大母音推移
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大母音推移(だいぼいんすいい)とは、イギリスの言語である英語の歴史において、中英語期後期(1400年代初頭)にはじまって、近代英語期(1600年代前半)に入って終了した、母音体系での一連の変化。英語名、GREAT VOWEL SHIFTの直訳。
中英語期に、強勢のある7つの長母音全てについて、長音位置が一段ずつ以上高くなる変化をした(母音によっては、二重母音化した)。そのため、それら該当する英単語の発音と綴り(スペリング)とが一致しない、大きな原因ともなった。
その後、15世紀中頃以降の活版印刷の技術向上、それに付随した、書物等の文書の普及などに伴って、語の綴りが固定化され、発音だけが変化していくことともなる。
(母音の変化)
-
- (閉)
- (閉)
i: →[eɪ] ([əʊ]←) [oʊ]← u:
↑ (→[aɪ]) ([aʊ]←) ↑
e: o:
↑ ↑
ε: ɔ:
↑
a:
-
- (開)
- (開)
綴りとその発音との関係は、この大母音推移以前は、綴りにほぼ忠実な発音で、日本におけるローマ字にも近い、「綴りと発音」の関係であったが、この変化により、前述のとおり、綴りと発音との一定のずれが生じてきた。
主な変化(上図の説明)
- 長母音[a:]は、二重母音→[eI]への変化。(例:nameなど。「ナーメ」→「ネィム」。)
- 長母音[ε:]や[e:]は、長母音[i:]への変化。(feelなど。「フェール」→「フィール」。)
- 長母音[i:]は、二重母音[aI]への変化。(timeなど。「ティーメ」→「タィム」。)
- 長母音[ɔ:]は、二重母音[oʊ]への変化。(homeなど。「ホーメ」→「ホゥム」。)
- 長母音[o:]は、長母音[u:]への変化。(foolなど。「フォール」→「フール」。)
- 長母音[u:]は、二重母音[aʊ]への変化。(nowなど。「ヌー」→「ナウ」。)
(注:
- 一般的には、発音記号の分からない場合が多いため、例を挙げ、それに近いカタカナ表記で記した。その場合、英語と日本語との発音が異なるため、目安としての近似的な発音ととらえること。
- 例として挙げた単語は、あくまでも「例」として、現在の発音とその綴りから類推し再現したもののため、当時、完全に成立していない語や、現在と意味や用法の異なる語も含まれる。
- 当時から英単語として存在する語のうち、語末の’e’は、現在はほとんど発音されないことが多いため、カタカナ表記もそれに従った。が、この現象は、「大母音推移」の部分とは関連のない変化である。)
ea, oa はそれぞれ e, o の広音を表していた。