ブラックホーク・ダウン
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ブラックホーク・ダウン Black Hawk Down |
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監督 | リドリー・スコット |
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製作 | リドリー・スコット ジェリー・ブラッカイマー |
脚本 | ケン・ノーラン スティーヴン・ザイリアン |
出演者 | ジョシュ・ハートネット ユアン・マクレガー |
音楽 | リサ・ジェラード ハンス・ジマー |
撮影 | スワヴォミール・イジャック |
編集 | ピエトロ・スカリア |
配給 | 東宝東和 |
公開 | 2001年12月18日 2002年3月30日 |
上映時間 | 144分 |
製作国 | アメリカ |
言語 | 英語 |
allcinema | |
IMDb | |
『ブラックホーク・ダウン』(Black Hawk Down)は1993年に実際にソマリアでおこった壮烈なモガディシュの戦闘【米軍(多国籍軍)とゲリラの市街戦】を描いた戦争映画。ハイレベルな映像技術が話題となった。リドリー・スコット監督作品。
なお、タイトルに出てくる「ブラックホーク」とは、米軍の多用途輸送ヘリコプターUH-60 ブラックホークの強襲型、「MH-60Lブラックホーク」の事である。
目次 |
[編集] スタッフ
- 製作総指揮:ジェリー・ブラッカイマー
- 監督:リドリー・スコット
- 原作:マーク・ボウデン
[編集] 出演
- ジョシュ・ハートネット:レンジャー第4チョーク班長エヴァーズマン二等軍曹
- ユアン・マクレガー:同グライムズ技術兵
- トム・サイズモア:車輌部隊指揮官マクナイト中佐
- エリック・バナ:デルタフォースの古参兵"フート"一等軍曹
- ウィリアム・フィクトナー:同上サンダーソン一等軍曹
- サム・シェパード:作戦の指揮官ガリソン少将
- オーランド・ブルーム:レンジャーブラックバーン上等兵
- ユエン・ブレムナー:ネルソン
- ロン・エルダード:ドゥーラント
- ジェレミー・ピヴェン:ウィルコット
- ヒュー・ダンシー:シュミット
- ヨアン・グリフィズ:ビールス
- ジェイソン・アイザック:スティーレ
[編集] あらすじ
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
1993年、国際世論におされた米軍は民族紛争の続くソマリアへ派兵。内戦を終結させようと、最大勢力ババルギディル族を率いて和平に反対するアイディード将軍の副官2名を逮捕するため、約100名の特殊部隊を首都モガディシオへ強襲させた。当初、作戦は1時間足らずで終了するはずだったが、任務の遂行開始直後に、アイディード将軍派の民兵の攻撃により、2機のヘリコプター、ブラックホークが撃墜されてしまう。敵地の中心へ仲間たちの救出に向かう兵士らは、泥沼の市街戦に突入していく……。
[編集] 作品の特徴
本作はソマリア内戦への超大国による介入とその失敗を描いたノンフィクション小説『ブラックホーク・ダウン アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録』(マーク・ボウデン著・早川書房刊)を映画化したものである。
映画版における最大の特徴は、その徹底した描写である。状況説明を最小限にとどめ、作品のほとんどを戦場という状況の直接描写に徹している。喧騒とした街に突如として降下するアメリカ兵、一般住民と民兵が入り混じった乱戦、少数精鋭のアメリカと数で押す民兵、現場と司令部との齟齬など、(分かりやすい正規戦をモチーフとしたこれまでの戦争映画とは違い)現代の不正規戦における混乱を的確に描写した、おそらくは初の映画である。
映画化に際し、原作者のマーク・ボウデン本人が脚本に参加。映画化に際し、多すぎる登場人物の整理(登場人物のカットや、複数の登場人物を一人の映画キャラクターの要素に詰め込むなど)が行なわれた。後日談なども大幅にカットされている。
撮影は、実際のモガディシュがいまだ政情不安のため、地形の似たモロッコで実施された。主人公エヴァーズマン二等軍曹のモデルとなったマット・エヴァズマン退役曹長はロケーションを見学してモガディシュの戦闘を思い出し、足のすくむ思いをしたという。(ただし近代的な建物の多少存在するモロッコに対し、実際のモガディシュは内戦で荒廃が進みほとんどバラックだらけとなっている)
映画的な誇張が散見されるものの、基本的にはリアリティを求めた映像作りがなされている。近年の映画同様、本作でもCGが多用されているが、あくまでも撮影技術の限界を解決するために用いられている。たとえばエヴァーズマンとブラックバーンがダウンウォッシュの砂煙に包まれるシーンでは、実際の砂煙に包まれると撮影が困難であるため、CGで砂が合成された。又、ブラックホークが墜落するシーンは当初実物大模型での撮影が試みられたものの、重量感が不足したためにCGでつくり直された。このCGを作成する際、実際にSH-3が墜落したときの記録映像が参考にされた。
[編集] 作品に対する評価
本作はアメリカ国防総省の全面協力下で撮影されている。役者に対して兵士(レンジャーおよびデルタフォース)としてのレクチャーを施すのみならず、本物のMH-60 ブラックホークやAH-6/MH-6リトルバードといった軍用ヘリコプターを撮影のために貸与し、その操縦を実際の第160特殊作戦航空連隊所属パイロットが行ない、ファストロープ降下も本物のレンジャー隊員が行なって見せた。
しかし、その見返りとして、アメリカ軍にとって不利益ないくつかの描写は削除せざるを得なくなった。有名なエピソードとしては、レンジャー隊員がデルタ隊員を誤射しそうになるシーンは原作(史実)どおりに撮影されたが、国防総省からのクレームでカットされている。
又、ソマリア側の描写も希薄である。原作では作者が現地取材した内容に基づいてソマリア人の事情も多少描写されたが、映画にはほとんど反映されていない。
さらに、ジョン・グライムズのモデルとなったジョン・ステビンスが帰国後に少女強姦容疑により逮捕され懲役30年の刑が確定したが、監督(リドリー・スコット)や俳優(ユアン・マクレガー)らに対して、撮影中のステビンス逮捕は伏せられた。
これらの措置に対して、「結果的にアメリカ軍のプロパガンダ映画となってはいないか?」という批判が朝日新聞などの左翼よりのメディアや評論家等から提起された。日本国内では井筒和幸や松本人志らが本作を批判している。特に井筒の怒りは凄まじく、「こういう映画を『良い』と思う人と付き合いたくない」と徹底的に叩いている。
とはいえ、本作は2時間24分もの長尺映画であり、さらに原作の要素を全て取り入れたとしたら、映画としての体裁は破綻していただろう。又、前述の通り、本作は戦場という状況の描写に徹しており、そもそも何かを説明するという行為をほとんどしていない。
一方、軍からは「デルタ隊員が税金で狩りをする」描写もカットする要請がなされていたが、製作者側は「隊員たちが置かれていた過酷な状況を表現するのに必要」と反発。結局、軍側も同意してこのシーンは残された。
「この映画はアメリカの独善ではないか」という批判に対して監督は「私はイギリス人だ」と答えた。事実、本作の中でも煙草・コーヒー・紅茶といった小道具で、アメリカ人をさりげなくシニカルに表現する事を忘れてはいない。まして後年の作品であるキングダム・オブ・ヘブンでは大義名分を振りかざす十字軍の好戦派を皮肉っているが、考えようによってはこれをイラク戦争のアメリカ軍になぞらえていると言えなくもない。
リドリー・スコット作品は、特定のイデオロギー・国家・宗教などに関係なく、闘う者の意義を描いているとも考えられる。敵対地域から脱出した米兵たちを住民が歓迎するシーンも、まるで米兵たちの夢想であるかのような演出がされているが、DVDのオーディオコメンタリーでは史実だと述べられている。
[編集] 原作との相違点
上記以外にも、尺や演出の都合などから様々な描写が原作(史実)と異なっている。
- 映画冒頭でエヴァーズマンらが食糧配給所での虐殺・略奪行為を目撃するシーンがあるが、これは内戦状態を端的に描写するため創作されたものである。
- レンジャーのヘルメットに兵の名前(姓)が書かれていたが、これも実際には書かれておらず、登場人物をわかりやすくするための創作である。
- 武器商人のアリ・アットはモガディシュに拘留され、ガリソン少将の尋問を受けるような描写があったが、実際の捕虜たちは海外の米軍基地へ移送されていた。
- 劇中では特に触れられていないが、実際には作戦の一週間前に1機のブラックホークが既に撃墜されており、米兵たちの間では緊張が高まっていた。また作戦当日、撃墜された2機以外にも、さらに2機のブラックホークが被弾・不時着し、そのまま飛行不能となっている。(劇中でも、スーパー68が被弾する様子だけは描かれている)
- また、米軍が単独作戦を執った理由について映画では描かれていないが、原作では国連職員とアイディード派との間に癒着があったのではないかと米軍が疑っている様子がほのめかされている。
- 民兵のテクニカル(ピックアップトラックに武装を施したもの)が多数登場するが、実際には米軍の航空支援によって真っ先に破壊されることが予想されたため、戦闘中はほとんどが隠匿されていた。
- 映画ではブラックホークがRPG-7による攻撃を避けようとした拍子にブラックバーンが転落したことになっているが、実際のところ転落の原因ははっきりしていない。またRPG-7は、対戦車火器としては速度の遅いほうだが、弾頭は装薬によって飛び出してから推進用ロケットに点火する方式(RPG-7はよく”ロケット砲”と呼ばれるが、弾頭を本体から撃ち出すには弾頭に内蔵されているロケット推進剤を使用しているわけではないため、厳密には無反動砲の範疇に入る兵器である)のため初速は劇中の描写よりずっと速く、発射を目撃した後で回避することは現実問題としてほぼ不可能と思われる。
- 劇中のエヴァーズマンは目標のビルから直接墜落地点へ向かったが、実際にはハンヴィーに乗り一旦基地へ戻っている。
- 夜間リトルバードが米兵を取り囲む民兵を掃射するために、レンジャーが民兵の位置を赤外線ストロボでマーキングする描写があったが、実際には米兵の場所をストロボで示し、それ以外の区域が掃射された。
- エンドロールにて米兵の戦死者19名の氏名が表示されるが、作戦当日の戦死者は18名である。残る1名は後日、米軍基地に対する迫撃砲攻撃で死亡した。(撤退時に戦死したマレーシア兵を含めると当日のPKF側戦死者は19名になるが、エンドロールには書かれていない)