温泉
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温泉(おんせん)とは、地中から湯が湧き出す現象や、地下水が湯となっている状態、またはその場所を示す用語である。その湯を用いた入浴施設も一般に温泉と呼ばれる。
熱源で分類すると、火山の地下のマグマを熱源とする火山性温泉と、火山とは無関係の非火山性温泉に分けられる。 含まれる成分により、さまざまな色、匂い、効能の温泉がある。
広義の温泉:日本の温泉法の定義では、必ずしも水の温度が高くなくても、普通の水とは異なる天然の特殊な水(鉱水)やガスが湧出する場合に温泉とされることがある(温泉の定義参照)。
目次 |
[編集] 温泉の成り立ち
地熱で温められた地下水が自然に湧出するものと、ボーリングによって人工的に湧出あるいは揚湯されるもの(たとえ造成温泉でも)どちらも、温泉法に合致すれば温泉である。温泉を熱源で分類すると、火山の地下のマグマを熱源とする火山性温泉と、火山とは無関係の非火山性温泉に分けられる。非火山性温泉はさらに、地下深くほど温度が高くなる地温勾配に従って高温となったいわゆる深層熱水と、熱源不明のものに分けられる。また特殊な例として、古代に堆積した植物が亜炭に変化する際の熱によって温泉となったモール泉が北海道の十勝川温泉に存在する。火山性温泉は当然ながら火山の近くにあり、火山ガス起源の成分を含んでいる。深層熱水は平野や盆地の地下深部にあってボーリングによって取り出されることが多く、海水起源の塩分や有機物を含むことがある。非火山性温泉の中には通常の地温勾配では説明できない高温のものがあり(有馬温泉・湯の峰温泉・松之山温泉など)、その熱や成分の起源についていくつかの説が提案されているが、いずれも仮説の段階である。
[編集] 温泉の歴史と利用
[編集] 日本の温泉
日本は火山が多いために火山性の温泉が多く、温泉地にまつわる伝説、神話の類も非常に多い。また、発見の古い温泉ではその利用の歴史もかなり古くから文献に残されている。
文献としては日本書紀、続日本紀、万葉集、拾遺集などに禊の神事や天皇の温泉行幸などで使用されたとして玉造温泉、有馬温泉、道後温泉、白浜温泉、秋保温泉などの名が残されている。平安時代の延喜式神名帳には、温泉の神を祀る温泉神社等の社名が数社記載されている。
江戸時代になると貝原益軒、後藤艮山、宇田川榕庵らにより温泉療法に関する著書や温泉図鑑といった案内図が刊行されるなどして、温泉は一般庶民にも親しまれるようになった。この時代は一般庶民が入浴する雑湯と幕吏、代官、藩主が入浴する殿様湯、かぎ湯が区別され、それぞれ「町人湯」「さむらい湯」などと呼ばれていた。各藩では湯役所を作り、湯奉行、湯別当などを置き、湯税を司った。
一般庶民の風習としては正月の湯、寒湯治、花湯治、秋湯治など季節湯治を主とし、比較的決まった温泉地に毎年赴き、疲労回復と健康促進を図った。また、現代も残る「湯治風俗」が生まれたのも江戸時代で、砂湯、打たせ湯、蒸し湯、合せ湯など、いずれもそれぞれの温泉の特性を生かした湯治風俗が生まれた。
明治時代になると温泉の科学的研究も次第に盛んになり、昭和以降は温泉医学及び分析化学の進歩によって温泉のもつ医療効果が実証され、温泉の利用者も広範囲に渡った。
[編集] 欧州の温泉
日本の温泉が入浴本位で発展したのに対し、欧州の温泉は飲用を主に、日光浴や空気浴を加えた保養地として発達した。
[編集] 温泉の利用
湯を使う風呂が一般的でなく、衛生に関する知識や医療が不十分であった時代には、温泉は怪我や病気に驚くべき効能があるありがたい聖地であった。各温泉の起源伝説には、鹿や鶴や鷺(サギ)などの動物が傷を癒した伝説や、弘法大師等高名な僧侶が発見した伝説が多い。このような場所は寺や神社が所有していたり、近隣共同体の共有財産であった。 江戸時代頃になると、農閑期に湯治客が訪れるようになり、それらの湯治客を泊める宿泊施設が温泉宿となった。湯治の形態も長期滞在型から一泊二日の短期型へ変化し、現在の入浴形態に近い形が出来上がった。
温泉はヨーロッパでは医療行為の一環として位置付けられているが、日本では観光を兼ねた娯楽である場合が多い。学校の合宿、修学旅行に取り入れる例も多い。もちろん、湯治に訪れる客も依然として存在する。
[編集] 提供形態
一旦浴槽に注いだ湯を再注入するか否かで循環式と掛け流しに分類される。循環式においては、一度利用した湯を濾過・加熱処理をした上で再注入している。近年掛け流しを好む利用者の嗜好により、源泉100パーセントかけ流し等のキャッチコピーで宣伝しているところもある。
[編集] 入浴法
さまざまな湯温
さまざまな入浴形態
- 打たせ湯 - 筋湯温泉(大分県)
- 立ち湯 - 鉛温泉(岩手県)
- 寝湯 - 湯之谷温泉郷
- 足湯 - 各所、屋外で無料のものも多い。道の駅たるみず(鹿児島県)に設置されているものが日本最長
- 蒸し湯 - 鉄輪温泉(石室:大分県別府温泉)
- 岩盤浴 - 玉川温泉(秋田県)
- 泥湯 - 明礬温泉(大分県別府温泉)、すずめの湯(熊本県地獄温泉)、三朝温泉(鳥取県)、 後生掛温泉(秋田県)
- 飲泉 - 各所、禁忌の場合もあるので、飲む場合は注意が必要。
[編集] 温泉の定義
日本では温泉は温泉法と環境省の鉱泉分析法指針で定義されている。
[編集] 温泉の要素
温泉には以下の要素がある。
- 泉温
- 泉温は湧出口(通常は地表)での温泉水の温度とされる。泉温の分類としては鉱泉分析法指針では冷鉱泉・微温泉・温泉・高温泉の4種類に分類される。
- 泉温の分類は、国や分類者により名称や泉温の範囲が異なるため、世界的に統一されているというわけではない。
- 溶解成分(泉質)
- 溶解成分は人為的な規定に基づき分類される。日本では温泉法及び鉱泉分析法指針で規定されている。鉱泉分析法指針では、鉱泉の中でも治療の目的に供しうるものを特に療養泉と定義し、特定された八つの物質について更に規定している。溶解成分の分類は、温泉1kg中の溶存物質量によりなされる。
- 湧出量
- 湧出量は地中から地表へ継続的に取り出される水量であり、動力等の人工的な方法で汲み出された場合も含まれる。
- 温泉の三要素は温泉の特徴を理解するために有益であるが、詳しくは物理的・化学的な性質等に基づいて種々の分類及び規定がなされている。
- 浸透圧
- 鉱泉分析法指針では浸透圧に基づき、温泉1kg中の溶存物質総量ないし氷点によって 低張性・等張性・高張性 という分類も行っている。
[編集] 温泉法による温泉の定義
日本では、1948年(昭和23年)7月10日に温泉法が制定された。この温泉法第2条(定義)によると、温泉とは、以下のうち一つ以上が満たされる「地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)」と定義されている(広義の温泉)。
- 泉源における水温が摂氏25度以上。(摂氏25度未満のものは、冷泉または鉱泉と呼ぶ事がある)
- 以下の成分のうち、いづれか1つ以上のものを含む。(含有量は1kg中)
- 溶存物質(ガス性のものを除く。) 総量1000mg以上
- 遊離炭酸(CO2) 250mg以上
- リチウムイオン(Li+) 1mg以上
- ストロンチウムイオン(Sr++) 10mg以上
- バリウムイオン(Ba++) 5mg以上
- フェロ又はフェリイオン(Fe++,Fe+++) 10mg以上
- 第一マンガンイオン(Mn++) 10mg以上
- 水素イオン(H+) 1mg以上
- 臭素イオン(Br-) 5mg以上
- 沃素イオン(I-) 1mg以上
- フッ素イオン(F-) 2mg以上
- ヒドロひ酸イオン(HAsO4--) 1.3mg以上
- メタ亜ひ酸(HAsO2) 1mg以上
- 総硫黄(S)[HS-,S2O3--,H2Sに対応するもの] 1mg以上
- メタほう酸(HBO2) 5mg以上(殺菌や消毒作用がある塩化物質。眼科で目の洗浄や消毒に使われる。)
- メタけい酸(H2SiO3) 50mg以上(保温効果を持続させる作用がある。)
- 重炭酸ソーダ(NaHCO3) 340mg以上
- ラドン(Rn) 20(100億分の1キュリー単位)以上
- ラジウム塩(Raとして) 1億分の1mg以上
[編集] 鉱泉分析法指針による分類
環境省の定める鉱泉分析法指針では「常水」と「鉱水」を区別する。 湧出時の温度が摂氏25度以上であるか、または指定成分が一定の値以上である場合、これを「鉱水」と分類する。(鉱泉参照)
- 泉温
- 鉱泉分析法指針では湧出または採取したときの温度により以下の四種類に分類される。
- 冷鉱泉 - 摂氏25度未満
- 微温 - 泉摂氏25度以上摂氏34度未満
- 温泉 - 摂氏34度以上摂氏42度未満(狭義の温泉)
- 高温泉 - 摂氏42度以上
- 液性の分類 - pH値
- 湧出時のpH値による分類
- 酸性 - pH3未満
- 弱酸性 - pH3以上6未満
- 中性 - pH6以上7.5未満
- 弱アルカリ性 - pH7.5以上8.5未満
- アルカリ性 - pH8.5以上
- 浸透圧の分類
- 溶存物質総量および凝固点(氷点)による分類
- 低張性 - 溶存物質総量 8g/kg未満、氷点-0.55℃以上
- 等張性 - 溶存物質総量 8g/kg以上10g/kg未満、氷点-0.55℃未満-0.58℃以上
- 高張性 - 溶存物質総量 10g/kg以上、氷点-0.58℃未満
[編集] 療養泉
鉱泉分析法指針では、治療の目的に供しうる鉱泉を特に療養泉と定義し、特定された八つの物質について更に規定している。
泉源の温度が摂氏25度以上であるか、温泉1kg中に以下のいずれかの成分が規定以上含まれているかすると、鉱泉分析法指針における療養泉を名乗ることができる。
- 溶存物総量(ガス性のものを除く) - 1000mg
- 遊離二酸化炭素 - 1000mg
- Cu2+ - 1mg
- 総鉄イオン(Fe2++Fe3+) - 20mg
- Al3+ - 100mg
- H+ - 1mg
- 総硫黄([HS-,S2O3--,H2Sに対応するもの)- 2mg
- Rd - 111Bq
さらに療養泉は溶存物質の成分と量により以下のように分類される。
- 塩類泉 - 溶存物質量(ガス性物質を除く)1g/kg以上
- 単純温泉 - 溶存物質量(ガス性物質を除く)1g/kg未満かつ湯温が摂氏25度以上
- 特殊成分を含む療養泉 - 特殊成分を一定の値以上に含むもの
[編集] 資料
[編集] 温泉の種類
[編集] 単純温泉
含まれる成分の含有量が少ないため(温泉水1kg中1000mg未満)、刺激が少なく肌にやさしい。無色透明で、無味無臭。旧泉質名は単純泉。神経痛、筋肉・関節痛、うちみ、くじき、冷え性、疲労回復、健康増進などの一般的適応症に効果がある。
[編集] 硫黄泉
硫黄が多く含まれる温泉。卵の腐ったような硫化水素の臭いがあり、色は微白濁色。換気が悪い場合、中毒を起こすことがある。ニキビ、オイリー肌、皮膚病、リュウマチ、喘息、婦人病などの症状に効果あり。硫黄イオンはインスリンの生成を促す働きがあるので、糖尿病の症状にも有効。刺激が強い泉質なので、病中病後で体力が落ちている人や乾燥肌の人には注意が必要。
[編集] 塩化物泉
ナトリウムが含まれる温泉。旧泉質名は、食塩泉。主な効用としては、外傷、慢性皮膚病、打ち身、ねんざ、リュウマチ、不妊症などがあげられる。飲用は胃腸病に効くといわれている(飲泉は、医師の指導を受け、飲用の許可がおりている場所で、注意事項を守って行うこと)。ナトリウムイオンは、脳のホルモンを刺激し、女性ホルモンのエストロゲンを上昇させる働きがあるので、女性の更年期障害にも有効。
[編集] 含鉄泉
鉄を含む温泉。水中の鉄分が空気に触れる事によって酸化するため、湯の色は茶褐色である。殺菌消毒作用がある。炭酸水素塩系のものと硫酸塩系のものがある。この泉質の温泉は保湿効果が高いので、体がよく温まる。貧血に効く。
[編集] 含銅・鉄泉
銅及び鉄を含む温泉。水中の金属分が空気に触れる事によって酸化するため、湯の色は黄色である。含鉄泉同様、炭酸水素塩系のものと硫酸塩系のものがある。血症、高血圧症などに効く。
[編集] 含アルミニウム泉
アルミニウムを主成分とする温泉。旧泉質名は、明礬泉、緑礬泉など。殺菌消毒作用がある。肌のハリを回復させる効果があり、また慢性皮膚病、水虫、じんましんなどにも効く。明礬泉はとくに眼病に効果があるとされる。
[編集] 酸性泉
水素イオンを多く含む強い酸性の温泉(PH3以上)。刺激が強く、殺菌効果が高い。また、古い肌を剥がし新しい肌に刺激を与えて自然治癒力を高める効果もある。水虫や湿疹など、慢性皮膚病に効く。肌の弱い人は入浴を控えるか、入浴後に真水で体をしっかり洗い流すなどの配慮が必要。
[編集] 炭酸水素塩泉
アルカリ性の湯。重曹泉、重炭酸土類泉に分類される。重曹泉の温泉への入浴は、肌をなめらかにする美肌効果があり、外傷や皮膚病にも効果あり。飲泉すると慢性胃炎に効くといわれる。一方、重炭酸土類泉の温泉は炎症を抑える効果があるので、入浴は、外傷、皮膚病、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患などに効く。飲泉は、痛風、尿酸結石、糖尿病によいとされる。
[編集] 二酸化炭素泉
無色透明で炭酸ガスが溶け込んだ温泉である。旧泉質名は単純炭酸泉。炭酸ガスが体を刺激し、毛細血管を拡張して血行をよくする効果がある。入浴による効果は、心臓病や高血圧の改善。飲泉は便秘や食欲不振によいとされる。
[編集] 放射能泉
微量のラドン・ラジウムが含まれる。これらの不活性の気体のごく微量の放射能は人体に悪影響を及ぼす可能性は小さく、むしろ、ホルミシス効果で微量の放射線が免疫細胞を活性化させる(癌の発育を妨げることがあるのではないかと言われる)ので、むしろ体に良いのではないかと考えられている。皮膚病、婦人病を始め様々な病気や外傷に効果があるといわれるが、とくによいとされるのは痛風、血圧降下、循環器障害である。
[編集] 硫酸塩泉
硫酸塩が含まれる。苦味のある味。芒硝泉、石膏泉、正苦味泉に分かれる。血行をよくする働きがある。入浴効果は外傷や痛風、肩こり、腰痛、神経痛などに効く。飲泉は便秘やじんましんに効く。硫酸塩は、強張った患部(硬くなった肌)を柔らかくして動きやすくする働きを持っているため痛風や神経痛の症状に効果が高い。
[編集] 温泉マーク
温泉マークのUnicodeにおける実体参照コードは、♨(♨)である。
発祥は3説存在する。詳細は温泉マークを参照の事。
♨ |
[編集] Onsen
2003年頃から、「Onsen」を世界で通用する言葉にする運動がある。これは、一般的な英語訳である「Hot Spring」では熱水が湧出する場所、「Spa」では療養温泉という意味があり、日本の一般的な温泉のイメージとどちらも離れているからである。「Onsen」を世界で通用する言葉にする運動は、草津温泉などが積極的に行っている。
[編集] 関連項目
- 外湯
- 泉 - 源泉 - 冷泉 - 間欠泉(間歇泉:de:Geysir)- 熱水泉
- 噴気、噴気孔(de:Fumarole)、
- 硫気孔(de:Solfatare)、炭酸孔(de:Mofette)
- 泥火山(de:Schlammvulkan)
- 湧出量
- 地熱
- 湯の花
- 造成温泉
- 温泉療法(en:Balneotherapy) - 水治治療(de:Kaltwasserkur)
- 浴場、湯治場、公衆浴場(de:Therme:ローマ時代)
- スパ(en:Spa)
- 温水プール
- バーデン - ドイツ語の「風呂」の意。温泉地に多く使われる地名
- ホット・スプリングズ(en:Hot Springs) - アメリカの地名
- カルトヴァッサーガイジル(de:Kaltwassergeysir)
- テルマルクヴェレ(de:Thermalquelle)