戦術データ・リンク
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戦術データ・リンク(英:Tactical Digital Information Link, TADIL)は軍隊の作戦行動に用いられる情報を伝達、配信及び共有するためのデータ通信システムの総称。
情報交換装置または、情報共有化機器とも訳される通信情報機器とその通信仕様(プロトコル)を総合して戦術データ・リンクと呼ぶ。音声データのみならず、位置情報、画像、赤外線画像、レーダー画像、目標情報、自機データ等を一括して送受信できる。一般的な概念で言えば、携帯電話で通話しているときに音声だけでなく映像(テレビ電話)やGPSによる位置情報を同時に送信できることに似ている。使用資源としてはUHF帯からSHF帯の高周波域電波を使用するため、指向性をもたせることも容易で、デジタル技術による秘匿性と対妨害性にも優れている。
戦術データ・リンクを用いることで情報の共有化が容易になり、使用する組織においては効率的な指揮管理能力が得られる。戦術データ・リンクの装備の有無、バージョンを探れば、その兵器の能力、任務、指揮官からの期待値等がおおむね推測可能であり、近代戦においては必須の装備といえる。
アメリカ軍による軍事における革命では、中心的な役割を果たす装置となっている。近年では単なる情報交換の機器の枠を越え、さまざまな方面から得られた情報を戦術データ・リンクによって統合的に共有し、すべてのユーザーが総合的な判断材料を身につけるようになった。このため、従来の中間管理層が不要になり、効率的な人員分配が可能となっている。また、戦術データ・リンクによってワークロードの均一化もできるようになり、補給対象の優先順位が判断しやすくなるため、資源の有効活用の面でも有用である。
海軍では、艦隊を広範囲の海域に展開しても、通信衛星を使った戦術データ・リンクによってイージス艦の広域監視能力を艦隊全体で共有でき、艦隊の作戦能力が格段に向上している。
陸軍空軍では、通信衛星または早期警戒管制機によって各部隊の保有する情報の一元化が可能になったため、大部隊の機動的運用が可能になった。たとえば歩兵の一兵士が目前に敵大部隊を発見した際、その状況を戦術データ・リンク機器(ターミナル)に入力することで、参加兵力すべてが敵大部隊発見を認知し、迅速な攻撃が可能となる。
[編集] 主な戦術データ・リンク
- リンク11/TADIL-A
- リンク11はアメリカ海軍での名称、TADIL-Aはアメリカ空軍での名称であり、本質的には同じものである。アメリカ空軍、アメリカ海軍、NATO軍、航空自衛隊、海上自衛隊などで使われる、西側ではポピュラーな戦術データ・リンク。HFとUHFを併用し、伝送距離は艦艇間25NM。艦艇と航空機間は150NMである。航空自衛隊ではE-2CとE-767が装備している。海上自衛隊では護衛艦しらねから装備が始まり、P-3Cにも装備されている。端末機器数は20個程度であり、使用については1個戦隊、1個群程度の比較的小規模な範囲で運用される。
- リンク16/TADIL-J
- リンク11と同様に、リンク16はアメリカ海軍での名称、TADIL-Jはアメリカ空軍での名称であり、本質的には同じものである。統合戦術情報伝達システム(JTIDS)を使用した戦術データ・リンク。リンク11とは通信方式が異なり、単純な改良型ではない。リンク11と比べて伝送速度が向上し、衛星中継通信も可能となった。航空自衛隊ではE-2C ホークアイ2000とE-767が装備している。航空自衛隊ではまだリンク16の本格的な運用は始まっていないが、BADGEに替わる新自動警戒管制組織、F-15J戦闘機及びミサイル防衛構想に基づいてPAC-3パトリオットに装備され、運用される予定である。海上自衛隊ではイージス護衛艦ちょうかいより装備が開始された。
- リンク4/TADIL-C
- リンク22
- リンク11の後継機種であり、リンク16との相互運用能力(インターオペラビリティ)もある。NATO軍用に1992年に開発が開始されている。アメリカ合衆国、イギリスを主体として、カナダ、ドイツ、フランス、スペインが開発計画に参加している。HFとUHFを併用し、HF通信の場合の伝送距離は300 nmである。伝送速度は最大10Kbpsで、近年発達が目覚しい情報通信技術の水準と比較すると、やや陳腐化している傾向は否めない。2008年からドイツの水上艦艇に搭載される予定である。
- リンク60
- 海上自衛隊護衛艦に搭載されている護衛艦と搭載ヘリ間のデーターリンクである。音声、戦術データーのほか、搭載ヘリからのレーダー画像、赤外線画像、ソノブイ受信信号など索敵データーがダウンリンクされる。開発にあたってはLAMPS MkIIIの戦術コンピューターAN/AYK-14の規格に基づき設計されている。