月下美人
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Epiphyllum oxypetalum | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Dutchman's Pipe |
月下美人,ゲッカビジン(学名: Epiphyllum oxypetalum、英名: Dutchmans pipe cactus、A Queen of the Night)は、メキシコの熱帯雨林地帯を原産地とするサボテン科クジャクサボテン属の常緑多肉植物。日本で多く流通しているクジャクサボテン属(Epiphyllum属)には交配種が多いが、これは原産地からそのまま導入された原種である。
目次 |
[編集] 特徴
[編集] 花
葉状茎の丈が1mから2mにまで達するとつぼみの形成が見られ、夜に咲き始め朝に一夜限りで儚く花はしぼみ、雌しべに他個体の花の花粉による受粉が起きていなければ散る。20cm~25cmの花弁はあくまで白く美しく、辺りに顔を近づけると目に沁みるほどの強さの素晴らしい芳香を漂わせる。この花の開花時間帯、小型哺乳類サイズの小動物の訪花に耐える大きさと強度、闇夜でも目立ち接近を容易にする芳香と闇夜の薄明かりに浮かび上がって見える白い花、また昆虫にはもてあますほどの花粉や蜜の量や質は、生態学的には送粉シンドロームのコウモリ媒花の特徴に一致し、これは原産地の野生状態では、新大陸熱帯地域に特徴的な花蜜・花粉食の小型コウモリ類を誘引し、花粉を運搬させて受粉を行っていることへの適応と考えられている。
この花は日本での栽培下では6月~11月の夜に咲き、手入れがよく、この季節に株の体力が十分に回復する余力があれば、2ヶ月から3ヵ月後にもう一度咲かすことができる。つぼみは初期は垂れ下がっているが開花直前になると自然に上を向き膨らみ、夕方に芳香を漂わせはじめる。これも、小型のコウモリ類がホバリングをしながらやや下を向き、舌を伸ばして顔を花粉まみれにしながら花の蜜と花粉を舐めとる事への適応と考えられる。
こうしたコウモリ媒花の特徴を持つ、夜咲きの強い芳香を発する大形の花を咲かせるサボテンは、ゲッカビジンやこれに近縁なクジャクサボテン近縁種だけでなく、乾燥地帯の柱状や玉状のハシラサボテン類にも広く見られ、ゲッカビジンならずとも日本国内で栽培が普及しているサボテンにも、大型の夜咲きで強い芳香を放つ花を咲かせるものは必ずしも少なくない。
開花中の花、開花後のしぼんだ花ともに食用にでき、咲いている花は、焼酎につけると保存できる。台湾ではスープの具として使われ、また開花後のしぼんだ花を豚肉とともに炒めてもよい。
[編集] 茎
茎のほとんどは昆布状の扁平な葉状茎になっており、またしばしば株元から細長い鞭状の茎を伸ばす。葉状茎の縁は波打っており、その凹部のくぼんだ点に産毛状に退化した刺(これが真の葉)を持つ刺座(サボテン科特有の点状にまで短縮した短枝)が位置する。成長点はここと茎頂にあり、これらの箇所から新しい茎(長枝)やつぼみが生じる。
[編集] 果実
古くから日本に普及していた株は、原産地から導入された、たった1つの株から挿し木や株分けで増やされた同一クローンであり、受粉に際して自家不和合性を示す特性があるため、人工授粉してもほとんど果実が実ることはなかった。しかし、1980年代に東京農業大学の研究グループが原産地から野性の別のクローンを持ち帰り、増殖、普及させたため、今日では複数のクローンが幾つもの園芸業者によって国内流通しており、これらの間でコウモリに代わって人間が人工授粉してやれば容易に成熟した果実が得られる。成熟した果実は表面が赤く内部の果肉は白くて黒い胡麻状の種子が数多く散在し、紡錘形で大きく、近縁種である同じ熱帯雨林原産の着生サボテンであるドラゴンフルーツに似た外見を持ち、甘い。そのため、古くから日本で栽培されてきたもの以外のクローンを園芸業者が販売する際、家庭用果樹として宣伝し、「食用月下美人」の商品名をつけることが多い。
[編集] 生育環境
水や窒素肥料を与えすぎると栄養成長に偏った成長となり、有性生殖が抑制されるので株だけ大きくなってつぼみをつけないことがあるため、やりすぎに注意する。さらに元来、クジャクサボテン属やこれに近縁ないくつかの属のサボテン科植物は野生状態では着生植物であり、大木の樹皮に根をまとわりつかせて樹上から昆布状の葉状茎の束が垂れ下がるように成長している。そのため、樹皮を伝う雨水、樹皮に生えたコケ類、樹の股や洞に溜まった腐植質などから水分や肥料分を摂取しているため、そもそも生理的に多肥多湿には強くなく、根ぐされを起こす危険もある。
ただ、ゲッカビジンなどクジャクサボテン類の根は樹上の樹の股や洞や、岩山の割れ目に溜まったの腐植質やそこに形成された土壌にも深く根を下ろすことが多く、同じ着生植物のラン科のカトレアなどと異なり、土壌に対してもかなりの適応力がある。そのため、根への十分な通気を確保し、土壌の過湿、極端な多肥さえ避ければ、温帯では温室で、熱帯、亜熱帯地域では戸外での地上栽培も十分可能であるし、多くの園芸会社はクジャクサボテン・ゲッカビジン用に上記の条件を満たすように調合した培養土を市販してもいる。もちろん、多くの洋ランやパイナップル科のアナナス類等、他の着生植物由来の園芸植物と同様にミズゴケ栽培でもよく育つし、十分大きなヘゴ板や丸太状のヘゴ材を用いれば、原産地における着生状態を再現した栽培も可能であろう。
葉状茎以外に株元から伸びる鞭状の茎は野性の着生状態では、先端部が親株から離れた部位の樹皮などに接触すると、そこから発根し、新たな株がそこで成長を始める。
原産地はメキシコの熱帯雨林であるため非耐寒性であり、摂氏7度以下になるときは室内に入れるとよい。凍傷になるとその部分の組織が壊死して、葉状茎に褐色斑点ができる。
[編集] 背景
花言葉は「はかない美、儚い恋、繊細、快楽、艶やかな美人」。7月19日の誕生花ともされる[1]。 古くから珍奇栽培植物として一部では熱心な栽培家も少なからずおり、そうした趣味家の栽培株の開花がマスコミで珍しい現象としてニュースになったりした時代もあるが、高い技術を持つ趣味家でなくとも比較的簡単に栽培できる為、近年のガーデニングの流行で人気がでて、栽培者も広く普及して増えてきた。
月下美人にはその美しさのためや、珍奇植物として好奇の目にさらされていた時代が長かったせいか、いろいろな言い伝えや俗説が流布しているが、意外に間違いが多い。
- 同一株から分かれたため同じ日に咲くといわれる。
- 同じクローン株であっても、タケ類に見られるような体内時計による長期同調性はなく、あくまでもその株の置かれた環境に由来する生理状態の履歴に依存してつぼみ形成、開花を行う。さらに言うならば、既にこの20年ほどは日本国内に複数の遺伝的に異なるクローンが流通しているので、もう日本国内の月下美人全てが同じ株由来ではない。無数のクローンの生息する原産地では言うまでもない。
- 1年に1度しか咲かない。(手入れをきちんとすると2度咲く)
- 花を咲かせるだけの栄養素の蓄積や体力回復のゆとりが、成長期に十分あるかどうかの問題である。
- 新月の夜にしか咲かないといわれる(下記写真は2005年7月13日月齢7.0に撮影したため正確ではない模様。)