持続可能な開発
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持続可能な開発(じぞくかのうなかいはつ、英 Sustainable Development / SD、サステイナブル・ディベロップメント)とは、現代の世代が、将来の世代の利益や要求を充足する能力を損なわない範囲内で環境を利用し、要求を満たしていこうとする理念。 「持続可能な発展」と訳されることもある。また、持続可能な開発が行われ持続可能性を持った社会を「持続可能な社会」と言うことがある。
「持続可能な開発」は、現在、環境保全についての基本的な共通理念として、国際的に広く認識されている。これは、「環境」と「開発」を、互いに反するものではなく共存し得るものとしてとらえ、環境保全を考慮した節度ある開発が可能であり重要であるという考えに立つものである。ただし、そのような開発が可能でない状況もあり得るとして、この理念が濫用されることを警戒する考え方もある。
この理念は、1980年に国際自然保護連合(IUCN)、国連環境計画(UNEP)などがとりまとめた「世界保全戦略」に初出した。 その後、1992年の国連地球サミットでは、中心的な考え方として、「環境と開発に関するリオ宣言」や「アジェンダ21」に具体化されるなど、今日の地球環境問題に関する世界的な取り組みに大きな影響を与える理念となった。 翌1993年に制定された日本の環境基本法でも、第4条等において、循環型社会の考え方の基礎となっている。
さらに、日本の提案によって設けられた国際連合の「環境と開発に関する世界委員会」(WCED = World Commission on Environment and Development、委員長のブルントラント・ノルウェー首相(当時)の名前から「ブルントラント委員会」と通称される)が1987年に発行した最終報告書“Our Common Future”(邦題『地球の未来を守るために』、通称「ブルントラント報告」)では、その中心的な理念とされ、このときさらに広く認知されるようになった。 ブルントラント報告では、この理念は「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と説明されている。
1992年の地球サミットを受けて2002年に開かれた地球環境問題に関する国際会議は、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」と銘打たれている。 また、2004年11月には、日本政府が国連総会第2委員会に提出していた「持続可能な開発のための教育の10年」に関する決議案が採択された。2005年1月から持続可能な開発のための教育の10年をスタートさせ、各国がユネスコ提案の国際実施計画案にもとづき実施措置を取ることが決められている。
このように世界の持続可能な開発を目指すということは、先進工業国と開発途上国と双方で持続可能性を追求することであり、南北問題とも関連が深い。そこで、持続可能な開発を実現するためには、開発・貧困解消と環境保全のために政府開発援助をどのように充実させるか,国境を越えた直接投資はどのようにあるべきか、環境保全を理由とした貿易制限を許容すべきかどうか、といった経済協力のあり方が重要になってくる。さらに、持続可能な開発の担い手として、国際機関、国家、企業、地方自治体と並んで、NGO・NPO、市民・住民あるいは草の根民活の自助努力・参加も必要となると考えられる。
[編集] 参考文献
- 淡路 剛久・植田和弘・川本隆史・長谷川公一著『持続可能な発展-リーディングス環境 第5巻』(有斐閣、2006年 ISBN 9784641071919 )
- 加茂利男・遠州尋美編著『東南アジア サステナブル世界への挑戦』(有斐閣、1998年 ISBN 9784641182950 )
- 鳥飼行博著『環境問題と国際協力-持続可能な開発に向かって』(青山社, 2001年、ISBN 4883590585 )