戦場のメリークリスマス
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戦場のメリークリスマス Merry Christmas Mr.Lawrence |
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監督 | 大島渚 |
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製作 | ジェレミー・トーマス |
脚本 | 大島渚 ポール・メイヤーズバーグ |
出演者 | デヴィッド・ボウイ 坂本龍一 ビートたけし トム・コンティ |
音楽 | 坂本龍一 |
撮影監督 | 成島東一郎 |
撮影 | 杉村博章 |
編集 | 大島ともよ |
配給 | 松竹、松竹富士、日本ヘラルド |
公開 | 1983年5月28日 1983年8月25日 |
上映時間 | 123分 |
製作国 | 日本 イギリス オーストラリア ニュージーランド |
言語 | 日本語、英語 |
allcinema | |
キネマ旬報DB | |
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IMDb | |
『戦場のメリークリスマス』(せんじょうのメリークリスマス、Merry Christmas Mr.Lawrence)は、大島渚が監督した映画作品で、大島の代表作である。
目次 |
[編集] 概要
日本、英国、オーストラリア、ニュージーランドの合作映画。1983年5月28日公開。第二次世界大戦をテーマにした戦争映画でありながら、戦闘シーンは一切登場しない。また、出演者はすべて男性という異色の映画。原作は南アフリカ出身のイギリス人小説家ローレンス・ヴァン・デル・ポストの『影の獄にて』。作者自身の捕虜収容所体験に基づいている。
日本人がメガホンを取った戦争映画ながら、メッセージ性は薄い。しかし、その根底にある日本独特の「武士道」「仏教観」や英国人、欧米人にある「エリート意識」「信仰心」「誇り」などがより尊く描かれ、また、それを超えた友情の存在とそれへの相克がクライマックスにまで盛り上げられていく。一方で、ハラ軍曹らに見られる日本軍の朝鮮人軍属や捕虜に対する不当な扱いや、英国などにおける障害者への蔑視行為など闇歴史の描写も容赦なく描いている。また、後期の大島作品に底流する「異常状況のなかで形作られる高雅な性愛」というテーマも、日英の登場人物らのホモセクシュアルな感情として(婉曲的ながら)描写されている。
出演は、ビートたけし、坂本龍一、デヴィッド・ボウイなど。また音楽も坂本が担当。人気漫才師のたけし、人気テクノポップバンドYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の坂本龍一、そして英国の人気ロック歌手のボウイと、話題性十分の出演者だった。
カンヌ映画祭に出品され、グランプリ最有力と言われたが、結局、今村昌平監督の『楢山節考』に賞は授けられた。
賞レースには敗北したが、それでも映画は大絶賛を受けた。これを機にたけしは映画への出演を重ね、やがては本名の「北野武」で映画監督となる。坂本も映画音楽を数多く担当し、自ら出演もした『ラスト・エンペラー』では日本人として初めてアカデミー賞のオリジナル作曲賞を受賞した。つまりこの映画は、映画監督の北野武の、そして映画音楽家の坂本龍一の原点と言える。
[編集] あらすじ
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
1942年、日本統治下のジャワ島・レバクセンバタの日本軍捕虜収容所。ある日、朝鮮人軍属カネモト(ジョニー大倉)がオランダの男性兵デ・ヨンを犯すという事件が発生する。日本語を解する捕虜、英国軍中佐ロレンス(トム・コンティ)は、粗暴ながら奇妙な友情で結ばれていくハラ軍曹(ビートたけし)とその処理に当たらされる。一方、ハラの上司で所長の陸軍大尉ヨノイ(坂本龍一)は、歴戦の勇士で捕虜となった英国陸軍少佐ジャック・セリアズ(デヴィッド・ボウイ)を預かることになり、その反抗的な態度に悩まされながらも、魅せられてゆく。しかし、カネモトとデ・ヨンの事件の処理と捕虜たちの情報をめぐって、誇り高い英国大佐の捕虜長ヒックスリ(ジャック・トンプソン)も巻き込んで、収容所内は、それぞれの感情が激しくぶつかり合う。その背景には東洋と西洋の宗教観、道徳観、組織論の違いがあった。そんな中、それぞれが受け取った『クリスマスプレゼント』とは……。
以上で、作品の核心的な内容についての記述は終わりです。
[編集] 配役
- ジャック・セリアズ英軍少佐・・・デヴィッド・ボウイ
- ヨノイ大尉(捕虜収容所長)・・・坂本龍一
- ハラ・ゲンゴ軍曹・・・ビートたけし
- ジョン・ロレンス英軍中佐・・・トム・コンティ
- ヒッスクリ捕虜長・・・ジャック・トンプソン
- 拘禁所長・・・内田裕也
- イトウ憲兵中尉・・・三上寛
- カネモト(朝鮮人軍属)・・・ジョニー大倉
- ゴンドウ大尉・・・室田日出男
- 軍律会議通訳・・・戸浦六宏
- フジムラ中佐(軍律会議審判長)・・・金田龍之介
- イワタ法務中尉(軍律会議審判官)・・・内藤剛志
[編集] サウンドトラック
- 詳細はメリー・クリスマス・ミスター・ローレンスを参照
[編集] エピソード
受賞作の発表の前日に、スポーツ新聞社の記者がたけしを訪れた。「明日の朝刊に間に合わないから、今、受賞したという前提で喜びの写真を撮らせて欲しい」との事だった。翌朝、そのスポーツ新聞には、たけしの写真の横に大きな文字で「たけし ぬか喜び」と書いてあった。たけしは、自身の深夜ラジオ番組「ビートたけしのオールナイトニッポン」で、この事をネタに自嘲気味にトークをした。
たけしは、スケジュールの関係で他のスタッフらより早く撮影を終えてロケ地より帰国したことから、映画の情報を虚実ない交ぜにしてラジオなどで流布した。一例を挙げると大島が撮影に使った蜥蜴が演出意図どおりに動かないことに腹を立てて「お前はどこの事務所だ!」と怒鳴りつけたことや、差し入れのうな重をたけしらが食べてしまったことに坂本が腹を立て、かわりにたけしが手配したうな重を涙を浮かべながら食べていた、などである。 (後の対談で、坂本、あの時俺は泣いていなかった/いや泣いていただろ、とかいうやりとりあり、結局ああいう状況というのは食事の話題が異様になるんだよなあ・・・とは二人の結論)
他のたけしのネタとしては、ドアを開けるシーン、散々リハーサルするもタイミングが上手く行かず、 ついに監督が怒り出し、「このタイミング!このタイミングがこの映画で一番大事なんだ!」と怒鳴るものの、本番直前にドアは壊れてしまう。 仕方なくドアなしで撮ったのだが、直後にドアが壊れた件について聞かれて、「え?何?ドア?あんなのどうでもいいんだ!」と答えて、たけし、目が点とか。
当時、たけしと坂本は、俳優経験の少なかった時期であり、二人で試写のフィルムを見て、たけしが「オレの演技もひどいけど、坂本の演技もひどいよなぁ」と語り合い、ついには二人でこっそりフィルムを盗んで焼こうという冗談を言い合ったという。また監督の大島渚はできない俳優を激しく叱責する事で有名だったため、「もし怒られたら一緒にやめよう」とたけしと坂本は約束をしていた。俳優のはの字も知らず、台本を全く覚えずに現場入りした坂本は当然上手くセリフが言えず、絶対に監督から怒られるシチュエーションを自ら作ってしまったが、監督はなぜか相手役に「お前がちゃんとしないから坂本君がセリフ話せないんだろう!」と怒ったという。この監督の一瞬の配慮により、たけしと坂本は無事クランクアップを迎えることができた。また演技についてたけしは、「NGは監督から殆ど出されなかったけど、代わりにアフレコはさんざんやらされた」と語っている。これは、監督にオファーされた際、「自分は漫才師であり、俳優でありませんから、きちんとした演技はできません」と言ったことから、監督なりの配慮がされた結果と言える。加えて、たけしがNGを出すと、代わりに脇にいた助監督が叱られたというエピソードが残っている点からも、それが窺える(たけしの話なのでネタの可能性もあるが)。試写会で自分の演技を見たたけしは、「自分の演技がひどすぎる」と滅入ってしまったが、共演の内田裕也やジョニー大倉は「たけしに全部持ってかれた」とたけしの存在感に悔しがったと言う。一方で、大島は周辺に「たけしがいいでしょう」と漏らし、同席した作家・小林信彦に、滅入っているたけしを褒めるよう、要請している。後にたけしは「すぐれた映画監督というのは、その俳優が一番見せたくない顔を切り取って見せる人を言うんじゃないかな?」と、自分の演技を引き合いに大島監督の力量を絶賛した。
映画の見所はラストでのたけしがドアップになり「メリークリスマス、ミスターローレンス」という台詞のシーンであり、この映画の肝といえ、観たものに万感の思いを募らせる。おそらくこのシーンはたけしが「一番見せたくない顔」だったのかも知れない。後にオレたちひょうきん族でたけしは「オレのあの顔で世界が泣いたんだぜ」と自慢したが、片岡鶴太郎にはそのシーンをちゃかされ、明石家さんまにいたっては「世界は泣いたか知らんがな、オレは笑ったわ!」と言われ、ネタになる。(たけし評における映画人と芸人のギャップ)
坂本はカンヌ映画祭で本作のプロデューサであったジェレミー・トーマスと共にベルナルド・ベルトルッチに会った。この邂逅が後の『ラスト・エンペラー』につながるのである。