抵当権
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抵当権(ていとうけん)は、民法に規定された担保物権の一つ。当事者の合意によって設定される約定担保物権(やくじょうたんぽぶっけん)。抵当権を設定することを「抵当に入れる」、実行されることを「(借金の)かたにとられる」などということもある。
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[編集] 抵当権の概要
以下、日本の抵当権(民法第369条以下)を念頭に説明する。
まず債権者(抵当権者)は自己の債権を担保するため、抵当権設定者(通常は債務者。物上保証を参照)の不動産または権利(地上権及び永小作権)に抵当権を設定する。抵当権は物権であるから、意思表示のみにより設定できるが(第176条)、登記が対抗要件となるため(第177条)、ほとんどの場合登記される。
そして債務者が債務不履行に陥った場合には抵当権が実行され、抵当権者はその代金から他の一般債権者に優先して弁済を受け、債権を回収することができる。抵当権の特徴は、抵当権が設定されても債務者から債権者へ担保となっている物の占有を移す必要がなく(同じ約定担保物権である質権は占有を移さなければならないことと対照的)、所有権者は自由に利用・収益・処分ができる点にある。所有権を第三者に譲渡した場合は、抵当権付の所有権が移転することになる。
なお、不動産や地上権及び永小作権以外の権利であっても特別法により抵当権が設定できる場合がある(自動車・航空機等 詳細は抵当権の対象あるいは担保物権法を参照されたし)。
[編集] 抵当権の由来
日本の抵当権規定は、ボワソナード旧民法を介して、フランス法・ベルギー法の影響を強く受けている。しかし、民法制定後、日本でドイツ法的解釈が支配的となると、抵当権は交換価値のみを把握する価値権であり、担保に供された物の使用には介入するべきでないと考えられるようになった(特に我妻栄の影響)。もっとも、20世紀末になると、そうしたドイツ的解釈が日本において前提となる必然性はないと考えられるようになった。
[編集] 抵当権の性質
抵当権は非占有型の担保物権である。つまり、設定者は、抵当権が設定されている物を債権者に引き渡す(占有を移す)必要がない。これとしばしば対比されるのが質権で、こちらは質権の目的物を債権者に引き渡さなければならない点が異なる。
抵当権は同じ物について重ねて設定できる。その場合の各抵当権の優劣は設定された先後(登記されなければ対抗力が無いため実際には登記の順序)による。その先後により1番抵当権、2番抵当権という具合に順位がつけられ、その順番に従って優先弁済を受ける。
債務者が債務を弁済した場合、それを担保していた抵当権は消滅する(付従性)。消滅した抵当権の下位にも抵当権が設定されていれば、順位が繰り上がる(順位昇進の原則)。抵当権が実行されると競売に付され、これが競落されるとその物に設定されていた抵当権はすべて消滅する(消除主義)。
他の担保物権の規定の準用(第372条)
[編集] 抵当権の対象
抵当権が設定できるのは、登記・登録制度がある物や権利だけである。これは当該物に抵当権が設定されていることが誰にでも分かるよう、公示する必要があるからである。その典型は不動産であり(第369条1項)、地上権と永小作権にも抵当権を設定することができるが(第369条2項)、そのような形で利用されることはあまりない(よって以下では物に抵当権が設定された場合を念頭に記述する)。
また、各種の特別法によってその対象が不動産以外にも広げられている。前述の通り、登記や登録といった抵当権の公示手段があるものである。鉱業権、漁業権、立木(立木法)、船舶(商法848条)、自動車、農業動産、航空機、建設機械、工場(工場抵当という)がある。さらに、企業組織全体をその対象とする財団抵当がある。ここで対象となるのは工場財団や鉄道財団などである。また財団抵当の手続を簡略化した企業担保権がある。
[編集] 果実
抵当権はその担保する債権に付き不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ(第371条)。ここでいう果実とは、りんごやみかんなどの天然果実ではなく、担保不動産の賃貸借から生じる地代や家賃という法定果実のこと。
[編集] 物上保証
通常、抵当権は債務者の所有物に対して設定される。つまり、債務者=抵当権設定者となる。しかし債務者以外の者が抵当権設定者となって債務を担保する場合もある。この場合の抵当権設定者は債務を負わない(つまり自ら給付を実現する義務を負わない)が自己の不動産の上に他人の債務のための責任だけを負担していることになる。これは保証の関係に類似するため、こうした抵当権設定を物上保証(ぶつじょうほしょう)といい、このときの抵当権設定者を物上保証人という。 ただし、保証人(連帯保証人)が担保提供する場合は、物上保証の責任だけでなく、保証人(連帯保証人)としての責任もあることは当然である。
[編集] 抵当権の効力
[編集] 実行
抵当権の実行は、抵当権の目的物がある所在地を管轄する地方裁判所に抵当権に基づく競売(担保不動産競売)を申し立てることで始まる。競売に付され、買受人があれば売却許可が与えられ、代金(競売代金)を納付する。競売代金はその順位に従い、抵当権者に配当される。前順位の抵当権者の債権を弁済してなお競売代金が残存する場合、次順位の抵当権者が弁済を受けていく。抵当権者へ配当してなお代金が残存する場合には一般債権者に、さらに残存すれば抵当権設定者に返還される。競売代金がすべての債権を弁済するのに不足する場合、弁済を受けられなかった債権は存続する(抵当権者は、担保のない一般債権者となる)。
[編集] 物上代位
抵当権の目的物が滅失した場合でも、それが債権などの形に転化していれば、それに対して抵当権が及ぶ。例えば、抵当権の目的物であった家屋が焼失した場合、その損害を填補するために支払われる保険金や賠償金についても抵当権の効力が及び、抵当権者はそこから優先弁済を受けることができる。ただし、金銭が実際に支払われる前の、債権の状態で差押えをしなければならない。物上代位の対象となるのは上記の保険金や賠償金の他に、土地収納の際の保証金や代替地がある。
[編集] 物上代位と賃料
抵当目的物が賃貸に用いられている家屋であった場合、賃料に対しても抵当権の効力が及び、物上代位できるかが争われた。これは1990年代のバブル景気崩壊によって土地建物の担保価値が著しく低下したために注目された債権回収方法である(それ以前は土地の売却代金からの回収がほとんどであった)。通説と最高裁判例はこれを可能としてきたが、異論もあった。
そこで2003年(平成15年))に民法371条を改正して、抵当権が債務不履行後に生じた抵当不動産の果実(法定果実である賃料が念頭に置かれている)にも及ぶとされ、同時に民事執行法において抵当目的物(抵当不動産)からの収益によって債権を回収するための担保不動産収益執行の手続が導入された(民事執行法188条)。しかしこの担保不動産収益執行の手続は、強制管理の手続を手直ししたもので、管理人に費用が掛かるので、大規模マンションには向いているが、小さなマンションでは経費倒れとなり、依然として物上代位の利用価値は大きい。
[編集] 抵当権に基づく物権的請求権
抵当権は抵当目的物の交換価値を把握する価値権であり、その占有関係には干渉できないというドイツ民法学に強い影響を受けた考えが支配的であったため、物権的請求権についても所有権等と比べて制限があった。しかし、1999年(平成11年)11月24日の最高裁大法廷判決(民集53巻8号1899頁)は、抵当権に基づく妨害排除請求権を認めた(ただし傍論である)。それまでは短期賃貸借制度を悪用するなどして抵当目的物を占有し競売代金を低下させ、それを恐れた抵当権者から法外な敷金の返却や立退料を求める占有屋が跋扈していたが、この判決により一定の歯止めがかけられることになった。
1999年判決は傍論で抵当権に基づく妨害排除を認めたに過ぎないが、2005年(平成17年)3月10日(民集59巻2号356頁)は、実際にそれを承認した。
[編集] 根抵当
根抵当(ねていとう)は、継続的に発生する債務を一定額(極限度という)まで担保するための抵当権を設定するものである(担保すべき債権が特定されていない)。例えば継続的な取引関係がある場合、その取引から生じた債務を担保するためにある土地に根抵当権を設定する。これが通常の抵当権であると、個別の取引が終わるたび附従性によって抵当権が消滅してしまうので、次の取引の際に改めて抵当権を設定しなければならず、煩雑である。1971年(昭和46年)の民法改正によって398条の2以下に根抵当の規定が設けられたが、実際の取引ではそれ以前から用いられていた。この民法改正では、極度額は債権極度額のことをいい、それまで認められていた元本極度額は設定できないこととなった。
- 債権極度額とは、例えば極度額100万円ならば担保される部分は元本・利息・損害金の合計額が100万円に充つるまで担保されるが、100万円を超える部分は担保されない。
- 元本極度額とは、例えば元本極度額100万円ならば元本100万円+利息損害金が担保される。今、残っている元本極度額設定の根抵当権は少ないと思われる.
[編集] 共同抵当
数個の不動産に同一の債権の担保としてに設定された抵当権のこと。
抵当権が実行されたときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。(第392条)