伝達性海綿状脳症
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伝達性海綿状脳症(でんたつせいかいめんじょうのうしょう)または伝搬性海綿状脳症(でんぱせい—)はプリオン病の別名。この疾患の脳組織には海綿状態が共通の特徴として見られる。光学顕微鏡で多数の泡の集まりのように見えるので海綿状の名がある。
1980年頃から定着した疾患概念。1950-1970年代は、遅発ウイルス感染症と呼ばれていた。しかしながら、病理組織に感染徴候、炎症所見がないのが特徴と認められていた。また、ウイルス感染の封入体のように、電子顕微鏡でウイルスは検出されない。(ウイルス発見の報告もあるが、再現性が無いとするのが一般的である。)
海綿状態は、先天性代謝異常症のグルタール酸血症(1型)でも高度である。また、栄養失調、その他の疾患でも起こりうる状態なので、伝達性海綿状脳症に限るものではない。しかし、この特徴がその後の、一連の伝達実験の成功、原因解明を導くきっかけとなった。
[編集] 時代背景
1959年、W.J.Hadlowがスクレイピーとクールーが海綿状態において類似することを発表し、1966年、Gajdusekがクールーをチンパンジーに伝達することに成功した。同じ頃、神経難病を高等哺乳類に伝達する実験が行われていたが、いずれも不成功の中、海綿状態を共通項として、クロイツフェルト・ヤコブ病、家族性のゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群、(最近では牛海綿状脳症)などの伝達が証明された。
[編集] 「伝達」という用語
現在、プリオン病は感染症の一種と分類される。しかし、プリオン病の発病メカニズムは感染というよりも代謝異常に近い。遅発性ウイルスとしての麻疹ウイルスの関与は1970年代に確立するが、同じ頃、伝達性海綿状脳症の代謝異常説が提唱されている。生田は、クロイツフェルト・ヤコブ病の病理組織に脂質の異常を認め、1974年に脂質代謝異常説を唱えた。1978年にはslow virusという用語をやめ、伝達性海綿状脳症を提唱している。また、赤井は1984年の著書で、感染という従来の用語は不適切で、伝達(transmission)というべきと強調している。
[編集] 参考文献
- Prusiner, S. B. (1998). "Prions." Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (23): 13363-13383. PMID 9811807.
- 赤井淳一郎 『クロイツフェエルト・ヤコブ病』 星和書店、1984年。前書きで、著者がCJDの生検標本(感染した脳)を素手で扱ったと書いている。121頁では論文の紹介として、過度の心配はいらないとしている。1999年(生年は1933年)にアルコールに関する書籍を出版し、身をもって証明している。(注意しなくて良いといっているのではない。)
- インターネット利用(上記以外)NLM Gateway、Pubmed centralで閲覧できる範囲の文献、タイトル、サマリー。
- Amazonでの著者検索。