マネジメント・バイ・アウト
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マネジメント・バイ・アウト(MBO、Management Buy-Out、経営陣買収)とは、会社の経営陣が株主より自社の株式を譲り受けたり、あるいは会社の事業部門のトップが当該事業部門の営業譲渡を受けたりすることで、文字通りのオーナー経営者として独立する行為のこと。
会社の経営陣は、会社のオーナーから会社の経営を委託された者であって、必ずしも会社のオーナーである株主などの出資者とは一致しないことから、経営陣による買収が取り上げられる余地がある。
他者による当該会社の買収への対応策としてとられることもあれば、いわゆる「雇われ社長」などとして会社の経営に参画したものが、当該会社を自己の所有とするためになされる場合もある。
多くの場合は会社の商号や屋号等もそのまま引き継ぐため、日本においてはいわゆる「暖簾分け」になぞらえられることが多い。
なお、経営陣ではなく従業員が株式を譲り受けるような場合をEBO(employee buy-out)といい、経営陣と従業員が共同で株式を譲り受ける場合をMEBO(management employee buy-out)という。
目次 |
[編集] パターン
- 関係会社の独立
- 企業グループの中のある会社が、グループの経営戦略・経営方針の変更によって、グループから分離することになったときMBOの手法が用いられることがある。
- 非公開会社化
- 最近、株式公開企業について、機関投資家等に対するIRコストの高騰、さらには敵対的買収からの究極的回避策として、経営陣がMBOにより市場の株式を買い集め、上場を廃止し非公開とするケースも見られる。上場企業という価値を捨てることは、不合理なようであるが、被買収リスクから解放される、株価動向や機関投資家の買い付けや放出に一喜一憂しなくて済むなどのメリットがあり、知名度を向上したり、市場から資金を調達したりする必要性の少ない企業にとっては一つの選択肢といえる。
[編集] 増えてきた背景
MBOは1980年代から米国で活発化し、日本においては90年代後半より徐々に浸透した。日本でMBOが用いられるようになってきた背景には、90年代後半の景気低迷に伴い、企業が合理化を進める上で、事業構造再編の一手段として用いたことがある。つまり、周辺事業を拡大し続けてきたが、多角化し過ぎ資産規模が膨らんだ割には収益性は低下した。このため、本業との相乗効果が希薄な関連事業を整理し、資金効率を向上させるため、子会社・関係会社を売却して売却資金を得ることを目的として、MBOが注目された。
[編集] メリット・デメリット
[編集] メリット
- 現経営陣が大株主になることから、これまでの経営方針や雇用方針が継続される。
- 雇われ経営者から(集団ではあるが)オーナー経営者となることによって経営への責任感が一層高まる。
- 上場を廃止することで、被買収のリスクを回避し、短期的な市場の声に惑わされることなく、中長期的な経営戦略が保てる(=経営の自由度が高まる)。
- 上場をしていない企業は、特にIRや情報開示をする必要性がないため、企業秘密を保持したまま機敏な企業経営が可能となる。
- 後継者難のオーナー企業の創業者が、自分の意思を継いでくれる幹部に事業を譲渡することもできる。
- 親企業にとって、売却資金を本業の建て直しに充当することができる。
[編集] デメリット
- 中長期的にみた場合、上場を廃止することで市場からの資金調達の道を閉ざすことになり、資金調達の選択肢が狭くなる
- 元の企業グループを離脱した場合、グループ内取引の解消により、売上が減少する恐れがある。
- グループから外れることによって知名度が低下する懸念がある。
- 株式公開買付の場合、経営陣が買収側に立つことから、買付価格が恣意的に低く設定される可能性もあり、、株主の権利を侵害することになる。
- 非上場化することで、経営に対する監視機能が低下する懸念がある。
- 公開会社で一般株主が多い場合には、株主の利害調整が必要になる。経営陣による買収を好まない株主を説得する必要がある。
[編集] 原資の調達
MBOに必要な資金は、本来であれば会社を買い取る側の経営陣の自己資金によるべきであるが、買収する側(経営陣)が買収に十分な資金を持っていない場合、実際にはいわゆるベンチャーキャピタル(VC)などの協力を仰くのが一般的で、MBOの結果、資本的にはベンチャーキャピタル等が主宰する投資組合が大株主となるケースが多く見られる。なお、VC等は当該企業の企業価値をさらに高めた上、IPO(株式上場)させるか、他の企業に株式を売却するなどして、資金回収を図る。
このようなMBOは、買収先を担保にして資金を調達するという意味においては、LBO(レバレッジド・バイ・アウト)の面もある。
[編集] 日本における主なMBOの例
- マーベラスエンターテイメント - 1997年6月セガ子会社として設立。翌98年、社長交代に伴い退社した元社長・中山隼雄率いるアミューズキャピタルと息子にあたる中山晴喜(現社長)により株式を買収。その後、2002年11月中旬にJASDAQ上場を果たす。
- バンテック - 2000年に日産系列より経営陣により独立、英スリーアイ・グループ傘下へ。その後、セカンドMBOによりみずほキャピタルの支援を受け現在に至る。
- マルハペットフード - 2001年にマルハより独立。ただし、2006年現在、再びマルハの子会社となった。
- DXアンテナ - 2001年にドイツ銀キャピタルが創業者一族より株式を買収(のち船井電機に売却)。
- マスターピース・グループ - 2001年にグッドウィル・グループより資本関係上分離独立。
- タワーレコード - 2002年に米タワーレコードより独立(日興プリンシパル・ファイナンスの支援、のちNTTドコモの傘下に入る)。
- 国内信販(現楽天KC) - 2003年に日本信販(現UFJニコス)グループより独立(その後日本産業パートナーズ(みずほキャピタル系)の支援を受ける)。2005年に楽天グループ入り。
- チコマート - 2003年4月にキョウデンより独立、2005年倒産。
- 弥生 - 2003年に米インテュイットより独立。翌年にライブドアが買収。
- フードエックス・グローブ - 2004年1月、長期的な経営戦略から。(のち2006年10月に伊藤園の傘下に入る)
- 川崎電気(現かわでん)- すでに倒産していた同社を2004年夏頃にSBIホールディングスの支援を受けて経営陣による株式買収を行う。同11月26日に早期再上場を果たしている。(ジャスダック証券市場上場)
- ワールド - 2005年に経営陣による株式買収、非公開化計画を発表。
- ポッカコーポレーション - 2005年に経営陣による株式買収、非公開化計画を発表(アドバンテッジパートナーズの支援)。
- ぎょうせい - 支配株主からの独立。
- すかいらーく - 2006年6月、創業家による株式買収・非上場化(野村プリンシパル・ファイナンスの支援)。
- キュービーネット - 2006年に創業者である代表取締役会長の辞任に伴い、オリックスと経営陣が創業者より株式を買収。
- 神明電機 - 2006年10月20日に発表。社長を中心とした経営陣による株式買収・非上場化(エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズが支援)。
- 東芝セラミックス - 2006年10月30日に経営陣による株式買収、非公開化計画を発表(ユニゾン・キャピタルとカーライル・グループの日米共同支援)。
- キューサイ - 2006年に創業者である代表取締役社長の辞任に伴い、エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズと経営陣が創業家より株式買収・非上場化。
- 日本コンラックス - 1990年代前半頃に旧日本コインコから社名変更。米・マース社から独立、新たにEGグループの傘下に入る
- 富士車輌 - 2006年に経営陣による企業買収で野村プリンシパル・ファイナンスから独立、数年後の再上場を目指す
- 鳴海製陶 - 2006年9月20日に経営陣によるMBOを開始。CITICキャピタル・パートナーズの支援を受けて元親会社であった住金から9割取得、住金は最低2年間は残りの1割を継続保有してゆく方針。上記会社と同様、数年後の再上場を目指す。
- レックス・ホールディングス - 2006年11月10日に創業家を含む経営陣による株式買収・非上場化を発表(アドバンテッジ・パートナーズが支援)。
- サンテレホン - 2006年10月~11月のTOBにより、出資比率を引きあげた筆頭株主ダルトン・インベストメンツ・グループが、経営陣にMBOを提案し、2006年12月20日、経営陣が受け入れ、日本産業パートナーズとベインキャピタルグループの日米共同支援により非上場化する。(筆頭株主のダルトン・インベストメンツ・グループはMBOによるTOBを受け入れる方針)
- 日本ファイリング - 4期連続営業赤字と経営環境が厳しいため、上場をとりやめることとし、創業一族が出資する田嶋興業がTOB、非上場化。
- ツバキ・ナカシマ - 2007年1月下旬に現経営陣によるMBOを発表。同2月頃よりMBO開始。最悪、同年度中には非上場化する見通し。
- サンスター - 2007年2月14日に経営陣および従業員によるMEBOを発表。同社のスイス関連会社SSAによるTOB、非上場化。