情報処理技術者
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情報処理技術者(じょうほうしょりぎじゅつしゃ)とは、日本の国家試験である情報処理技術者試験の合格者の総称。実際には、合格した試験区分ごとに「基本情報技術者」「初級システムアドミニストレータ」等により示すことが多い。 ただし、情報処理技術者試験の位置づけは能力認定試験であるため、合格者でなければできない独占業務はない。以下に試験の概要を示す。
情報処理技術者試験(じょうほうしょりぎじゅつしゃしけん)は、国(経済産業省)が、情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)第7条の規定に基づき、情報処理に関する業務を行う者の技術の向上に資するため、情報処理に関して必要な知識及び技能について行う国家試験である。 情報処理技術者試験の試験事務は、独立行政法人情報処理推進機構が行う。
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[編集] 試験区分
情報処理技術者試験の区分(試験区分)及びそれぞれの対象となる知識及び技能は、情報処理技術者試験の区分等を定める省令(平成9年通商産業省令第47号)において定められている。
2006年度現在の試験区分、対象となる知識及び技能は、以下のとおりである。なお、情報処理推進機構情報処理技術者試験センターによって、各試験区分の対象者像、役割と業務及び期待される技術水準は「情報処理技術者試験出題範囲」において、対象者像に必要とされる具体的な知識・技術・能力や達成指標は「情報処理技術者スキル標準」(ITSS)において定められている。
- システムアナリスト
- 情報処理システム(情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系をいう。以下同じ。)及びこれを用いる業務その他の活動の一体的な企画に必要な専門的知識及び技能
- システム監査技術者
- 情報処理システムの監査に必要な専門的知識及び技能
- プロジェクトマネージャ
- 情報処理システムの開発に係るプロジェクト管理に必要な専門的知識及び技能
- 上級システムアドミニストレータ
- 情報処理システムの活用に必要な専門的知識及び技能
- アプリケーションエンジニア
- 情報処理システムの開発に必要な専門的知識及び技能
- テクニカルエンジニア (システム管理)
- 情報処理システムの管理に必要な専門的知識及び技能
- テクニカルエンジニア (ネットワーク)
- ネットワークシステムの開発に必要な専門的知識及び技能
- テクニカルエンジニア (データベース)
- データベースシステムの開発に必要な専門的知識及び技能
- テクニカルエンジニア (エンベデッドシステム)
- エンベデッドシステムの開発に必要な専門的知識及び技能
- テクニカルエンジニア (情報セキュリティ)
- 情報処理システムにおけるセキュリティを設計・整備・運用するのに必要な専門的知識及び技能
- 情報セキュリティアドミニストレータ
- 情報処理システム及びこれを用いる業務におけるセキュリティ管理に必要な専門的知識及び技能
- ソフトウェア開発技術者
- ソフトウェアの開発に必要な共通的知識及び技能
- 初級システムアドミニストレータ
- 情報処理システムの活用に必要な基礎的知識及び技能
- 基本情報技術者
- 情報処理システムの開発に必要な共通的基礎知識及び基礎技能
[編集] 試験実施の詳細
試験の実施については、情報処理技術者試験規則(昭和45年通商産業省令第59号)の定めるところによる。その詳細は、試験実施の都度、あらかじめ官報に公示されるとともに、受験案内書において説明される。
試験の機会は年2回(春期・秋期)であるが、受験者が数万人規模となる初級システムアドミニストレータ、基本情報技術者及び(2005年より)ソフトウェア開発技術者の試験区分を除き、実施されるのは春期又は秋期の1回のみである。
[編集] 試験問題及び合格
試験はすべて筆記試験で行われる。試験区分により詳細は異なるが、午前試験(多肢選択式)及び午後試験(試験区分によりIとIIに分かれ、記述式又は論述式の両方あるいはいずれかを併用する。午後試験も多肢選択式のみの試験区分もある。)が1日間実施される。多肢選択式試験は、マークシート解答方式である。
午前試験は項目応答理論 (IRT) による換算スコアにより、午後試験は素点のスコア(論述式は4段階の評語)により採点結果を示し、すべて合格基準を達する者を合格とする。
合格発表は試験区分により異なるが、試験日から2週間~2ヶ月の間に行われ、合格者には経済産業大臣が合格証書を授与する。
なお、これまでは多岐選択式問題の正式な解答は試験から1週間程度経たないと分からなかったが、2006年度春期試験からは早期化が図られ、多岐選択式問題の解答および問題冊子の閲覧が試験翌日の正午に可能となった。
[編集] 午前試験の免除
以下に掲げる要件に該当する場合は、午前試験が免除され午後試験のみの受験となる。
- ソフトウェア開発技術者試験合格者が、合格年度の4月1日から2年以内にシステムアナリスト、プロジェクトマネージャ又はアプリケーションエンジニアの各試験を受験する場合(出願時に免除申請必須)。
- システムアナリスト、プロジェクトマネージャ又はアプリケーションエンジニアの各試験合格者が、合格年度の4月1日から2年以内にこの3つの試験区分のうち他の2区分の試験を受験する場合(出願時に免除申請必須)。
- 初級システムアドミニストレータ試験及び基本情報技術者試験の構造改革特別区域における特例措置(経済産業省関係構造改革特別区域法第二条第三項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令(平成15年経済産業省令第39号)第24条及び第25条)による場合。
[編集] 備考
- 情報処理技術者試験は、1969年に「情報処理技術者認定試験」として創設され(この際の根拠は通商産業省告示のみ)、翌年から国家試験となった。
- 1994年と2001年に大規模な試験区分改編が行われており、現在の「基本情報技術者」は改編前の「第二種情報処理技術者」、「ソフトウェア開発技術者」は「第一種情報処理技術者」とほぼ同程度に位置づけられている。
- 「技術者」試験という名称であるが、「アドミニストレータ」が付く3試験区分はシステム利用側を対象としている。
- 1984年から2003年までは、指定試験機関として財団法人日本情報処理開発協会を指定し、同協会に情報処理技術者試験センターを置いて試験事務を行ってきた。2004年1月、旧情報処理振興事業協会を独立行政法人情報処理推進機構に改組することに併せて、試験事務を移管した(試験センターの組織はそのまま同機構に移っている。また、同協会はそのまま存続している)。
[編集] 試験に対する批判
情報処理技術者試験は国内最大規模で開催される資格試験(能力認定試験)であり、減少傾向にあるとはいえ毎回多数の受験者を集める。またその歴史も情報関係の試験としては長く、一般の認知度も高い。しかしそれだけに、その出題内容や試験制度、そして資格そのものについての批判が絶えない。
産業界や現場の技術者達からの批判としては以下のようなものが挙げられる。
- 試験は業務内容を反映していない
- 試験は最新の技術動向を反映していない
- 業務未経験でも受験テクニックを駆使して合格することが可能な試験で、能力認定など不可能(特に論文試験)
- 更新制ではないため技術的に過去の内容で取得した資格がいつまでも通用する
- 試験区分が細分化されすぎ、何から受けていいのかわからない
- ITSSとの対応関係が分かりにくい
- 試験の開催日が年2回(区分によっては年1回)しかなく、受ける時間がない(業務などで確実に受験できるとは限らない)
- より実践的な内容の試験を民間が行っており、しかもそれらの多くは一定期間で更新しなければならない。更新の必要のない情報処理試験など役に立たない(のでなくすべきである)
こうした批判に対する反対意見もあり、主にこのようなものである。
- 情報処理技術者試験は情報技術者の職域区分(これがそのまま試験区分に相当する)において最低限必要な知識量と思考法を試すものであり、詳細な業務など知る必要はない
- 業務と一口に言っても、職域や業界によって千差万別であり、自分の知っている業務が出題されないことに不満を述べるのは筋違いである
- 情報処理試験は基本的な知識と技能を試す試験であり、最新の技術動向など反映する必要はなく、あくまで社会一般でよく使われる技術を対象にするべきものである
- 受験テクニックがあるのは事実としても、勉強しなくても普段の経験だけで合格できるような試験にしろなどとは虫のいい話である。
- 情報処理試験で知識の更新が必要と思える区分はそう多くない。だいたい、一回合格した区分を何度でも受けられるのだから自発的に受け直すべきである。
なお、ITSSとの関連については経済産業省が現在検討中であるとも伝えられている。また、年2回しか受験機会がないことはIPAも問題視しているようでCBT化が検討された時期もあったが、現在そのような動きは見られない。