中国茶
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中国茶(ちゅうごくちゃ)は中国または台湾で作られた茶のこと。
茶はもともと中国原産であるので、茶葉を使用して淹れる茶のすべてを中国茶と呼ぶこともできるが、ここでは中国および台湾で製造され、かつ好まれて飲まれるものを「中国茶」として記述する。現在、中国茶として飲まれるものを詳細に分類すると数千種にも及ぶとされるが、製法によって大きく6種類(青茶・黒茶・緑茶・紅茶・白茶・黄茶)に分けられる。これらを六大茶類と呼ぶ。中国や台湾はいうに及ばず、世界中にその愛好者を持っている。
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[編集] 歴史(中国茶)
中国では「茶」は「茶 ちゃ chá」とも「茗 めい míng」とも呼ばれる。中国の伝説では、神農の時代から茶が飲まれてきたと言われている。漢の時代に書かれた詩に茶を表す文字が見られ、それが最古の文献と言われている。当時は嗜好品というより、薬としての役割が強かった。
隋の時代には、茶を火にかけ煮出す方法や、抹茶、煎茶など、さまざまな楽しみ方がされ、同時に茶器の原型といわれるものが多数考案された。
宋の時代に入って、茶の新しい製法が次々に考案され、茶の種類が爆発的に増えた。この時代、闘茶などの遊びも考案された。茶が主要な輸出品となった。
清の時代、茶器が現在使われている茶器とほぼ同じ物になった。
[編集] 歴史(茶芸)
もともと中国には、日本のようなお点前はなく、茶芸は台湾で大手茶問屋の社員だった蔡榮章(現「陸羽茶学研究所所長」)が70年代後半ごろ日本の茶道を参考に創始したものである。大手茶問屋の茶葉消費促進策で、この問屋が設立した「陸羽茶芸中心」がお茶の知識やいれ方の技能を問う「泡茶師」の資格試験も実施している。それが、経済成長下の中国大陸に入り、やがて韓国にも広がっていった。明代から清代の初めにかけて、福建省の南部で生まれたとされるウーロン茶の飲み方「工夫茶」が原型になってはいるものの、当時の記録にお茶の入れ方、動作については触れられておらず、もっと手順が簡単だったと見られる。現在の茶芸の茶巾をたたむという所作は、日本の茶道の影響の表れであるといえる。基本的には「日本の茶文化とは、客をもてなす事。中国は美味しいお茶を楽しむ事」と認識される。 (朝日新聞・夕刊3面 2006年12月18日より一部抜粋)(2007年1月6日朝日新聞web版記事マイタウン静岡より追記)
[編集] 中国茶の種類
前述したように中国茶は茶葉の醗酵のさせかた、および製造方法によって大別して6種類に分けられ、これを六大茶類と呼ぶ。醗酵が進めば進むほど、茶の色(水色)が濃くなり、味も濃厚なものとなる。本項では醗酵度の低い順にそれぞれを記述し、代表的なものを挙げる。
[編集] 緑茶
緑茶は茶葉を摘み取ったあとに加熱処理を行ない、酸化醗酵を止めてしまったもの。無醗酵茶。中国においても、緑茶はもっともポピュラーなお茶である。日本茶とは対照的に、加熱の際に茶葉を蒸さずに釜炒りする方法が主流である。中国において、茶全体の消費量の7~8割が緑茶であるといわれる。
[編集] 代表的な緑茶
- 龍井茶
- 黄山毛峰
- 信陽毛尖
- 碧螺春
- 恩施玉露(蒸し茶)
- 滇緑
[編集] 白茶
茶葉の若葉、もしくは芽を選んで摘み、これらを乾燥させてわずかに醗酵を進めたところで加熱処理したもの。揉みこむ工程がないため、醗酵はゆっくり進む。その若葉の産毛が白く見えるところから白茶と呼ばれている。一芯一葉で摘まれることがほとんどであり、白茶には高級品が多い。
[編集] 代表的な白茶
- 白毫銀針
- 白牡丹
[編集] 黄茶
茶葉の芽を摘み、緑茶と同じように加熱処理を行ってから、わずかに後醗酵させたもの。黄茶も揉みこみの工程がないため、茶葉そのままの姿で淹れられる。茶葉と水色が淡い黄色であるために黄茶と呼ばれる。製造量は年に数百キロにすぎず、六大茶類の中でももっとも貴重品。清の皇帝も好んで飲んだという。
[編集] 代表的な黄茶
- 君山銀針
- 霍山黄芽
[編集] 青茶
ある程度醗酵を進ませてから加熱処理を行ったもの。半醗酵茶とも。ただし、茶の種類によって醗酵度合は20~80%と大きく異なる。茶葉が醗酵過程で銀青色になるため「青茶」と呼ばれる。烏龍茶ともいう。よく揉みこまれているため、茶葉のひとつひとつが球状、もしくは曲がりくねった棒状になっている。烏龍茶と呼ばれる理由は、色が烏のように黒く、揉みこまれた茶葉の形状が竜の姿に似ているからともいわれる。
[編集] 代表的な青茶
[編集] 紅茶
茶葉を乾燥させ、徹底的に揉みこむことによって酸化醗酵を最後まで行わせたもの。紅茶と呼ばれるのはその水色の赤さから。中国で製造される紅茶は煙で燻したかのような香りがすることが多く、実際に松葉で燻すものもある。
[編集] 代表的な中国紅茶
[編集] 黒茶
緑茶と同じように加熱処理を行ってから、コウジカビによる後醗酵を行わせたもの。他の茶とは異なり、新鮮なものではなく長期間に渡って醗酵させたものが珍重される。保存期間は長いもので数十年にも及び、ワイン並みのビンテージものが存在する。後醗酵を行うため、独特の風味がある。プーアル茶が黒茶の代表格である。
[編集] 代表的な黒茶
- プーアル茶(普洱茶)
- 磚茶
[編集] その他の中国茶
これら六大茶類に花弁の香りを緑茶に移した花茶(はなちゃ)をあわせて七大茶とする分類がポピュラーである。
なお、この他に茶外茶と呼ばれる分類がある。菓子のような八宝茶や、木の根などを使用して茶葉を使わない漢方茶の類もこの茶外茶に分類される。
[編集] 代表的な花茶
- ジャスミン茶(茉莉花茶)
- 桂花茶(けいかちゃ)
- 米蘭茶(まいらんちゃ)
[編集] 茶を使う茶外茶
- 八宝茶(はっぽうちゃ)
- 三道茶(さんどうちゃ)
- 虫屎茶(ちゅうしちゃ)
[編集] 茶を使わない茶外茶
- 菊花茶(きくかちゃ)
- 甜茶(てんちゃ)
- 苦丁茶(くちんちゃ)
- 玫瑰茶(まいかいちゃ)
- 蓮芯茶(れんしんちゃ)
- 花果茶(かかちゃ)
[編集] 茶葉を摘む時期による分類
茶は、茶葉の成長の度合いによって、風味、成分が大きく異なるので、いつ茶葉を摘んだかによっても、価値が変わる。特に緑茶でははっきりと分類が行われている。
- 春前茶
- 立春前に摘んだ茶。甘みがあり、最上級とされるが、気候が寒くなると摘めない年もある。
- 明前茶
- 清明節前に摘んだ茶。日本の一番茶に近い高級品。
- 雨前茶
- 穀雨前に摘んだ茶。日本の二番茶に近い中級品。
[編集] 中国茶器
中国茶を淹れるためには数多くの茶器が必要だと考えられていることが多いが、これは茶芸と呼ばれる一種茶道的なセレモニーとして用いられるものである(後述)。一般の中国人は日本人が日本茶を飲むのと同じく、気軽に茶を楽しんでいる。
代表的な中国茶器は以下のものが挙げられる。なお、これらの茶器ではなく、普通のマグカップや日本茶用の急須でも問題なく淹れることはできる。が、やはり専用のもので淹れたほうが淹れやすい。
- 蓋碗 - ガイワンと読む。蓋のついた茶碗。茶葉を入れて湯を注し、蓋を茶漉し代わりにしてそのまま飲むこともできる。もっとも一般的な茶器。
- 耐熱ガラス - 比較的低温で淹れる緑茶にはガラスコップがよく使われる。茶葉が開いたり、ジャンピングするさまを見て目を楽しませるという用途もある。コップの外側に、竹などで編んだカバーを付けて、手で持っても熱くないようにすることもある。
- 茶壷 - チャフーと読む。いわゆる急須。中国では香りを珍重するため、日本茶を淹れるよりも小ぶりなものが使用される。茶葉が開ききったときに茶壷に茶葉がいっぱいになるように量を調整するのがコツ。ガラス製のものも存在する
- 茶海 - ちゃかい。小型のピッチャーのようなもの。青茶などの場合、茶壷で抽出した茶水を均一に分けるために、一度茶海に入れてから茶杯(小さな湯飲み)に分ける場合がある。
- ポット - 中国茶の紅茶も、一般の紅茶と同様に抽出するためポットを用いる。
[編集] 茶葉別に用いられる茶器
前述の六大茶類に分類された茶葉別に用いられる茶器は異なる。
- 緑茶 - 蓋碗、耐熱ガラス
- 黄茶 - 蓋碗、耐熱ガラス
- 白茶 - 蓋碗、耐熱ガラス
- 青茶 - 蓋碗、茶壷
- 紅茶 - ポット
- 黒茶 - 茶壷
[編集] 茶壷の手入れ
茶壷には材質には、陶器製・磁器製・ガラス製の三種類が使われる。磁器製とガラス製の品は通常の食器のように手入れして問題はないが、陶器製の素焼きの茶壷は手入れが独特であり注意を要する。
1 新品は使用前に歯ブラシや布などで砂や粉を丁寧に落とし、数回熱いお湯で流す、その後、青茶とお湯を入れ一晩放置すると泥くささが抜けてよい(無論、これは手入れの一環であり飲むのは好ましくない)。
2 新品の素焼きの茶壷は風味を吸ってしまうとされるが、長く使用するに従い、茶渋が付着し、風味がよい茶を入れられるようになり、茶壷そのものに艶も出るため、長く使い込んだ物のほうがよいとされる、そのため、使用後も洗剤や研磨剤の類は使わずに、水で念入りに洗い、通気のよい乾燥した場所で乾かすとよい。(使用直後の茶殻や、茶を浸した柔らかい布巾で磨くというやり方もあるが、逆に壊したり傷をつけないように注意)、また、お湯を入れて煮沸するというのも、カビの発生を防ぐという意味で有効である
[編集] 中国茶の淹れかた
前述したように中国茶といっても醗酵度、製法によって大きく異なり、淹れかたも一様ではない。基本的な注意点は以下のとおり。
- 事前に茶器を暖めておく。
- 茶葉を冷蔵保存していた場合は常温に戻るまで淹れるのを待つ。
また、湯温や淹れかたに関しても基本的にこういうものとされているだけのものであり、各自がそれぞれの茶において好みの淹れかたを見つけることがもっとも大事なコツであるといえる。
[編集] 湯温
基本的には醗酵度が高くなるほど高い温度の湯を用いる。中国では旨みよりも香りを珍重するため、湯温は比較的高めにして淹れられることが多い。逆にアミノ酸をはじめとする茶の旨みを楽しみたい場合はやや低めにして使うとよい。また、安めのお茶は温度を高く、高めのお茶は温度を低くするのは日本茶と同様だが、これも茶の種類によって異なる。
種類 | 温度 |
緑茶 | 60~75度 |
白茶 | 70~80度 *1 |
黄茶 | 70~80度 |
青茶 | 80~100度 |
紅茶 | 90~100度 |
黒茶 | 90~100度 *2 |
- 白茶に関しては「産毛で覆われているため、高温で淹れたほうがよい」という意見と「弱醗酵茶であり、やや低温(80度前後)の湯を用いたほうがよい」という意見に分かれる。ここでは後者の意見を採る。
- 淹れる前に軽く洗茶(後醗酵の際の埃等を洗い流す)をする。
なお、花茶に関しては香りを吸着させた茶の種類に準じる(が、花茶はほとんど緑茶であるので緑茶と同様に淹れてしまって構わない)。
[編集] 工夫茶(茶芸)
工夫茶(功夫茶)は茶芸のひとつで、現在、最も普及している茶芸である。もともと明から清代の福建省で生まれ、半醗酵茶である烏龍茶を淹れる手法として発達してきた。そのため、烏龍茶(青茶)以外を淹れるのには適さないが、現在では烏龍茶以外でも工夫茶の手順で淹れる者が多い。工夫茶の基本的な手順は以下のとおり。なお、工夫茶では香りを楽しむことを優先するため、沸騰した湯を用いることが多い。ただし、泡が出るほどに熱した湯は酸素不足で茶を淹れるのには適さないとされる。
- 茶壷(急須)、茶杯(小さな湯呑み)、茶海(大ぶりの器)、聞香杯(細長い器)などの茶器を茶盤(もしくは茶船)に並べ、熱湯を注いで茶器全体を暖める。各茶器の湯は使用寸前に捨てる。
- 茶壷に茶葉を入れ、高い位置から熱湯を茶壷から溢れるほどまで注ぐ。
- 茶杓(竹べら)を用いて茶壷に浮かんだ泡を取り除いてから、茶壷にゆっくりと蓋をする。
- 温度を一定に保つため、再度、茶壷に湯をかける。
- 茶葉を充分に蒸らしたら、濃度を一定に保つために茶海に茶を最後の一滴まで注ぐ。
- 茶海から聞香杯に茶を注ぐ(聞香杯を使うのは台湾の風習)。
- 聞香杯から茶杯に茶を移し、聞香杯に残った香りを楽しむ。
- 茶杯から茶を飲み、残り香を楽しむ。
- 二煎目以降は蒸らし時間を伸ばして淹れる。よい茶葉であれば葉が開ききるまで淹れることが可能。
青茶を淹れる場合でも「最初に注いだ湯をすぐに出す」と洗茶を勧められる場合もあるが、製茶技術の進歩にともなって行われなくなりつつある。これは茶葉の持つ最初の香りを逃さないようにとの配慮でもある。
[編集] ティーバッグ
最近はその利便性が受けて中国茶のティー・バッグも少なからず売られている。ただし、紅茶のティーバッグで用いられるダストティーに比べると、中国茶は茶葉が大きく開くために通常のものよりもテトラバッグのほうが向いている。
[編集] 聞き茶(闘茶)
闘茶は,聞き茶とか歌舞伎茶・あて茶などとも言われ
お茶を使った遊びのひとつです。
闘茶とは何人かで何種類かのお茶をのみ,その銘柄を当てる遊び。
[編集] 中国茶に含まれる成分
[編集] 茶酔い
[編集] 食材として使用される中国茶
[編集] 龍井蝦仁
最も有名なのは、杭州の龍井茶と川エビをつかった「龍井蝦仁」という料理である。殻を剥いた小エビと龍井茶の若芽を薄塩味で炒めたものであり、茶の香りを楽しみながら、葉も食べる。
[編集] 食品の香り付けに使用される中国茶
四川料理の「樟茶鴨」、庶民的な食品である「茶鶏蛋」など、茶の香りを料理に移す手法を用いる料理も少なくない。洋風では、紅茶をクッキーやケーキの香り付けに使う例もある。台湾では、梅の砂糖煮に紅茶の葉を加え、香りをつけたものもある。