ロードス島伝説
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『ロードス島伝説』(ロードスとうでんせつ、英 Legend of Lodoss)は、『ロードス島戦記』の第2シリーズとして出された水野良による小説とテーブルトークRPGなどの作品群で『戦記』の英雄戦争から約30年前の魔神戦争が舞台である。
若かりし頃のファーン、ベルド、ウォート、ニース、フレーベ達が描かれ、彼らが六英雄と呼ばれるに至った経緯など、『ロードス島RPG』の設定でしかなかった人物らを実存のキャラクターとして肉付けし、また心理描写や国家間の駆け引きといったものも随所に盛り込まれており、単なる「ゲーム小説」としての域に留まらないような作品となっている。
角川スニーカー文庫の小説以外に高山浩とグループSNEによるRPGリプレイ(I・II・III)が出されており、Iはロードス島戦記RPGコンパニオン、IIはロードス島RPGベーシックルール、IIIは同エキスパートルールにてプレイされている。
またタイトルは「戦記」だが、同じく六英雄たちの魔神戦争の戦いの顛末を描いた山田章博によるコミック『ロードス島戦記 ファリスの聖女』も出ている。こちらはファリスの聖女フラウスが主人公で、彼女と赤髪の傭兵ベルドとの関係や彼女が何故六英雄に名を連ねていないかなども描かれている。
それぞれ背景は魔神との戦いを描いた同一のものであるが、細部の設定が異なる部分も多い。が、しかしこれは「クリスタニア」など「シェアード・ワールド」で扱う一連の水野作品でのメディアミックス展開の常であり、それがまた魅力にもなっている。
目次 |
[編集] 作品概要
ロードス島において後々まで語り継がれる「魔神戦争」と、戦いを終結に導いた「六英雄」の伝説。しかしその伝説の影には、人々に語られることのない一人の勇者の姿があった。
主人公ナシェルが幾多の試練を乗り越え、ロードスを統一する英雄王として成長し、やがて歴史の闇に消えていく、後のロードス島では語られる事のない真実の魔神戦争。
様々な思いを秘めて、魔神と戦うべくナシェルの下に集う若き日の六英雄を始めとする「百の勇者」達。魔神の跳梁と複雑な利害関係のなかで合従連衡を繰り広げる諸侯・騎士達。魔神との戦いに協力しつつも、独自の価値観で暗躍する謎の魔法戦士。様々な人々の思いを押し流しなら、強大な魔神軍団とロードス全土の民との戦いが繰り広げられる。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
ロードス島南西部に位置するモス。そこは小国がひしめき合い、長年に渡って王国間の外交交渉、対立や動乱などが絶えず行なわれていることから大国からは蔑まれていた。しかし争いが絶えないが故に精強な兵たちは、ひとたび団結すればロードス最強であろうとも噂されていた。
モス最南端の弱小国スカードの王子ナシェルは、国の各地で聞かれる不気味な噂を心配し、国を治めるべき父王の不在にも心を痛めていた。ある日、騎士団とともに調査の目的で訪れた南のドワーフの集落「石の王国」で、奇怪な生き物との激しい死闘の末に唯一生き残ったドワーフ族の鉄の王フレーベを辛くも救出する。ナシェルは戦った相手が魔神であることを知るが、その対抗策を講ぜずにいた。モスには対外共闘連合「竜の盟約」があるが、スカードはそれに名を連ねていない。意識を回復したフレーベ王から話を聞いた彼が国の民を守る為に出した決断とは……。
[編集] 登場人物
[編集] 百の勇者
「荒野の賢者」ウォートの考案を受けたライデン評議会のアイシグ議長の呼びかけに応じて、ロードス全土で自発的に魔神との戦いを始めた人々の総称。その性格から基本的に自発的意思で「百の勇者」と名乗った者は、その時点で全て「百の勇者」の一員となる。後にモスで結成された「勇者隊」に参加した人数は2万人弱であるが、モスに到達する前に倒れた者や、一度は戦いを決意したものの途中で挫折した者、自称しただけの者などを全て合わせると、その数倍に達する。 百の勇者や六英雄も参照のこと。
なお最も狭い意味として、「勇者隊」から選抜され「最も深き迷宮」に挑んだ凡そ500名を指す場合もある。
- ナシェル
- モスの小国スカード王国の王子。幼い頃から「太陽の王子」と呼ばれ、魔神復活前には傭兵隊長ベルドと宮廷魔術師ウォートの両名から、将来の「ロードスを統べる英雄王」と期待を寄せられるほどの成長を見せていた。特に「ロードス最強の戦士」を自負するベルトに「5年後は勝てないかも」と思わせるほど、無限の可能性を秘めていた。
- 魔神復活後は縁戚ハイランドに身を寄せて辺境伯に任じられ、風竜ワールウィンドを駆る竜騎士となった。分裂したモス公国にあって一人魔神との戦いを続け、いつしか「天空の騎士」と称され対魔神戦争の象徴となる。その後ロードス各地から馳せ参じた「百の勇者」を束ねる将軍として、モス連合騎士団と共に魔神と対決する。ハイランドの第一王女ラフィニア姫と結婚。
- 光(ファーン)と闇(ベルド)を従え、天(フラウス)と地(ニース)の祝福を受け、文武(ウォートとフレーべ)に支えられて、ロードス島統一への道を歩み始める。
- 六英雄
- 魔神王との最後の戦いで生き残った、ファーン、ベルド、ウォート、ニース、フレーベ、名もなき魔法戦士の6人。
- フラウス
- 「ファリスの聖女」と呼ばれる至高神ファリスの神官戦士。
- 魔神の実態を探るべくファーンと共にモス公国に赴き、帰り道の自由貿易都市ライデンで「赤毛の傭兵」ベルドに出会い、ファリスの神託にあった「闇に閉ざされし英雄」だと確信して、ベルドの心の闇を払うべく以後行動を共にする。「六英雄」と共に「最も深き迷宮」の最下層まで辿り着き、魔神王と対決した。
- フロイとリーゼン
- ハイランドの双子の王子。ジェスターの弟で、ナシェルの従弟。フロイが兄でリーゼンが弟。自国に対する「魔神の同盟国」との誹謗を払拭するため、当時ハイランドを訪れていた「白き騎士」ファーンに同行してライデンに向かい、魔神との戦いを始める。以後ロードス各地で魔神と戦い、眉目秀麗な「双子の王子」としての話題性やユーリーの歌の波及効果もあり、ベルドと並ぶ最も有名な「百の勇者」となる。
- 王族とは思えないぐらい陽気で闊達な性格だが、王族としてのプライドも秘めており、農民から侮辱されるとやはり激怒する一幕もあった。ハイランドを出たのは、兄ジェスター王子の後継者としての地位を保証するためという意味もあるため、魔神との戦いが終わってもハイランドに戻る気は無かった。そのため「百の勇者」がモス国内に集結した当初は、名乗り出ることを避けて野宿する羽目になった。後にナシェルの離宮に集うベルドやファーン達と合流し、ナシェル亡き後はその後を継いで勇者隊を二つに分け、将軍としてまとめた。
- 「最も深き迷宮」の戦いではユーリーやハイランドの騎士出身者を率いて先陣を切り、第九階層を唯一生き抜いたパーティとなった。負傷しながらも後続の六英雄たちを最下層(第十階層)へ導いた後は、歴史から姿を消してアレクラスト大陸へ渡ろうと考えていたが、地上に戻る途中で魔神の群れに遭遇し、以後の消息は語られていない。この戦いで死亡したとされているが、生き延びて大陸に渡ったという伝説が残されている。
- ユーリー
- 双子の王子フロイとリーゼンの魔神退治に同行していた吟遊詩人。フロイとリーゼンの活躍を歌にしてロードス中に広め、結果的に「百の勇者」の宣伝役を務めた。
- 精霊使いにして剣の心得もある精霊剣士としての面もあり、フロイとリーゼンはモス公国内のいずれかの王子で、双子の王子と似たような理由で出奔したのではないかと推測していたが、あえてそれを確認することはなかった。「最も深き迷宮」の第九階層までを生き抜き、双子の王子と共に消息を絶った。
- カノンの自由騎士
- 名前は不明。剣の腕前は「百の勇者」の中でも最高クラスで、体力面ではやや劣るものの技術面ではナシェルを凌ぎ、意志力も強靭。「六英雄」ベルドやファーンに次ぐ実力者と思われる。元カノン王国の下級騎士(地方領主)であったが、形骸化を露呈し、国民を守ることが出来ない騎士団に見切りをつけて「百の勇者」に加わる。「頭」をリーダーとする彼のグループは、二人の魔法使い(「精霊使いの老エルフ」と「マイリーの神官戦士」)を含むバランスの取れた6名の冒険者編成で、無名ながら何体もの上位魔神を葬った「百の勇者」の中でもトップクラスのグループ。若年の戦士2名を除いた4名で「最も深き迷宮」の戦いに挑み、最大の激戦となった第八階層まで到達するも、第九階層で彼らの姿を見ることは出来なかった(第九階層に到達したのは、六英雄を除くと3隊のみで、「双子の王子」の隊以外の2隊は第九階層で全滅)。
- 剣の腕前に比して下級騎士に留まっていたのは、武より文を重んじるカノン王国の気風と家柄が低いことに由来すると思われる。名も名乗らず、自らが表に出ることを好まないのは、故国カノンにいる一族や縁戚に対する配慮なのかも知れない。
- 名前不詳で冒険者編成、更に非常にレベルが高いのに小説中に登場する場面が少ない事から、ゲームにおけるプレーヤーパーティーを模した登場人物との説がある(参照:魔神戦争#ゲームでの魔神戦争)。
- 頭(かしら)
- 傭兵を生業としていた戦士。太め、髭面の男で、「百の勇者」の仲間に「騎士志願の若者二人」を誘いに故国カノンを訪れて、「カノンの自由騎士」が「百の勇者」となるきっかけとなる。剣技や器量では明らかに「カノンの自由騎士」に数段劣っていたが、自由騎士当人が表に出たがらないこともあって、発起人であり世俗的な経験の豊富な彼がリーダーを務めた。
- その力量に比して少々我意の強い性格であったが、魔神との戦いの中で戦士としてもリーダーとしても成長を遂げ、最後は「カノンの自由騎士」や「マイリーの神官戦士」も認めるほどの人物となっていた。
- 名前は不明で、「頭」は「カノンの自由騎士」がそう呼んでいたことによる。
- 老エルフ
- 齢1000歳を超えるエルフの精霊使い。「カノンの自由騎士」が領主として治めていた地方にある「森のエルフ」の長老で、過去に妖魔に襲われた時に領主一族に恩義を受けていた事から、「カノンの自由騎士」を助けるために派遣された。
- ルシーダ
- モス北部「鏡の森」のエルフ族の精霊使い。女性。魔神に略奪された古代樹「聖なる黄金樹」を奪還するため、「鏡の森」を出て各地で魔神との戦いを始めたエルフ達の一人。自由都市ライデンでベルトに同行して魔神将率いる魔神達と戦う。ベルドに思慕を抱いていたが、復活した魔神将に殺された。
- 「聖者」と呼ばれる男
- 何らかの神の神官でもなく、いかなる種類の魔法も使えないが、なぜか鏡像魔神(ドッペルゲンガー)と人間を見分けることが出来ると言われる人物。本人は自分のことを、ロードスの意思に導かれている聖者だと考えており、信者も少なからず居る。「百の勇者」に加わった時には魔神将とも戦える腕の持ち主である近衛のハサラ以下100人を超える従者たちの集団を率いていた。彼に魔神と指摘された者は、殺された後に醜悪な魔神の姿を現す。
- ほとんど何の心得もなく、人物的にも俗物でしかない、英雄性を感じさせる人物でないながらその能力ゆえに百の勇者の首脳の一人となり、ハイランド王城の魔神王の出現も生き延びるが、その場に居合わせたことが命取りとなった。
- 魔神を見分けるという特殊な力はロードスの意思に導かれたとも「名も無き狂気の神」に与えられたとも言われていたが、実は鏡像魔神が、殺して食した人間の狂気に飲まれて、自分が魔神であることを忘れていたため同族を見分けることができたのだった。
- ヴェノンとの密約によって旧「石の王国」における大遂道の戦いに参加するも、戦いの最中に魔神王の幻術によって配下の戦士達と切り離され、ひとりの所をニースの姿に化けた魔神王に連れ出される。そして真実を告げられると共に正体を暴かれ、魔神の姿で最期を遂げる。
- ハサラ
- 高い実力を持つ戦士で、「聖者」の熱心な信奉者。
[編集] スカード王国
- プルーク
- スカード王国の国王。正妃エリザとの間にナシェル、妾妃ナターシャとの間にリィーナをもうける。聡明な名君と評されてた。
- 自分の余命が短いことと、自身を凌駕する傑出した王子の将来に思い悩み、ついに古代魔法王国時代に封印された魔神軍団の復活と支配を試みる。
- リィーナ
- ナシェルの異母妹。「月の姫」と呼ばれる美姫。「太陽の王子」と呼ばれる兄ナシェルに対し、出生(妾の子)に対する劣等感と、それとは裏腹な強い思慕を抱く。
- 実は母ナターシャが他の男との間に設けた不義の子であり、ブルーク、ナシェルとは血の繋がりを持たない(彼らはその事実を知らない)。
- 父プルーク王により魔神復活の生贄にされるが、自身と血の繋がりのない彼女を生贄にした事でブルーク王の企ては崩壊する。
- ヒューロ
- スカード王国宰相。特に秀でた才能は無い凡庸な人物であるが、誠実に王に尽くし、プルーク王が魔神を率いてスカードを占領すると、プルーク王の下に参じる。
- 後に魔神が占領したリュッセンの統治を任されるが、最後はナシェルに跪いた瞬間に魔神に殺される。
- サイラス
- スカード王国騎士団長。騎士団長として相応の優れた腕前であるが、実戦経験はない。
- 性格的に剣技より女性を愛し、金や地位より名誉を重んじるため性格で、スカードがヴェノンに吸収された時に愛する女性と共に国を捨て、以後も魔神との戦いには参加しなかった。
- タトゥス
- スカード宮廷付きの薬草師。薬草の知識ではウォートも一目置くほど博識で経験も豊富。幼少の頃からナシェルの世話をしている。スカードを去るナシェルに同行し、傷の癒えぬフレーべの面倒をみる。魔神戦争後、ナシェルの妻ラフィニアに付き従いヴァリス国のファーンの領地で暮らす。
- ブルーク王の狂気を止められなかった事を深く悔やみ、彼の一門は後々までその罪を背負うことになる。
[編集] モス公国
- マイセンII世
- モスの強国ハイランドの太守にして竜騎士。知勇に秀でた名君。同腹の妹エリザの息子(甥)ナシェルを庇護下に置き、辺境伯に取り立てる(この件で他のモス諸国との関係が一時的に悪化する)。
- 竜騎士のみが罹る病“竜熱(ドラゴンフィーバー)”を発病していたが、分裂していたモス諸国を纏めてモス公王の座に就き、膨大な戦費を捻出するためウォートとニースの助力を得て「太守の呪縛」に支配されていた「金鱗の竜王」を解放する。
- 「我が娘がロードス公妃となり、我が孫がロードス公王になるのであれば……」と語り、娘とナシェルの婚姻を認め、ウォートの企てを暗に支持する。
- ジェスター
- ハイランドの皇太子にして竜騎士。フロイとリーゼンの兄。王国の世継ぎであるため自身が剣を取って魔神と直接戦う事はあまり無いが、もし「百の勇者」に加わっていたら「六英雄」は「七英雄」になっていたと評されるほど傑出した人物。
- モス連合騎士団の将軍としてナシェルと共に魔神と戦い、魔神殲滅後に来るであろう「ナシェルによるロードス統一」を考えるようになる。
- ラフィニア
- ハイランドの第一王女。3人の王子達の妹。愛称はニア。後にハーケーンの皇太孫との縁談を断り、ナシェルと結婚。
- ナシェルが姿を消した後、ナシェルの子を出産。薬草師タトゥスの世話を受けながらヴァリス王国のファーンの領地で、ナシェルの帰還を信じて待ちつづける。
- ハイゼル
- ハイランドの近衛騎士。魂の魔神(ガランザン)と契約してナシェルに殺される。
- ヤーベイ
- モスの強国ヴェノンの太守。
- デュオン
- ヴェノン第二の都市マスケトを任されるヤーベイ王の実弟、マスケト公爵。良識ある誠実な人物として対外的に信用されている。
- ハンセル
- ヴェノンの第二王子。次期マスケト公爵に予定されている。
- アロンド
- ヴェノンの第三王子。兄である皇太子とは不仲で、スカード王国を自身の権力基盤とするためナシェルの妹リィーナ姫との結婚を求めていた。スカード併合後は念願のスカード公となるが、魔神により領土を奪われる。
- 性格に難はあるものの鋭い洞察力をもつ有能な指揮官で、モス連合騎士団の将軍としてナシェルと共に魔神と戦い、魔神殲滅後に来るであろう「ナシェルによるロードス統一」を考えるようになる。
- バーラン
- モスの大国ハーケーンの第二王子。老齢の父王と賢明で内政に秀でている皇太子に代わり外交と軍事を担当する。特に馬術・槍術を得意とし、自他共に認めるモス屈指の騎士。
- モス連合騎士団では実質的な総指揮官としてナシェルと共に戦い、魔神殲滅後に来るであろう「ナシェルによるロードス統一」を考えるようになる。
- エランタ
- ハーケーンの第三王女。大国の王女として何不自由無く育ったため驕慢な性格。以前スカード王国を訪問した際にナシェルに惚れ、その気の無いナシェルの態度に苛立ち、最後は両国の外交問題にまで発展してしまった事がある。
- ベルテ
- リュッセンの女将軍。将軍の家に生まれ男の兄弟がいないため将軍職に就く。戦場での駆け引きに長けており、小国の騎士団を率いて大国の騎士団に引けを取らない活躍を見せる。
- 後にリュッセンが魔神に攻め落とされた時には結婚し将軍職を退いていたが、最後まで戦い戦死した。
- ハービー・ランセン
- リュッセンの上級騎士で、ベルテと結婚し将軍となる。リュッセンが魔神に攻め落とされた時に王族を城外に逃した後であえてベルテのもとに戻り、最後まで魔神と戦って共に戦死した。
[編集] ヴァリス王国
- ワーレンI世
- ヴァリスの国王。新王国暦442年、傑出した聖騎士としてヴァリス国王に選出され、以降良好な治世を重ねていたが、10年前の新王国暦463年、狩猟中に嫡男アレス王子をミノタウロスに殺される。が、凄惨な王子の死を受け入れられずに狂気に陥り、ミノタウロスを王子と思い込み離宮にかくまったあげく王子の護衛役だった騎士たち全員を離宮の警備に回し情報の隠蔽を図る。もっとも、彼の狂気は「息子が未だ生きている」という妄想に取り憑かれた一点のみに限られ、その他の部分では全く正常で、それまでの聡明で果断な王のままであり、剣の腕も全く鈍らず、馬上槍試合のトーナメントでは時々優勝するほどであった。しかし精神の狂気に陥った部分の状態は深刻で、ヴァリスの宮廷には重苦しい空気が立ち込め、「白き騎士」「百年に一人の騎士」と言われたファーンに期待する声が生じる。
- 魔神が解放された当時は病床にあったが、王子の病死(実際はファーンとフラウスが幽閉していたミノタウロスを倒した)のショックで意識を失い、そのまま程なく死亡。
- その死は魔神復活の報と重なり、後継者争いと対魔神対策の狭間で、ヴァリス王国は身動きできない状態に陥る。朝野に期待されたファーンがヴァリス国王に即位するのは23年後の新王国暦496年のことである。
- ジェナート
- ヴァリスの至高神ファリス教団の高司祭。形式主義に囚われた教団の改革を強力に推し進めている人物。次期国王にファーンを推す。
- ゲイルザック
- ヴァリスの宰相。名門出身の老騎士で実務家としては定評があるが決断力を欠き、その性格が災いしてワーレン王の後任人事で混乱を招く。
- メイファー
- ヴァリスの至高神ファリス教団の最高司祭(大司祭)。当初はジェナートの教団改革を支持していたが、妥協を許さないジェナートの進め方に危機感を抱き始め、次期国王にジェナートの改革を支持するファーンではなく、保守的な近衛騎士隊長ドルロスを推す。
- ドルロス
- ヴァリスの近衛騎士隊長。大司祭を始めジェナートの教団改革に反対する人々の支持で次期国王候補となる。
- ファーンに競り勝ち国王になるため、宮廷の反対を無視して独断で同調する聖騎士達を率いてヴェノンを攻めるが、モス連合騎士団の前に大敗し戦死。
- マイス
- ヴァリスの宮廷つき魔術師。若いが「賢者の学院」出身の優秀な魔術師で、ファーンが魔神に盗まれた「三聖具」を奪還するのに協力する。ヴァリス宮廷をファーン支持で纏めようとするが、ファーンの出奔には間に合わなかった。
- アレン
- ヴァリスの聖騎士で、南部アダンの街近郊の領主。腰を痛めた父に代わって若くして家督を継ぐも、当時のワーレン王の狂気に嫌気がさして、次期国王(彼自身はファーンが望ましいと考えていた)が即位するまでは領地経営に専念しようと考えていた。領内の視察中に農園の下働きだったフラウスと出会い、ちょうど現れた妖魔との戦いの中でフラウスの「聖女」としての力を目の当たりにする。
- 形骸化した当時のファリス教団では、有力者の推薦なしには聖職に就く事が出来なかった事から、聖女フラウスの生みの親と言って良い人物。魔神戦争では登場しなかった。
- オドネル
- かつてヴァリスの王子・アレスの養育係を務めていた元・近衛騎士隊長。アレス王子の死後は、王子の離宮(ミノタウロスの迷宮)警備の任に就く。狂気に犯されてなおワーレン王に忠誠を捧げ、ミノタウロス退治に訪れたファーンとフラウスに戦いを挑み、その刃に倒れた。
[編集] その他の登場人物
- ボイル
- アラニア北部の白竜山脈にあるドワーフの「鉄の王国」の「石の王」。ロードス南部のドワーフの兄弟国「石の王国」を滅ぼし、長年の盟約を破ったプルーク王を討つため屈強なドワーフ戦士団を率いてモスに向かうが、マーファの高司祭ニースに止められる。
- 後に「百の勇者」と行動を共にする「鉄の王フレーべ」の下に、少数づつ分散して配下のドワーフ戦士を送り込む。
- アイシグ
- ライデン評議会の議長。ウォートとは旧知の間柄で、魔神の首に賞金をかけ「百の勇者」をロードス全土に呼びかける役を担う。
- ゲイロード公爵
- アラニア第二の都市ノービスの領主。アラニア王家に連なる名門の出だが、政治や権力争いに関心が無く享楽的な性格。魔神の被害に対して有効な対策を打ち出せず、マーファ教団や住民の反抗に手を焼いているが、優柔不断な性格から結局何も出来ない状態で悩んでいた。
- 魔神ドッペルゲンガーに殺される。
- ワールウィンド
- スカード王国の王子ナシェルの騎竜となった風竜(エア・ドラゴン)種のエルダードラゴン(老竜:ロードス島戦記の「五色の魔竜」ブラムド、エイブラ、ナースとは種類は異なるがほぼ同格)。
- 通常の竜騎士の騎竜は成竜または幼竜であり、最強の部類に入るエルダードラゴンを騎竜とした例は他になく別格の存在。風竜種は決して戦闘が得意な竜種ではないが、天空では無敵に近い存在であり、空を飛ぶ魔神群を瞬く間に蹴散らしている。
- 単独で魔神王に挑み致命傷を受けたナシェルを庇って自身もまた致命的なダメージを受けるが、竜魔法を駆使して瀕死のナシェルを連れて風竜のみが辿り着ける特別な場所に向かう。そして竜の本能に従って最後にある特別な魔法を自身と、そしてナシェルにかける。
- 魔神王(デーモン・ロード)
- 古代王国の召喚魔術師アズナディールに魔界から呼び出され支配されていた魔神(デーモン)の最上位種の一種。スカード王国のブルーク王に解放された後、魔神王は4体の魔神将(アーク・デーモン)と種々の数多の魔神(デーモン)を従えてロードス全土に大きな混乱をもたらした。
- 生け贄にされたリィーナ姫を仮の肉体として器にしている。本体は魂のみの存在なため肉体を傷つけられても滅びることはなく瞬時に再生(ただしローフル・ブレードはこの邪悪な再生能力を遅らせる)する。その為、古代王国では暴走した場合の対策として、精神にダメージを与える剣「魂砕き(ソウルクラッシュ)」を用意していたが、解き放たれた魔神王はその剣を見つけ自身の武器とし、六英雄たちの戦いの際には魔法の鎧「影纏い(シャドウ・ウィルダー)」を身に着けていた。
- 器にされた人間の姿のままだが、肉体能力は人間を凌駕している。また、その吐息や流血は毒性や腐食性を持つ。普段は全裸だが、魔法によって黒い羽毛の翼と山羊のような脚や角をもった姿になることができる。
- 他者の姿や記憶などを得る性質を持つこの魔神王は、鏡像魔神(ドッペルゲンガー)の最上位種なのではないかと、荒野の賢者ウォートに推測されていた。また聖者に対しても、自身が鏡像魔神に属することを窺わせる発言をしている。
- 魂すら消去するはずの「ディスインテグレート(分解消去)」の魔法が魔神王に効かなかったのは、この魔法の本質が「物質を分解して消滅させる魔法」であり、肉体を持たない相手には効果が無い事と同じ理由と考えられる。
- アズナディール
- 古代王国時代の召喚魔術の門主。魔界を発見し、その住人である魔神の召還に始めて成功、また魔神王を支配した唯一の人物とも伝えられる。
- 召還された魔神軍団は古代王国の長年の宿敵であったサイクロプスの王国を滅ぼし、魔界や魔神の研究は特に擬似生命の創造や魔力付与・幻覚の分野に多大な恩恵をもたらし、「魔力の塔」の建設と合わせて古代王国に絶頂期をもたらした事で知られる。
- その功績と支配下においた魔神軍団を背景に魔法王の座を狙うも、メルドラムゼー(魔力の塔を建造し、第152代魔法王となった拡大魔術門主)一派との抗争に敗れ去った。残された魔神王とその軍団がなぜロードス島に封印されていたかは定かでないが、「魔神召還の門」がロードス島にあったとする説もあり、アズナディール存命時から必要のない時は最も深き迷宮に封印されていた可能性もある。
[編集] 作品の逸話
結末が決まっている物語として始めた『ロードス島伝説』ではあるが、作者が割と安易な気持ちで登場させたナシェルの存在によって、当初とはまったく違った話になったと、あとがきで何度も述べられている。小説は第4巻で一度完結を迎えるが、作者本人の希望・読者の要望またザ・スニーカー誌で山田氏の漫画が完結したことなども記念して書かれた物がフラウス編として第5巻になっている。
また、山田章博氏のコミックは掲載紙が何度か変わっていて、ザ・スニーカー誌での連載をしていた際は氏が病気を患って入院したこともあり、読者からは完結するか心配されていたが、2001年6月にて無事終焉を迎えた。
[編集] 作品リスト
- 長編小説
- ロードス島伝説 亡国の王子(1994年/9月/角川スニーカー文庫)
- ロードス島伝説2 天空の騎士(1996年/7月/同上)
- ロードス島伝説3 栄光の勇者(1997年/4月/同上)
- ロードス島伝説4 伝説の英雄(1998年/4月/同上)
- ロードス島伝説5 至高神の聖女(2002年/11月/同上)
- 短編集
- ロードス島伝説 太陽の王子、月の姫(1996年/11月/角川mini文庫)
- ロードス島伝説 永遠の帰還者(2000年/1月/角川スニーカー文庫)
- RPGリプレイ
- ロードス島伝説I 魔神襲来(1994年/11月/角川スニーカーG文庫)
- ロードス島伝説II 魔神召喚(1995年/11月/同上)
- ロードス島伝説III 魔神討伐(1996年/11月/同上)
- 漫画
- ロードス島戦記 ファリスの聖女I(1994年/5月/ドラゴンコミック)
- ロードス島戦記 ファリスの聖女I・II<新装版>(2001年/11月/ニュータイプ100%コミック)
- 雑誌掲載
- ロードス島伝説 ライブノベル「がんばれ、ナシェルくん!」 (執筆:小川直人)
- ザ・スニーカー1994年冬号に掲載。コンプRPGに付属したロードスRPGのシナリオ「魔神掌握の杖」のリプレイ。
- ロードス島伝説 ライブノベル「魔神を討伐せよ!」 (執筆:栗原聡、GM:水野良)
- ザ・スニーカー1996年8月号に掲載。