ヴォカリーズ (ラフマニノフ)
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セルゲイ・ラフマニノフの歌曲《ヴォカリーズ 嬰ハ短調》は、1912年に出版された、ソプラノまたはテノールのための《14の歌曲集》作品34の終曲のことである。ソプラノ歌手アントニーナ・ネジダーノヴァに献呈されている。母音「アー」で歌われる溜め息のような旋律と、淡々と和音と対旋律とを奏でていくピアノの伴奏が印象的である。ヴォカリーズの性質上、歌詞はない。ロシア語の制約を受けないためもあって、ラフマニノフの数多ある歌曲の中でも、最も人口に膾炙した1曲となっている。また、さまざまな編成による器楽曲としても広く演奏されている。
目次 |
[編集] 概要
ロシア音楽に共通の愁いを含んだ調べは、この作品においては、バロック音楽の特色である「紡ぎ出し動機」の手法によっており、短い動機の畳み掛けによって息の長い旋律が導き出されている。鍵盤楽器による伴奏が、もっぱら和音の連打に徹しながら、時おり対旋律を奏でて、瞬間的なポリフォニーをつくり出しているのも、初期バロックのモノディ様式を思わせる。旋律の紡ぎ出し部分は、ラフマニノフが愛したグレゴリオ聖歌《怒りの日》の歌い出し部分の借用にほかならない。また、拍子の変更こそ散見されるものの、(ロシア五人組の特徴である)不協和音や旋法の多用を斥けて、古典的な明晰な調性感によっている。西欧的な手法や素材を用いながらも民族的な表現を可能たらしめているところに、ラフマニノフの面目躍如を見て取ることが出来る。
[編集] 音域
出版譜では、ソプラノかテノールで歌いうると明記されているものの、実際にはたいていリリック・ソプラノによって、また最近では稀にボーイソプラノやカウンターテナーによっても上演・録音されている。音域は、高音の嬰ハ音にまで達するが、高音イで止まる別の案も作曲者によって提案されている。好んで用いられるのは前者の案であるのだが、いずれにせよ女声の高音域の魅力を効果的に引き出したものである。テノール版は、ソプラノより単に1オクターヴ低いだけなので、実際にはコントラルトの音域になっている。したがって、移調なしでテノールが歌うと、ピアノの伴奏と混ざり合って奇妙な響きを発しうる。おそらくそのためもあってか、テノール歌手が取り上げることはほとんどない。
[編集] 編曲版
ラフマニノフの《ヴォカリーズ》は作曲者の生前から非常に人気が高く、さまざまな形に編曲されてきた。中でも有名な編曲例の一つは、ピアノ独奏版であろう。少なくとも、アラン・リチャードソン版、ゾルターン・コチシュ版、アール・ワイルド版の3種が知られている。ワイルド版は、19世紀ヴィルトゥオーソのトランスクリプションの伝統を引いた華麗な編曲で知られており、リチャードソン版は、原曲に装飾や音域移動を施している。コチシュ版は、中間部までは原曲に忠実であるが、再現部になって装飾変奏や和声の変更が加えられる。この解釈には、田部京子のように異を唱え、リチャードソン版に似たより単純な再現部に「修正」して演奏する向きもあるものの、コチシュ版が、ラフマニノフ自身の「チャイコフスキーの子守唄」の編曲様式(1941年)を意識的に踏襲しているという点は注意すべきである。
またピアノ版と同じくらい有名な編曲版として、作曲者自身による管弦楽版や、チェロやヴァイオリンなどの独奏楽器とピアノ伴奏によるデュエット版が挙げられる。これらの編曲版では、原調のままでなく、ホ短調に移調されていることがしばしばである。
このほかに、声楽版や合奏版では、次のような編曲例がある。
- 管弦楽伴奏つき合唱版:ノーマン・ルボフ版とウォルター・ストッフ版。
- 管弦楽伴奏つきソプラノ独唱版:アルカーディ・ドゥベンスキー版。
- 管弦楽版:ラフマニノフ本人の編曲版(ホ短調)。ほかにモートン・グールド版とクルト・ザンデルリング版
- 2台ピアノ版:ヴィーチャ・ヴロンスキー版
- ヴァイオリン独奏版(ピアノ伴奏):ヤッシャ・ハイフェッツ版(ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ編曲によるチェロ版は、ハイフェッツ版の再編曲)
- チェロ独奏版(ピアノ伴奏):ヴォルフラム・フーシュケ版
- コントラバス独奏版(ピアノ伴奏):オスカー・ツィメルマン版(ホ短調)
- フルート独奏と管弦楽伴奏版:チャールズ・ガーハート版
- サクソフォーン版:ラリー・ティール版
- トランペット版:ロルフ・スメドヴィグ版
- トロンボーン版(ピアノ伴奏):クリスティアン・リンドベルイ版
- テルミン版:クララ・ロックモアの録音
- シンセサイザー版:冨田勲の録音
[編集] 商業的な利用例
その印象的な旋律美ゆえに、しばしばCMなどの映像作品のBGMに利用されており、アダルトゲームQuartett!では、ヴァイオリンとピアノのための編曲がサウンドトラックに収められている。