ブラス!
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ブラス! Brassed Off |
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監督 | マーク・ハーマン |
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製作 | スティーブ・アボット |
脚本 | マーク・ハーマン |
出演者 | ユアン・マクレガー ピート・ポスルスウェイト |
音楽 | トレヴァー・ジョーンズ |
撮影 | アンディ・コリンズ |
編集 | マイケル・エリス |
公開 | 1996年11月1日 ![]() 1997年12月20日 ![]() |
上映時間 | 107分 |
製作国 | イギリス |
言語 | 英語 |
allcinema | |
IMDb | |
『ブラス!』(Brassed Off)は、1996年に制作されたイギリス映画。閉鎖騒動の持ち上がる小さな炭坑の町を舞台に、ブラスバンドを通じて、「音楽」と「生きること」の素晴らしさ、人間模様と社会風刺を上手に織り交ぜて描いた作品。実話に着想を得てストーリーが作られており、モデルとなっているのは、音楽演奏を務める「グライムソープ・コリアリー・バンド」(後述)である。
目次 |
[編集] キャスト
- ダニー:ピート・ポスルスウェイト
- アンディ:ユアン・マクレガー
- グロリア:タラ・フィッツジェラルド
- フィル:スティーブン・トンプキンソン
- ハリー:ジム・カーター
[編集] スタッフ
- 製作:スティーブ・アボット
- 監督・脚本:マーク・ハーマン
- 撮影:アンディ・コリンズ
- 編集:マイケル・エリス・エース
- 美術:ドン・テイラー
- 衣装:エイミー・ロバーツ
- 音楽:トレヴァー・ジョーンズ
- 演奏:グライムソープ・コリアリー・バンド
[編集] ストーリー
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
1990年中盤、イギリス・ヨークシャーの炭坑町グリムリー。仕事のために宿を借りたグロリア(タラ・フィッツジェラルド)は、荷物の中の楽器フリューゲルについて、宿屋の夫人に「夜中の演奏は遠慮してね」と注意を受け、炭坑夫達で作る歴史あるバンド「グリムリー・コリアリー・バンド」の練習場で練習することを薦められる。
バンドマン達は炭坑の閉鎖騒ぎで気が気ではなく、演奏もおぼつかなかった。そこへ入ってきたグロリアに、指揮者ダニー(ピート・ポスルスウェイト)は「よそ者は入れない決まりだ」と断るが、グロリアはここの町の生まれだと主張する。ファミリーネームで、グロリアの祖父がダニーの親友、勇敢な炭坑夫でバンドマンだったと分かる。バンドマンの一人アンディ(ユアン・マクレガー)は、グロリアの幼なじみだった。腕前は素人みたいなものだと謙遜していたグロリアだが、「アランフェス協奏曲」のソロパートで見事な演奏を見せ、拍手が巻き起こる。こうして新たなメンバーを得たグリムリー・コリアリー・バンドだったが、実は彼女の仕事は、炭坑についての報告書を作成することだった。
経営側は組合と折衝の結果、炭坑存続か、閉鎖の代わりに高額の退職金を支払うかのどちらかを、炭坑夫に投票させることになる。バンドは準決勝を勝ち取ったものの、町に帰ってきた彼らを待っていたのは、閉鎖決定という結果であった。路上でくずおれるダニー。彼は長年の炭坑夫生活で、肺をやられていたのだった。その後偶然に、バンドマン達はグロリアが経営会社の建物から出てくるのを目撃してしまう。特にグロリアと恋仲に落ちていたアンディは、少なからずショックを受けるのだった。
アンディは賭けビリヤードでアルトホルンを取られてしまう。他のメンバー達の心も揺れ動くが、生活が逼迫していることや、グロリアに裏切られたという思いもあり、バンドを辞めることを決意する。最後の演奏として、ダニーが入院している病院の前で「ダニー・ボーイ」を演奏する。そしてダニーの息子フィルに、全員バンドを辞めることを伝えるよう依頼するが、フィルは結局伝えることはできなかった。彼の家では、借金の返済ができず家財道具を差し押さえられ、妻は子供を連れて実家に戻ってしまう。人生に絶望したフィルは、炭坑の櫓の上で首吊り自殺を試みるが、発見され未遂に終わる。一方、グロリアも会社に裏切られたことを知った。実は炭坑の閉鎖は、2年も前から決まっていたことだった。彼女が炭坑夫達のために書いた報告書は、結局何の役にも立たなかったのだ。グロリアは、決勝への道を開くことを決意した。自分のためではなく、炭坑夫達のために、そしてダニーのために。
[編集] 背景
原題の「Brassed off」はイギリス英語で「怒っている」、「うんざり」という意味になる。 劇中のセリフにある「10年前のスト」というのは、1984年に起きた全英炭坑ストライキ(en)がモチーフになっている。
舞台であるグリムリーのモデルは、実際に南ヨークシャーにある炭鉱町のグライムソープである。本作のストーリーはグライムソープ・コリアリー・バンドにまつわる実話を元にしている。グライムソープ炭鉱の閉鎖が決定した92年、同バンドは全英ブラスバンド選手権に出場し、鬼気迫る名演を披露して優勝した。
作中の演奏シーンではメインのキャスト達と一緒に、グライムソープ・コリアリー・バンドのメンバー達が出演している。サウンドトラックも彼らの演奏によるものである。
[編集] 寸評
名優ピート・ポスルスウェイトの「頑固な指揮者」としての演技は、見事としか言いようがない。ヒロインのタラ・フィッツジェラルドも、重要な役所を演じきっている。また、この作品の前の初主演作『トレインスポッティング』で有名となり、後に『ブラックホーク・ダウン』(グライムズ役)、『スター・ウォーズ エピソード2・エピソード3』(オビ=ワン・ケノービ役)など大出世を遂げたユアン・マクレガーも、悩める若者の役として、抑制の利いた演技を見せている。
カメラはイギリスの田舎町の空気をきっちりと捉えている。映画全編に渡ってブラスバンドの名曲が流れるが、「ダニー・ボーイ」、「ウィリアム・テル 序曲」、「威風堂々」など、なじみ深い、または聞き覚えのある曲が、ここぞという場面で使われているのが印象深い。決勝でのロイヤル・アルバート・ホールでの演奏シーンは特筆に値する。また、「威風堂々」の項に記載されているが、この曲が「イギリスの第二国歌」と言われるほど好まれていることを知っていると、ラストシーンと、続くエンディングロールが感慨深いものとなるであろう。
炭坑の閉鎖と、それに伴うコミュニティの崩壊という、たいへん重いテーマを扱っている。普通に作ってしまえば、単なる重苦しい映画になってしまったと思われる。しかし、堅実な構成と演出、バンドの魅力と演奏の迫力、そして出演者達の人間味溢れる演技のおかげで、後味は全く悪くない。