核爆発
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核爆発(かくばくはつ)とは、原子核の分裂または融合の過程で放出されるエネルギーを爆発力として取り出す際に発生する現象である。これには軍事利用と平和利用の2つの用途がある。
[編集] 核爆発の軍事利用
核兵器を参照のこと。
[編集] 核爆発の平和利用
比較的にクリーンである熱核反応主体型の核爆発を平和利用しようとする構想は、核兵器の開発初期からすでに存在したが、いわば公然と議論され始めたのは1950年代の後半である。アメリカ合衆国ではプラウシャー計画と名付けられた核爆発の産業利用を目的とする一連の研究が1957年頃からスタートし、実験を含めて広く検討が行われ、またソビエト連邦、フランスなど他のいくつかの国においても、この方面の研究が進められた。
核爆発は深い地中で起こさせる場合と、地表に近いところで起こさせる場合とに分けられる。前者は地下空洞を作るなどの地下利用であり、後者は地表部分の岩石、土砂を移動させる地表利用ともいうべきものである。地下で核爆発が起きると、100万分の1秒以下という極めて短時間の間に、核爆弾の容器と周辺の岩石あわせて数トン分が、摂氏1000万度以上、圧力数万気圧に達する。この部分はガスないし液状であり、ただちに周辺の岩石を押し退けて膨張を始め、球面衝撃波が伝わっていく。爆発点に比較的近い部分の岩石には衝撃波のため亀裂が発生するが、遠方では衝撃波も弱まり、岩石も弾性的に振舞う。そして岩石や水の蒸気の圧力と周辺の岩圧とが平衡するまで球状に空洞が広がる。この空洞は爆発点の深さ、爆発力、岩質等の条件により、短いときは数秒、長いときは数日間ほど保持されるが、やがて垂直上方に向かって空洞の崩壊が始まり、最終的にはほぼ最初の空洞の直径をもった円筒状領域ができる。この領域はチムニーと呼ばれ、通例は岩砕でかなりの部分が埋まる形となる。空孔部の総体積は最初の空洞体積にほぼ等しいが、材質によっては破砕に伴い体積増加が生じ、空孔部があまり残らぬこともある。チムニーの形状は必ずしも円筒状のみとは限らず、地層構造が非均質であればそれに応じた変形をする。チムニーの半径 RC は次の式で予測することができる。
ここで、C1 は爆発環境条件から定まる数、W は爆発エネルギー、K1 は地層の破壊強度と自重圧の総和、γ は地層材料の断熱指数、である。爆発点が深いほど、この式からもわかるようにチムニーは小さくなり、また亀裂のある領域の体積も減ってくる。なお、亀裂領域の直径はチムニー直径の3倍から6倍程度である。
地表近くの核爆発に関しても、岩石、土砂の移動量と爆発点深さならびに爆発エネルギーの関係が評価されているが、重要な点は、移動量を最大にしたり最適形状のクレーターを作ったりするには、爆発点に関して最適の深さがあるということである。
核爆発の地下利用には次のようなものがある。
- 石油・ガスの採掘量の増大 - 核爆発による空洞拡大や岩帯破砕により通常の採掘の場合の数倍以上の回収ができる。アメリカで実験済み。
- ガス貯蔵 - ガスを透過しない頁岩あるいは岩塩の層の中にチムニーを作り、天然ガスを貯蔵して、隣接の需要地に送るガス量調整をする。ソビエトで実験済み。
- 石油貯蔵 - ガス貯蔵の場合と似たような構想であるが、長期の備蓄に適している。
- オイルシェール直接抽出 - アメリカ、ソビエト、ブラジルなどに大量に賦存するオイルシェールから、その場で直接に油を抽出するため、チムニーを作り、頂部から空気を送って部分燃焼をさせ、熱的に抽出した油を底部からパイプで地上に取り出す。
- 銅などの浸出採取 - チムニーを作り、頂部から浸出剤を注入し、底部から浸出液を取り出して地上で銅を分離・生産する。貧鉱に適した方法で銅に限らない。
- 地熱回収 - 高温岩体中のチムニーに水を注入し、高温蒸気として取り出して利用する。
- 廃棄物貯蔵 - 核廃棄物や一般産業廃棄物などを空洞部に貯蔵する。
一方、地形改造などの地表利用には次のようなものがある。
- 港湾や運河の造成
- 人工ダムの造成
- 平地造成
これらはいずれも地表の岩石、土砂を爆発で吹き飛ばして別の場所に移動させ、その跡地を利用しようとするものであり、実験もいくつか行われている。このほか、ガス田や鉱山の大規模火災の消火用に核爆発を使うという構想もある。
安全の問題に関しては、爆発力に対する安全確保と放射線安全確保に留意する必要がある。放射線源としては核分裂物質、熱核反応によるトリチウム、ならびに放射性物質が生成するが、地下核爆発ではこれらのほとんどは地中に留まることが多数の核実験で示されている。