富の再分配
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富の再分配(とみのさいぶんぱい)または所得再分配(しょとくさいぶんぱい)とは、所得を公平に配分するため、租税制度や社会保障制度、公共事業などを通じて一経済主体から別の経済主体へ所得を移転させることをいう。貧富の差を緩和させ、階層の固定化とそれに伴う社会の硬直化を阻止して、社会的な公平と活力をもたらすための経済政策の一つである。富の再分配・所得再分配が指し示す範囲はかなり広く、富裕層・貧困層間の所得移転から先進国・発展途上国間の所得移転までが含まれる。
富の再分配・所得再分配は、資源配分の公平性を確保し、社会に流動性をもたらす効果がある。低所得者にも階層の上昇の機会と公平性をもたらす一手段でもあり、現代民主主義国家に必要不可欠な要素となっているが、行き過ぎた再分配は資源配分の効率性を阻害し、経済効率の低下を招くと批判される。どの水準による再分配が適切と言えるのかはそれぞれの文化における価値観によって異なり、富の再分配にどのような手法を使うか、どの水準の分配を行うかは各国でさまざまな議論がある。生活保護制度は、「所得の多い人」から「所得の少ない人」への所得再分配であり、医療保険制度は、医療サービスの利用を通じて、主として保険料を財源とした「健康な人」から「病気の人」への所得再分配である。
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[編集] 沿革
19世紀から20世紀にかけての欧米諸国では、拡大しすぎた貧富の差とそれに伴う様々な社会矛盾を解消・緩和するため政府による福祉政策の充実が進んでいった。そして20世紀中期-後期までにヨーロッパ諸国では、福祉国家の建設が目指されるようになった。こうした福祉国家政策は当時、先進諸国の国民からは大いに歓迎され、 20世紀の大衆消費社会を成立させ、いくつかの国では高度経済成長をもたらす原動力ともなった。
福祉国家体制は大きな財政負担を伴うものでもあり、1960年代から1970年代にかけて、先進各国の国家財政は次第に悪化していった。1980年代からはミルトン・フリードマンなどの主張にもとづいて、アメリカや英国を中心として福祉国家政策が見直され、経済社会における所得再分配の機能を抑制し、経済競争を重視する政策が採用されるようになった。累進課税はしだいに弱められ、人頭税の導入も企てられた。ただしアメリカ合衆国では、伝統的に所得再分配に否定的な価値観が根強く、高度な福祉国家的政策がとられたことはない。
日本でも、再分配機能の高度化による経済非効率が見られ始めたと主張されるようになり、1980年代前期には中曽根内閣による精力的な行政改革が行われたが、英国ほど徹底したものではなく、1990年代に小沢一郎らがより本質的な改革を主張するに至った。2000年代に入ると小泉内閣によって極端な再分配抑制策が唱えられるようになり、階層の固定化が心配されるようになった。
[編集] 経済政策としての例
[編集] 租税制度による所得再分配
累進課税・相続税などにより中央政府・地方政府が富裕層からより多くの租税を収取し、貧困層などに対する行政サービスの原資とするものである。
[編集] 労働保障制度による所得再分配
労働者の給与や福利厚生を保障することにより直接富が貧困層などに回るよう講じる方法である。労働法による最低給与規定、給与と会社との債務の相殺の禁止等である。
[編集] 優遇税制度による所得再分配
税制優遇処置により富を社会福利の方面へ誘導する方法である。寄付金控除制度や学校法人、NPO法人等公益法人の特別税制などがある。
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