者ばかりではなかったはずであり、音の聞こえる場所が姉妹の足であったなら、誰一人気付かないといった状態はありえない。関節の鳴る音も、誰もが認識できる音のはずなのにもかかわらず、暴露まで40年間民衆を騙し続けられるかが疑問。
などである。(その他、「音と交信した結果、後に地下室から人骨が発見されるに至った」といった内容もあるが、本件の検証と直接関係がないため省略する。)
明らかに、作為説によって解明されている超常現象がほとんどであり、この現象についても、ここで述べたようなトリックである可能性も否めず、あるいは将来的に新たな科学的解明が行われる可能性もある。