フルニトラゼパム
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フルニトラゼパム(Flunitrazepam)、化学名5-(2-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロ-1-メチル-7-ニトロ-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン(5-(2-fluorophenyl)-1,3-dihydro-1-methyl-7-nitro-2H-1,4-benzodiazepin-2-one)、はベンゾジアゼピン系の睡眠薬で、1970年代前半にスイスのロシュ社によって開発され、1975年にヨーロッパで販売が開始された。日本では1984年3月に中外製薬、エーザイからそれぞれロヒプノール、サイレースの販売名で販売が開始された。現在、後発医薬品が各社から出ている。また、この薬はアメリカでは Schedule 4 の麻薬指定 (一部の州ではさらに厳しい、Schedule 1の麻薬指定) になっており、承認されていない。また、他国では、飲料に混入されたらわかるように、錠剤に細工を施していたり、何らかの味が付いていたりする。
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[編集] 効能
フルニトラゼパムは他の多くのベンゾジアゼピン系薬剤と同様に、鎮静、抗不安、抗痙攣および筋弛緩作用を有する。鎮静作用ではジアゼパムのおよそ7~10倍強力であるとされる。経口投与時の効果発現はおよそ15~20分後で、1時間後に血中濃度が最高に達し、投与後12時間目までの半減期はおよそ7時間、消失半減期はおよそ9~25時間、作用持続時間は6~8時間で、ベンゾジアゼピン系の中では中時間作用型に分類される。効力(入眠効果)は他のベンゾジアゼピン系睡眠薬より強く、より深い睡眠が得られる。作用機序は、抑制性GABAニューロンのシナプス後膜にあるベンゾジアゼピン受容体に結合しGABA親和性を増大させることでGABAニューロンの作用を特異的に増強することによると考えられている。
フルニトラゼパムに過敏症の既往歴のある患者、急性狭隅角緑内障、重症筋無力症の患者には禁忌、呼吸機能が高度に低下している患者には原則禁忌である。
アルコール、中枢神経抑制剤、モノアミン酸化酵素阻害薬、シメチジンとは併用に注意が必要である。
[編集] 副作用
よく見られる副作用はふらつき、眠気、倦怠感等である。まれに健忘などがある。重大な副作用は、依存性、刺激興奮、錯乱、呼吸抑制、炭酸ガスナルコーシス、肝機能障害、黄疸、横紋筋融解症、悪性症候群、意識障害などである。特に、大量連用によって薬物依存を生じることがあるため用量を超えないように注意する。アルコールと併用(飲酒)すると中枢神経抑制作用が増強され、かつ肝機能障害のリスクが増大するため、併用は避けるべきである。
[編集] 乱用
アルコールとの併用で比較的高い確率で健忘を引き起こすことがあるため、アメリカ、イギリスなどでデートレイプドラッグとして強姦等に利用された。被害者が健忘によって、薬を飲まされた間やその前後に起こった出来事を覚えていないことが多く、加害者が特定されにくかったためである。また、ヘロインやコカインとの併用で効果を高めたり変調することや、メタンフェタミン,アンフェタミンといった覚せい剤の使用によって起こる不眠などの副作用に対抗するために乱用された。このため、乱用が深刻となったアメリカではフルニトラゼパムは禁止薬物に指定されている。
[編集] 「ドラッグ」としてのフルニトラゼパム
冒頭の記述の通り、米国ではデートレイプに悪用される危険性を孕むフルニトラゼパムであるが、ヘロインやコカイン常用者(医療ではなくいわゆる「ドラッグ」として)はその効力を増強するためにフルニトラゼパムを併用するケースがある。以下に事例を示す(いずれも医学的・生理学的効果が実証されているわけでもなく、少なくとも日本国内においてはフルニトラゼパムが処方された場合、医師の指示した服用スケジュールを厳守しなければ、最悪の場合、不可逆的な依存性、本来の症状の増悪など深刻な結果をもたらしかねないことに留意する必要がある)。
- 深い「トリップ」状態を得るため(アルコールはフルニトラゼパムの効果を増強させる。カート・コバーンはフルニトラゼパムとシャンパーニュのカクテルを常用し始めたがその数週間後に自殺)。
- ヘロインによるドリップ効果の増強。もしくは不眠や解脱症状などといった症状の緩和。
- 覚醒剤の副作用緩和(不眠、妄想、不安障害)。
- コカインやメタフェタミン過剰摂取の場合のバッドトリップ(いわゆる「ハイ」になることができず、悪夢のような不安増大ばかりになってしまうこと)の緩和。
- 性欲ならびに食欲向上。