新聞配達
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新聞配達(しんぶんはいたつ)は、職業の一つ。日本独自のシステムである新聞販売店が行う業務全般を指す。業務内容は、配達、集金、営業、区域管理、補助業務に大別されるが、一般的に新聞配達と呼ぶ場合、配達のみを指す。
業務に携わる者は、専業(正社員)、臨配(配達専門の臨時スタッフ)、アルバイト・パート、契約社員、新聞奨学生などから構成されており、一部の例外を除き、新聞販売店に所属した者達が作業を行っている。通称として「新聞配り」、「新聞屋(さん)」、など呼ばれる事も多い。
日本国勢調査(2000年版)によれば日本全国で800,836人が、この業務へ従事している。
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[編集] 配達
[編集] 概要
朝刊の配達と夕刊の配達とに分けられる。他に、重大な事柄や突発的な事件が発生した時のみ臨時に発行される号外を配達する場合もある。
新聞を配達する前には、新聞へ折り込みチラシを入れる必要がある。これは新聞販売店が地元企業や折り込み業者等と契約しているもので、薄利多売の新聞販売店にとっては貴重な収入源となっている。基本的にはチラシは朝刊のみであるが、希に夕刊にも入れている。
[編集] 業務区分
配達業務としては、以下の作業がある。
- 配達
- 新聞をポストなどに投函する作業であり、この業種の根本を成す基本業務。
- チラシ入れ
- 配達前に新聞へチラシを入れ込む作業。殆どの場合は手作業で入れる。
- 増減記入
- 担当区域の新聞の増減を帳簿などへ記入する。
- DMの発送
- 新聞販売店に依ってはダイレクトメールなどの宅配を請け負っている所がある。
- 順路帳記入
- 配達ルートと各戸の位置や備考が記入された帳簿。基本的にこれを見ながら配達する。
- 保管物の管理
- 購読者が都合により不在などの場合、新聞販売店側で一定期間の新聞保管を依頼される場合がある。
- 保管物の届け
- 保管物を約束の期日に届ける。
- 伝達事項の連絡
- 配達の際に、購読者から直接要件を伝達される場合がある。この内容を販売店へ連絡する。
実情は、担当範囲が比較的曖昧であり、その線引きは販売所に依って異なっている。また、殆どの販売店では従業員数が少ない事や、勤務時間の特殊性から、担当者間である程度の融通を利かせる事が多い。
尚、業務責任で単純比較した場合、配達のみの作業が一番軽いため、専業は新聞奨学生またはアルバイトへ配達を一任し、他業務へ専念する場合が多い。一般に「新聞配達」といえばアルバイトのイメージが強いのはこのためでもある。
[編集] 運搬手段
主として、新聞販売店に積み重ねているチラシ折り込み済の新聞を、原付または自転車へ積み替え、目的の家の前に停めてポストへ投函する。例外としてマンションや住宅過密地において、肩からぶら下げた紐で新聞を支えて徒歩で配達する地域もある。
バイクは前バスケットとリアキャリアを備えた新聞配達仕様が設定されている。
新聞が非常に厚い場合や、チラシの量が多かったりする場合には、一度に積みきれないために新聞販売店との間を何度も往復する事もある。状況に依っては車などで、区域の最寄りの決まった場所へ新聞を置いておき、そこから補充して配達する場合もある(これを中継という)。
[編集] 配達部数
作業者一人当たりの受け持ち部数は地域によってかなり変動があるが、都市部は多く、地方は少ない傾向がある。
都市部の場合にはマンションなどの集合住宅が多く、それに比例して集合ポストへの投函で済む購読者が多いために、作業負荷的に配達部数が多めに割り振られる。300部を越える場合も多く、集合ポストの比率が極端に高い区域では500部から600部を越える場合もある。
地方の場合には、住宅密集地を除けば住宅同士の距離が遠く、配達もそれに応じた労力を必要とされる。また、雪国の場合には冬の積雪のために配達が非常に困難になるなどの事情もあるため、部数も少なめに割り振られる。村落では特にその傾向が強く、100部を割る区域も珍しくない。
[編集] 順路帳
順路帳とは、配達する読者宅を全て記した帳簿である。基本的には区域毎に帳簿が独立しており、配達者はこれを見ながら配達業務を行う(ある程度慣れれば見なくなることが多い)。読者宅の位置は「順路記号」という独特の記号によって表されており、順路帳の内容を理解するには、まずこの順路記号の読み方を習得する必要がある。他に、配達時間指定やポストの種類などの配達に関する付加情報が全て記載されており、配達業務の生命線ともなっている重要な帳簿であるといえる。
順路帳の用紙は、防水加工されているものと、そうでないものがある。防水加工されていない用紙は雨天などで破損しやすく、濡れた場合には乾かす手間が発生する。このため、防水加工が施された用紙のほうが配達者には好まれるが、防水加工した用紙のほうがコストが高く、パソコンから印刷する場合にも特殊なプリンタが必要という事情があるため、防水加工されていない用紙もまだ使用されている。
[編集] ペナルティ
大半の新聞販売店では、購読者からクレームがあった場合に担当者へペナルティを課している。主に挙げられるクレーム内容は以下の通り。
- 不着
- 客の手元へ新聞が届いていない。
- 未着
- 客の所望した時刻までに新聞が届いていない。配達者がまだ帰店して居ない場合のみ当て嵌る点において、不着とは扱いが異なる。
- 誤配
- 配達された新聞の銘柄が誤っている。
- 欠配
- 何らかの事情により担当者が配達しなかった場合は欠配と見なされ、他の者が配達を代行する。一般業種でいう無断欠勤に該当する。
- 止め漏れ
- 購読者より、前もって一時的な購読休止の連絡があったにも関わらず、配達が行われていた。不在時にポストへ投函されていると、美観上よりもむしろ防犯上問題がある。
- 再入漏れ
- 止め漏れの逆で、一時的な購読休止期間を終えたにもかかわらず、配達が行われていなかったもの。新聞が届いていない点で不着とも言えるが、通常は区別される。
ペナルティについては、新聞販売店毎クレーム一件につき給与から一定額が差し引かれるよう独自に規定されており、その額は100円から800円の帯域に収まっている事が多い。許容範囲を超えた場合には、単なる罰金では済まず、マイナス査定や解雇対象などの厳しい対応が待っている。
[編集] その他留意点
- 気温の高い日にはかなり多くの汗をかくために、稀に脱水症状などを起こす者も出る。このため作業中の水分補給が必須となっている。
- 気温の低い日には路面凍結のために、転倒事故が時々ある。
- 朝刊時(特に冬場)には、まだ日が昇っていないために屋外は非常に暗い。このため、不慣れな配達員には怪我が多い。
- 大雨や台風などの天候異常時に遭遇した場合、比較的ベテランの者でも、普段より多めの配達時間を要する。
- 雨や雪の日には、新聞が濡れないようにビニールへ梱包して配達する販売店が殆ど。手作業のためにそれなりの手間を要する。
- 勤務時間が特殊な関係上、所定の出勤時間に遅刻する者が他業界と比較すると、かなり多い。
- 特殊な注文を出す購読者が時々いる(朝4時までに配達して欲しい、庭に立ち入られるのが嫌なので石を入れて玄関先に投げて欲しい、同居者に購読を知られたくないので足音を立てないで欲しいなど)。他の個別宅配業務と同様に、配達担当者には、これらの注文へ臨機応変に対応する能力が問われる。
[編集] 集金
[編集] 概要
新聞購読している各家庭を回り、新聞購読料を徴収する作業である。作業時期は主に毎月月末に集中する。家庭毎に様々な生活パターンがあるために、必然的に作業時間帯が不規則になる。最近は自動振替等が増加しており直接訪問する家庭が減る傾向にあるが、読者を縛る(縛り=購読契約の継続)ためのコミュニケーションとして対面による集金が重視されている。
[編集] 業務区分
集金担当者は、配達と同様に区域毎に担当者が分かれており、多くは配達担当者本人かまたは代配が行う。集金専門の場合もある。集金業務には以下のような作業がある。
- 購読料の徴収
- 購読者から一定の購読料を受け取り、引き替えとして領収書を渡す作業。集金作業のメイン業務である。
- 届け物
- PR刊行物や古紙袋の手渡し。いずれも届け物の正式名称は新聞の銘柄に依って呼び方は異なる。
- 契約
- 営業と作業が重複するが、この場合にはあくまでも「集金中のついで」に既存の客へ契約の更新を確認し、継続の意志があれば契約書にサインして貰うのみに留まる。集金中の付随業務と見なして、本来は営業を行わない新聞奨学生にも行わせている販売店が多い。
- 拡材提供
- 依頼された拡材(購読に対するサービス品)を届ける。感覚的には「付け届け」や「ばらまき」である。
- 領収書配布
- 購読料と引き替えに手渡しする領収書とは別に、自動振替の家庭を回り領収書を投函する。既に購読料が引き落とされているため、直接手渡しする手間を掛ける事はまずない。
- 伝達事項の連絡
- 集金の際に、客から直接要件を伝達される場合がある。この内容を販売店へ連絡する。時間のない配達中とは異なり、比較的込み入った要件が多くなる。
[編集] 作業時間の特殊性
概要にも示した通り、家庭毎に生活パターンの違いがあるため、集金する側も購読料徴収のためにある程度それに合わせて作業時間帯を調整する事が要求される。特に、独身の独り住まいや、出張の多い家庭から集金する場合、日中に訪問してもまず対面できる事は不可能なため、深夜に訪問する事になる。更に、お年寄りの独り住まいや、小さい子供のいる家庭では、遅い時間帯に集金する事はクレーム対象にもなりかねないので、早めの時間帯に訪問する事となる。このように、実質的な拘束時間が増え、不規則な作業時間帯となるために、集金作業は他の新聞配達業務よりも負担が大きいと言われる。
この作業時間上の負荷を軽減するために、各新聞社では自動振替を奨励しており、増加傾向にあるが、手続きの煩わしさや、店員と直接対面する事によるメリット(拡材提供などのサービス)が減ることもあり、あまり大きくは進んでいない。
[編集] 集金手当
一定期日までに担当区域の集金を済ませれば、新聞販売店から数千円から2万円程度の手当を支給される場合が多い。しかしながら、客によっては期日までにどうしても購読料を支払えない事情がある、また、新聞購読契約上の問題や、訪問しても不在がちであるなどの事情により、集金担当者が徴収できない場合がある。このような時には、集金担当者が自腹を切って、「みなし」で集金達成を行う場合が多い。あくまでも客側の都合に依る部分が大きいために、新聞販売店側もそれを黙認している傾向があり、中には自腹を切ることを半ば強要している新聞販売店もある。自腹を切って他の日に購読料を徴収できればいいが、場合によっては結局徴収が不可能なままで、集金担当者が購読料を負担しているケースも多々見受けられるのが実情である。
[編集] その他留意点
- 客の都合により、集金の期日や時刻を指定される場合がある。
- 直接新聞販売店へは連絡せずに、客から集金担当者へ直接値引きを要求される場合がある。
- 不在がちな家庭に対しては、催促する書面を投函したり、電話で催促したりする事となる。
- 不在がちな家庭へ早朝に集金を行う事を「朝掛け」、対して深夜に集金を行う事を「夜掛け」という。
- 事情により購読料を支払えない客に対しては、配達を停止する事となる。
[編集] 営業
[編集] 概要
いわゆる新聞勧誘の事。新たな新聞購読者を獲得、または現在の購読者へ継続購読を勧める活動を指す。新聞販売店に所属しているという立場上、新聞拡張団と比較すると、強引な営業は困難であり、契約に際して提供できる拡材が比較的少ないなど、若干営業内容が異なる。また、同じ条件で契約を獲得した場合、新聞拡張団よりも契約手当が大幅に少ないため、新聞販売店にとってはコストが低く抑えられる。
アポイントメントなしで唐突に個人宅へ訪問し、一旦会話が始まると契約に結びつくまで極力粘るために、大半の訪問販売と同様に世間的に疎まれる事の多い作業である。特に、現在の新聞勧誘は全国至る所で行われているために、数ある訪問販売の中でも特に目に付くものとなっている。
[編集] 業務区分
営業は定時作業ではないため、営業担当者は、配達や集金とは異なり複数区域の営業を兼ねる事が可能である。このため、新聞販売店が管轄している全区域を担当している営業専門の者が居る場合も多い。作業内容の殆どは一般的な営業職と手法は同じであり、業界内では「叩く」とも形容される作業。作業内容としては以下のものがある。
- 新規読者獲得
- 現在新聞を購読していない家庭を回り、契約を成立させる業務。いわゆる「顧客開拓」である。手当たり次第に回る事になるため、「ピンポンダッシュ」と呼ばれる事もある。
- 既存読者訪問
- 主に、契約期間の終了時期が近づいた家庭を回り、継続契約を成立させる作業。御用聞きもこれに含まれる。
- 契約状況の確認
- 現在は購読していないが、将来購読する契約をしている読者を回り、契約内容について再確認する。客側の事情(購読者が入院、転居、死去など)により購読が不可能になる場合や、契約書そのものが架空契約などである場合があるため、この作業を義務付けている販売店は多い。
- 調査
- 空家やマンションの空き室のチェック、客層の分析、競合紙の状況など、比較的多岐に渡る。特徴としては、他業界の営業職と比較し、自発的に行う者はかなり少なく、販売店側から強制されて行っている感覚の者が多い。調査作業のみを店員に行わせ、そのデータを元に販売店の店長などが分析を行っているケースが殆どである。職業モラルの低い店員の場合その手間を惜しんで、依頼された調査資料へ架空のデータ記入をして店長などへ提出する場合もある。
- 拡材提供
- 購読契約と引き替えに拡材を渡す。洗剤やビール券、または商品券などが多い。販売店によっては拡材全てが自腹という場合もあるが、このようなケースは、近年はかなり減っている。
- 伝達事項の連絡
- 営業の際に、客から直接要件を伝達される場合がある。この内容を販売店へ連絡する。購読契約に絡んだ要件が多くなる。
- 同行営業
- 複数人で一緒に営業を回る事。同行するのは販売店内の他の店員との場合もあり、他の販売店からの応援部隊の事もある。「連れション」(つれしょん)や「連叩き」(れんだたき)などと言われる。
- 案内拡張
- 新聞拡張員を自分の担当読者宅へ案内し、営業をサポートして貰うこと。販売店側から強制される割に、自分の営業手当に役立つ事はまず無いために、前もって客と口裏を合わせておいて契約させないようにしておいたり、新聞拡張員へ虚偽の情報を与えて極力契約に結びつかないようにする事もある。
[編集] 契約形態
新聞販売店、新聞の銘柄、地域によって若干の差はあるが、概ね次のような契約形態がある。
- 縛り
- 現在の契約を継続したもの。
- 先起こし
- 現在の契約終了後、数ヶ月または数年などの間を置いて先の契約をしたもの。
- 起こし
- 現在は購読していないが過去に購読していた読者が、再び契約したもの。
- 新勧
- 現在も過去にも購読していない読者が契約したもの。
- 先縛り
- 先の契約に対して、更に先の継続契約をしたもの。
これらの契約で、新聞販売店の店員が獲得した契約に営業を行って契約成立したものは、契約が比較的簡単に成立するため手当が低い。それに対して、新聞拡張員が獲得した契約に営業を行って契約成立したものは、手当が高めに設定されている。販売店に依っては、新勧や起こしは従業員に求めず、新聞拡張員へ依存している所もある。
[編集] 客の区分
契約形態と同様、新聞販売店、新聞の銘柄、地域によって若干の呼び方の差異はあるが、概ね次のように呼ばれている。
- 固定読者
- 契約を交わさずに購読し続けている客。コスト的に安く抑えられるため、新聞販売店から重宝される。
- 契約読者
- 随時、契約を継続して購読し続けている客。
- 申込読者
- 新聞販売店の店員を介さず、直接本社または販売店へ自発的に購読を申し込んできた客。
- 交代読者
- 複数の銘柄を交代で購読している客。個人的な付き合いの事情と、契約時に貰える拡材目当ての場合が殆ど。
- 拡禁読者
- 過去に何らかのトラブルが発生し、購読を禁止している客。この読者の一覧は新聞販売店にとってのブラックリストの役割を持っている。
[編集] 営業手当
新聞拡張員よりも緩やかであるいう差はあるが、やはり他の営業職と同様、契約件数を客観的に測定しやすいために成果主義が適用されており、歩合制となっている。契約件数を上げるために、新聞販売店が定めた業務時間外や休日に出勤する者も居る。
新聞販売店がノルマを営業担当者へ課している場合も多いために、中には自腹を切って自分で架空の契約を行ったり、顔見知りの客へ頼み込んで購読料は自腹で契約を行ったり、拡材を自腹購入して営業に使用する場合もある。当然、そのような契約は新聞販売店同士の取り決めで禁止されてはいるので、客や店員同士で口裏を合わせて表面化しないようにしている。また、新聞販売店側でも部数の増える事が最優先の使命であるために、販売店側へ損害の出ない内容であれば発覚しても厳しく言わないのが実情。
新聞販売店同士の取り決め以前に、そもそも新聞公正競争規約が存在するが、現場レベルでは殆ど意識されていない(または店員が知らない)場合が多い。
[編集] その他留意点
- 競合紙同士での拡材競争(サービス品の過剰提供)は以前よりは減っているが、水面下では現在も続いている。
- 販売店へ無断で店員が値引きを行っているケースが未だある。(新聞特殊指定も参照)。
- 競合紙との争いの激しい地域や、部数の減少が目立つ新聞販売店では、数ヶ月程度の無料購読期間を設けている場合が非常に多い。(建前上は「見本紙」としている)
- 大抵は新聞拡張員よりもマナーが良く、立場上の様々な制約が存在するが、営業において行っている事は大きく変わらない。
[編集] 区域管理
自担当の配達区域の購読者を管理すること。購読の休止処理や、転入・転出読者のフォロー。またはクレーム処理などを行う。
[編集] 補助業務
新聞配達業務の補助的作業を行い、主に新聞販売店の店内業務が主となる。読者数の集計や、チラシの機械折り込み作業、拡材の管理、新聞以外の出版物の管理などがこれにあたる。