嵐が丘
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『嵐が丘』(あらしがおか、原題:Wuthering Heights)は、エミリー・ブロンテの唯一の長編小説。 1847年にエリス・ベルの筆名で発表。
イギリスのヨークシャーの荒野に立つ荒れ果てた館「嵐が丘」を舞台に、復讐に燃えるヒースクリフの愛を描いた作品。発表当時は不評であったが、20世紀に入ってから評価が高まった。
目次 |
[編集] あらすじ
1801年、一人の男が、家を借りた挨拶のため、大家の住む「嵐が丘」を訪れ、そこで主人のヒースクリフ、義理の娘キャサリンやその従兄のヘアトンなどの奇妙な住人に会う。そして古女中エレン(ネリー)から、ヒースクリフと館にまつわる数奇な物語を聞かされる。
ある日、嵐が丘の旧主人アーンショーが身寄りのない男児を哀れに思い、家に連れて帰り、ヒースクリフと名づけた。ヒースクリフはその家の娘キャサリンと仲良くなるが、その他アーンショウ家とリントン家からは虐待される。やがて成長し、キャサリンがリントン家のエドガーと婚約すると、ヒースクリフは突如家を出る。やがてヒースクリフが裕福になって戻ってくると、キャサリンは錯乱して死亡、さらにその兄ヒンドリーを追い出す。ヒースクリフの復讐はまだ終わらず、その矛先はエドガーとその娘キャサリンや、ヒンドリーの息子ヘアトンにも向いた。
キャサリンはヒースクリフの息子リントンと結婚するが、リントンがまもなく死に、リントン家の財産はヒースクリフのものになる。しかしキャサリンはヘアトンと愛し合うようになる。ヒースクリフは、亡きキャサリンへの愛憎と、果たせない復讐を残して死んでいく。
[編集] 登場人物
- ヒースクリフ
- 孤児。哀れに思った嵐が丘の主人に拾われる。
- キャサリン
- 嵐が丘の主人の娘。ヒースクリフと仲良くなる。
- エドガー
- リントン家の息子。キャサリンと結婚。
- イザベラ
- エドガーの妹。ヒースクリフと結婚。
- ヒンドリー
- キャサリンの兄。
- キャサリン・リントン
- キャサリンとエドガーの娘。ヒースクリフの子と結婚。
- リントン・ヒースクリフ
- ヒースクリフとイザベラの息子。
- ヘアトン・アーンショー
- ヒンドリーの息子。
- エレン・ディーン
- 嵐が丘に仕える家政婦。
- ロックウッド
- 嵐が丘近隣に家を借り、そこでエレンから嵐が丘の主人にまつわる話を聞かされる。
[編集] 作品解説
虐げられた孤児ヒースクリフの長年にわたる復讐劇を描いた作品である。復讐に燃えるヒースクリフをはじめ、神秘的な激しい人間像を描く反面、平凡な語り手ロックウッドや家政婦ネリーら現実的な人間がうまく入れあい、複雑な恋愛構造を巧みに描いている。またイギリスのヨークシャーの自然と風土をみごとに描ききっている。作者エミリーが住んだハワースの家一帯には原野が広がっており、激しい雪と風が吹き荒れ、その中にたたずむ家を中心としゴシップ要素を強く盛り込んでいる。主人公ヒースクリフ(Heathcliff)は、「ヒースの崖」の意味であるが、まさにゴシック演出の象徴といえる。
エミリーは物静かで家庭的であった一方、感情を表に出さず、孤独に耐え抜く強い力を持っていた。当時、男性風の匿名で出されたこともあって誰も女性だとは思わなかったが、激しい愛憎描写や荒涼たる自然描写は圧巻である。
発表直後は酷評され、それよりも姉シャーロットの『ジェーン・エア』に注目が集まった。エミリーの死後、シャーロットによって第2版が編集されたが、20世紀に入ってから評価が高まり、モームは自著『世界の十大小説』でその一つに挙げ、ブランデンは『リア王』『白鯨』と並ぶ英語文学の三大悲劇と評した。
なお原題にある「Wuthering」とは、嵐が荒れるというイングランド北部の方言である。Wuthering Heightsを「嵐が丘」と訳したのは斎藤勇。
[編集] 邦訳
- 阿部知二訳『嵐が丘』(岩波文庫)
- 田中西二郎訳『嵐が丘』(新潮文庫)
- 大和資雄訳『嵐が丘』(角川文庫)
- 河野一郎訳『嵐が丘』(中央公論社「世界の文学」)
- 永川玲二訳『嵐が丘』(集英社文庫)
- 田中晏男訳『嵐が丘』(京都修学社「ブロンテ姉妹集」)
- 鴻巣友季子訳『嵐が丘』(新潮文庫)
- 河島弘美訳『嵐が丘』(岩波文庫)
[編集] 派生作品
[編集] 映画
- 「嵐ケ丘」"Wuthering Heights"(1939年、製作:アメリカ、監督:ウィリアム・ワイラー、主演:ローレンス・オリヴィエ、マール・オベロン)
- 「嵐が丘」"Abismos de Pasion"(1953年、製作:メキシコ、監督:ルイス・ブニュエル、主演:イラセマ・ディリアン、ホルヘ・ミストラル) - メキシコの砂漠が舞台
- 「嵐が丘」"Wuthering Heights"(1970年、製作:米英合作、監督:ロバート・フュースト、主演:アンナ・カルダー・マーシャル、ティモシー・ダルトン)
- 「嵐が丘」"Hurlevent"(1986年、製作:フランス、監督:ジャック・リヴェット、主演:ファビエンヌ・バーブ、リュカ・ベルボー) - フランスの田舎が舞台
- 「嵐が丘」(1988年、製作:日本、監督:吉田喜重、出演:松田優作、田中裕子) - 鎌倉室町時代の日本が舞台
- 「嵐が丘」"Wuthering Heights"(1992年、製作:イギリス、監督:ピーター・コズミンスキー、主演:ジュリエット・ビノシュ、レイフ・ファインズ)
[編集] 舞台
[編集] ドラマ
- 「愛の嵐」 - 1986年6~10月放送の東海テレビ放送製作の昼ドラマ。昭和の戦前戦後の日本が舞台。田中美佐子、渡辺裕之、長塚京三主演。
- 「新・愛の嵐」 - 2002年7月 - 9月放送の東海テレビ放送製作の昼ドラマ。上記のリメイク作品。藤谷美紀、要潤、石原良純主演。
[編集] 小説
- 「本格小説」 - 2002年、水村美苗作。戦後の日本が舞台の翻案小説
- “文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト) - 野村美月作。本作が題材のミステリー小説。
[編集] 漫画
[編集] 音楽
本作から着想した音楽作品もいくつかみられる。
- 「嵐が丘」"Wuthering Heights" - 1978年発表、ケイト・ブッシュのデビューシングルおよびデビューアルバム「天使と小悪魔」収録の歌曲。なお、この曲は、その後1994年から、日テレ系で放映されているテレビ番組「恋のから騒ぎ」のオープニングテーマ曲として使用される。
- 「静寂の嵐」"Wind & Wuthering" - 1976年発表、ジェネシスの2番目のアルバム
- 「嵐ヶ丘」ALI PROJECT - 1993年発表、シングル。1994年発表のアルバム「DALI」他、「jamais vu」、「Deja Vu~THE ORIGINAL BEST 1992-1995~」、「Romance」にも収録されている。
- 「嵐が丘」 - 2005年発表、ヴァイオリニスト川井郁子の5番目のアルバム『嵐が丘』の表題曲。主人公の感情を表現した弦楽曲で「ヒースクリフに捧ぐ」の副題が添えられている。