拉致
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
拉致(らち、Abduction)とは、ある個人の自由を奪い、別の場所へ強制的に連れ去ること。連れ去り。直ちに身代金を要求することを目的とせず、また別の土地に連れ去る行為で、誘拐の一種である。変質性愛の対象として、小中学生の女子を連れ去る、あるいは連れ去って、性的な悪戯の後に殺害、あるいは長期にわたり監禁するとか、商取引上の不首尾のため相手を拉致し、監禁し、取引の同意を求める、恫喝する。また政治的な理由で、外交官、ジャーナリストを拉致するという事件は、政治的にきわめて不安定で、諸外国の軍隊や国際連合の監視団などが入り込んでいる国では頻発することが少なくない。創作ではスティーブン・キングの『ミザリー』が有名である。いずれも許されないことである。
拉致には以下の様な例も含まれる。
- 親権を認められなかった片方の親が子供を連れ去る - 殆どの国では誘拐として処罰される。日本では従来は犯罪と見做されていなかったが(家庭裁判所の勧告は受けていた)、2006年3月に福岡地裁が、福岡市で弁護士の男が妻と同居する実娘を拉致した事例に対して、執行猶予付きの有罪判決を出している。(http://news.rkb.ne.jp/rkb_news/archives/003137.html など)
- 国際的児童拉致 - 白人の子供を誘拐し、チャイルドポルノなどに出演させ、最後はオランダなどの売春業者に人身売買するといった手口が知られている。アメリカではこうした例がかなり多発している。
- 「カルト」「異端」とされ社会的に問題ありとされる宗教団体に属する子供をカルトから脱会させるために、子供の親などがキリスト教の牧師などに依頼して、拉致という強硬手段を採ってでも奪還しようとすることがある。(例、世界基督教統一神霊協会などからの脱会運動)
また、歴史的に戦争時において「人間」を戦利品と看做して略奪の一環として人間の拉致が行われた経緯がある。また、自勢力の経済・技術力の向上のため、あるいは逆に相手側に打撃を与えるために拉致が行われた事がある(例:刀伊の入寇における九州の農民連行や朝鮮出兵における朝鮮人陶工・儒学者の連行など)。戦国大名の分国法にはこうした行為を「乱妨取り(略して「乱取」とも)と呼んで禁じたケースもあるが、これは逆説的に捉えればこうした例が多かったからに他ならない。
日本では、刑法上、拉致は「逮捕」と呼ばれ、逮捕・監禁罪をおかすことになる。しかし「○○、逮捕・監禁罪で逮捕」ではわかりづらいので、マスメディアでは「拉致」、「拉致・監禁罪」の言葉を使う。
オウム真理教による拉致事件や、北朝鮮による日本人や韓国人の拉致問題がマスメディアによって頻繁に報道されるようになって、急速に人の口に上るようになった言葉である。常用漢字の使用を原則とする新聞など、「ら致」と交ぜ書き表記する事が多かったが、寧ろ読み難いという指摘もあり、次第にマスメディア全般で「拉致」と漢字表記されることが多くなった。
また2006年には、米CIAが“テロリスト関係者の被疑者”と目した、主に中東諸国からの移民の人々をシリア・パナマ・東ヨーロッパなどにある秘密収容所に「取調べ」を口実に法的根拠なく連れ去り収監、自白を取る為に拷問していた事が報道され(しかも多くの国家が関与していた疑いあり)、アムネスティ・インターナショナルや釈放された人物の母国政府が調査に乗り出す事態となっている(ドイツやイタリアでは関与したCIA工作員、協力した自国情報機関員に逮捕状が出た)。アメリカ政府はその事実を認めていない。