特殊奏法
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特殊奏法(とくしゅそうほう)とは、楽器の通常の操作法によらない演奏法のことである。ここでの通常の操作法とは、一般に楽器の設計時に想定された操作法のことである。すなわち、設計時に想定された操作法を越える音の出し方を、一般に特殊奏法と呼ぶ。
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[編集] 目的
現代音楽で用いられる特殊奏法は、主に単なる興味や悪戯・諧謔を超えて、電子音を用いない楽器だけの純粋に音楽的な音色素材の追求と拡大を目指している。ヴァイオリンやピアノは現在進化できないほどに完成している為、そこから生まれる特殊奏法も既に世界共通・普遍的であると言われている。
[編集] 効果
音楽家によっては新奇で斬新な効果を狙っているが、実際は理解されないことも多く鑑賞に堪えない結果になる。また演奏家が鑑賞する場合は理解できても、通常の観衆には評判が悪く多用するのは逆効果である。
[編集] 西洋楽器の特殊奏法
ここでは楽器そのものの特殊奏法だけについて述べ、声の挿入や付加楽器などは除く。
当然ながら、ある奏法が、もっとも典型的な奏法ではないが非常にしばしば用いられる奏法であるなどの場合、それが通常の奏法の中に含まれるか、特殊奏法に含まれるかは、意見の分かれるところである。そのようなものには*を付す。
[編集] 弦楽器
- 弦楽器の場合大きさも奏者にとって負担でない。取りまわしも簡単なところから、特殊奏法も比較的多種で容易。また小さい楽器ほど有利である。歴史もある奏法が多い。
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- ピチカート*
- デッド・ピチカート*
- バルトーク・ピチカート
- 爪のピチカート
- 左手のピチカート
- フラジオレット(自然と人工)*
- 半フラジオレット(自然と人工)
- サブハーモニクス
- スル・ポンティチェロ
- スル・タスト*
- 駒の真上で垂直に引く
- 駒の後ろで
- グリッサンド*
- アルペッジョ*
- コルレーニョ・トラット(松脂付きと無し)
- コルレーニョ・バテュート
- 弓を弦に押し付ける
- 弦を左手でカバーし弓で垂直に弾く
- 弓のグリッフで弦を立てに突つく
- 尾止めを弾く(場所で違いあり)
- 糸巻きの近くの弦を弾く
- 弓を素振りする
- 重音奏法*
- 弦を後ろから弾く
- 弓を指の反対側で弾く
- 弓を楽器の背に押し付け捏ね回す
- 胴体を関節で叩く
- 弱音器(ゴム、木質、金属等があり、音色が異なる)*
- コル・レーニョ
- スコルダトゥーラ(変則調弦)
- 微分音
- コントラバスはテインパニの撥で弦を叩く事ができる。
- 靴べらで弦をはじく(琵琶の音の模倣)
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- (と其の組み合わせ)
- ギター属
- 胴体を関節で叩く
- 金属の短い棒でグリッサンドする
- 駒の後ろの弦をはじく
- 弾いた瞬間に調律ネジでグリッサンドする。
- ハープ属
- 弾いた瞬間にペダ属ルでグリッサンドする。
- スポンジなどで弦を垂直に擦り雑音を出す。
[編集] 木管楽器
木管楽器・金管楽器共通して重音奏法が基本的に不可能であり、弦楽器のように複数の旋律を重ねることが難しい。
- フルート属(ピッコロからサブ・コントラバスまで)
- フラッターツンゲ*
- 息による雑音
- キー・ノイズ
- スラップ:ピチカート
- タング・ラム
- ホイッスル・トーン
- エオリアン・トーン
- 一点イから一点変ロへのグリッサンド
- 重音奏法:楽器のモデルにより、奏者によりまたその人自身の調子や形状により出る音が違う。
- ハーモ二ックまたはフラジェオレット*
- マウスピース無しの尺八奏法
- マウスピースだけのトロンボーン奏法
- トランペット奏法
- 鼓奏法
- 接吻奏法
- ジェット・ホイスル奏法
- 口の形
- 口をマウスピースから離す。
- 唇でマウスピースをブロックする。
- マウスピースの中でタンギングする。
- 循環呼吸
- (とその組み合わせ)
- リコーダー属
- 重音奏法:楽器のモデルにより、奏者によりまたその人自身の調子や形状により出る音が違う。
- エオリアン・トーン
- フラッターツンゲ*
- 息による雑音
- クラリネット属
- マウスピースをはずして演奏する。
- 重音奏法:楽器のモデルにより、奏者によりまたその人自身の調子や形状により出る音が違う。
- マウスピースだけのトロンボーン奏法
- キー・ノイズ
- フラッターツンゲ*
- スラップ:ピチカート
- 息による雑音
- サクソフォーン属
- マウスピースをはずして演奏する。
- 重音奏法:楽器のモデルにより、奏者によりまたその人自身の調子や形状により出る音が違う。
- マウスピースだけのトロンボーン奏法
- キー・ノイズ
- フラッターツンゲ*
- スラップ:ピチカート
- 息による雑音
- 接吻奏法
- オーボエ属
- マウスピースだけで演奏する。
- 重音奏法:楽器のモデルにより、奏者によりまたその人自身の調子や形状により出る音が違う。
- キー・ノイズ
- フラッターツンゲ*喉で行う
- 息による雑音
- 接吻奏法
- ファゴット属
- マウスピースだけで演奏する。
- 重音奏法:楽器のモデルにより、奏者によりまたその人自身の調子や形状により出る音が違う。
- キー・ノイズ
- フラッターツンゲ*喉で行う
- 息による雑音
- 接吻奏法
[編集] 金管楽器
- ホルン属
- 弱音器(ミュート)を付ける;ストレート・カップなど
- ゲシュトップ:右手でベルを塞ぐことにより金属的な響きを出す。(ゲシュトップミュートという物もある)
- ハーフストップ:右手の位置を変えることにより息の通りを狭くして音程・音色を変化させる。
- グリッサンドをする(上行と下行が可能)
- トランペット属
- 弱音器をする:ストレート・バケット・ワーワー(芯ありと芯なし)・カップなどがある、(ルートヴィックスブルク金管五重奏団の提供)
- プランジャーをする(ヴィンコ・グロボカールの提供)
- グリッサンドをする(主に下降)
- フラッターツンゲ、ダブルタンギング・トリプルタンギング*
- バルブを半分だけ押す
- マウスピースだけで演奏する
- スラップ・ピチカート(一通りのピストンの指使い分の音が出る)
- 平手でマウスピースの部分を弱くしかしはっきり叩く
- 息だけを吹き込む(一通りのピストンの指使い分の音が出る)
- 接吻(一通りのピストンの指使い分の音が出る)
- 低い二つの倍音を同時に吹く:非常に難解(ヴィンコ・グロボカールの提供)
- ペダルトーンと其の更に下のサブ・ペダルトーン及び下方倍音(マルクス・シュトックハウゼンの提供)
- 循環呼吸(ルッツ・マンドラーの提供)
- マウスピースを爪と指で下方に瞬間的に押し込み底に当てる(ポザウネン・コア・プーダ-バッハの提供)
- チューバ属
[編集] 打楽器
- 膜質打楽器ティンパニの双方はペダルを覗いて共通する。
1. 皮面を音の出るもので擦る。 2. 釜をバチの枝の方で軽く叩く。 3. コペルト 4. 小太鼓の撥など 5. シンバルを皮面に載せてトレモロしながらペダルを動かす。 6. 皮をスーパーボールで擦る。 7. 金管楽器の朝顔を当てて吹かせる。
- 金属打楽器
1. ウォーター・ゴング:ゴングを叩きながら水に静めたり引き上げたりする。 2. タムタムを硬い紙のロールで擦る。 3. 懸垂シンバルをコントラバスの弓で弾く。 4. ストップ・ストライク:ヴィブラフォーンを叩いた時離さない。 5. 鍵盤打楽器をぎざぎざのついた棒で擦る・弾く。
- 木質打楽器
1. 鍵盤打楽器をぎざぎざのついた棒で擦る・弾く。
[編集] 鍵盤楽器
すでに音が完成されているものを打鍵によって出力するため、特殊奏法として認められるものが少ない。
- ピアノ
- 音を出さない打鍵をしながら別の旋律を弾くとペダルを使わないで共鳴する効果が得られる。
- グリッサンド*
- クラスター(肘や腕で弾く)
- 弦に定規などを乗せて弾く。
- 弦を洗濯ばさみなどで挟んで弾く。
- 楽器の主に外側(ふたなど)を叩く
- 鍵盤を爪の横で音を立てないでグリッサンドする(白鍵と黒鍵と其の組み合わせで音が異なる:ギロ効果)
- 蓋をペダルを加えて強く締める
- ペダルを強く瞬間的に踏む
- 弦の調律を変える(ミクロ・トーンやバーピアノなど)
- [内部奏法]
- 弦を指ではじくまたは爪で複数の弦をペダルを使ってグリッサンドする
- 弦を打楽器の撥(主にティンパニ-)などで叩く
- 鋼鉄の支柱を関節やプラスチック・木製またはゴム製のハンマーでペダルを使って叩く
- 弦をガラス・コップや短い金属棒などでグリッサンドして同時にペダルを使い、鍵盤を弾く
- 調律ピンを爪を使って上にはじく
- 内部の弦に向かってぺダルを踏んだまま大声を出したり、金管楽器などを強く奏でる
- 弦をペダルを踏みながら爪を使って縦に引っ掻く
- 弦の消音部分または其の近くを指で強く又は弱く抑え鍵盤で弾く(フラジオレット効果)
- 弦の上にハケや定規・紙などをのせ鍵盤を弾く
- 弦をプリペアードして演奏する
- オルガン
- 電源を急に切る。注)この効果は前衛の時代に広く用いられたが、近年では電源を切ると完全にパイプがストップしてしまう為、実現不可能なオルガンが多数存在する結果となった。しかしヨーロッパではまだ古い機種が多く使用可能である。
- 鍵盤の付け根に鉛筆を挟み込み任意のオルゲル・プンクトをする。
- ハーモニウム
[編集] 人声
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- 子音だけを発音記号を使って強く発音させる*
- 複数の言語/文字のテキストや現在使われていない古文書などを使い歌わせる又はしゃべらせる*
- 意味のないことまたは何か(テキストを指定しない)を歌わせる又はしゃべらせる
- 方言や俗語・放送禁止用語などを使い歌わせる又はしゃべらせる
- 今まで出てきた言葉を逆行化したり、暗号化したりして歌唱に使う又はしゃべらせる
- ボッカ・キウ-ザ/無言歌
- 口をあけたままもしくは閉めたまま歌う又はしゃべらせる
- 微分音やグリッサンド
- 怒鳴る、叫ぶ、泣く、笑う、力む、唸り、驚き、声を潰す、怒るなど
- 息を吸い込みながら歌う又はしゃべる
- テキストをわざと間違って歌わせる又はしゃべる(ハンナ・リスカ・アウバッヒャ-の提供)
- 舌打ち(a,e,i,o,uの口の形で音が変化)
- フラッター・リッペン(口の閉め方で音色が変わる、声ありと声なしがある)
- 唇の息を吸い込みながら開けるときのコルクの栓抜きのような音
- 鼾
- 唇のピチャピチャという音
- 巻き舌の連続(声ありと声なし)
- 口笛
- イメージを付した声:例えばデスピーナが偽の医者になったときの声
- 喉の奥の突き
- 最も低い声のパルスの音色だけ
- ブーイング
- 接吻
- 壊れた声
- 裏声
- 指を口に入れて呼子する
- 動物の鳴きまね
- 拍手などからだの一部を叩く
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- 並びにそれらの組み合わせ
[編集] 邦楽器の特殊奏法
邦楽器の特殊奏法は邦楽の奏法の本質と言えるほどに一般化してる。しかしながら、楽器そのものを普遍的かつ科学的に解説する為に、西洋楽器と同じように特殊奏法の項として扱う。
[編集] 管楽器
篠笛|しのぶえ(色々な調子がある)
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- むら息(息のノイズ)
- フラッタータンギング/ツンゲ
- グリッサンド
篳篥|ひちりきはオーボエに準ずるが、キーがないためにキーに関する事は不可能。 能管 笙|しょう
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- フラッタータンギング/ツンゲ
- 循環呼吸
尺八|しゃくはち(色々な調子がある)
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- むら息(息のノイズ)そらね(スタカートの「むら息」)
- フラッタータンギング/ツンゲ
- ゆり:横ユリ:顎を横に動かすヴィブラート、音量の変化(音程の変化は無い)と縦ユリ:顎を縦に動かすヴィブラート、音程が上下する。
[編集] 弦楽器
:調弦は任意の場合が多い
胡弓:ヴァイオリンとほぼ同じ事ができるのが多いが、音がずっと小さい。
古琴
三味線|しゃみせん/蛇味線|じゃみせん
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- ハジキ:左手のピチカート
- スリ/コキ:余韻の装飾
- ウチ:マルテラート
- ウラハジキ
- スクイ:弦を下からすくう
- ピチカート
- グリッサンド
- コカシバチ
- カケバチ:バチで弦を弱音したままの左手のピチカート
- 「さわり」のIの弦の開放弦とIIとIIIの弦がその倍音のときの共鳴音
- 重音:制限が多い
琴|コト:13弦、17弦、20弦などがあり調律は任意が可能
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- かき手、割り爪、かき爪、
- 合せ爪
- 押し合わせ
- スクイ爪
- 散らし爪
- すり爪
- 打ち爪:爪の腹で弦を叩く
- 打ち掻き
- グリッサンド
- トレモロ
- 押し手
- 押し響き
- あと押し
- 押し放し
- ゆり:ヴィヴラート
- ひきいろ:装飾音の一種(下)
- 突きいろ:装飾音の一種(上)
- 消し爪
- 弱音:左手で余韻をミュート
- ピチカート:爪なしで
- ハーモニックス:多くは第二倍音
琵琶|びわ
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- ピチカート
- グリッサンド
- トレモロ
- アルペジォ
- スクイ:弦を下からすくう
- 8の字
- ハタキ・ウチバチ:腹板を一緒に打つ奏法
- スリ:弦を横に擦る奏法と縦に擦る奏法がある
- 押し込み:ポルタメント奏法
- ユリ:余韻の装飾
- ハジキ:左手のピチカートと打つ撥次のポジションの駒の上で左手の指で弦を打つ・マルテラートする
[編集] 打楽器
[編集] 太鼓類
大太鼓|おおだいこ:リム・ショットが多いが、Bass・Drumとほぼ同じ特奏法の可能性がある。 火炎太鼓|かえんだいこ 締太鼓:しめだいこ 桶胴太鼓|おけどうだいこ: 大拍子|だいびょうし: 大鼓|おおつづみ:
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- 「た」
- 「ち」
- 「ポン」
小鼓|こつづみ:
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- 「た」
- 「ち」
- 「ポン」
櫓太鼓|やぐらだいこ
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- 「ドン」
楽太鼓・釣太鼓:リムショットは不可能 枝つき太鼓 うちわ太鼓 鞨鼓 田々太鼓|でんでんたいこ 振鼓|ふりつづみ、とうこ 土拍子 荷太鼓 ねぶた太鼓 平釣太鼓・平丸太鼓
[編集] 金属・鉱物質打楽器
キン
-
- バチで淵を擦る
- 弓で淵を弾く
当り鉦・コンチキ・ちゃんチキ・摺鉦
-
- 中心部を打つ
- リムショット
- 台の上にのせて打つ
- 同じ者を2つ使用する
双盤(大きな当り鉦) 松虫(小さな当り鉦) 一つ鉦 鈴 銅跋(どうばつ)・銅拍子 駅路・駅鈴 銅鑼|どら
-
- 弓で弾く
- 紙の筒で擦る
- 打った後水の中に静める(Water・Gong)
妙八
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- 双方のシンバルをすり合わせる
- 弓で弾く
- 打った後水の中に静める(Water・Cymbal)
銅拍子・チャッパ(小型の妙八) 巫女鈴 オルゴール 雲版 梵鐘(釣鉦):小さいのは半鐘 釣鉦鼓|つりしょうご 銅鐸|どうたく 荷鉦鼓|にないしょうご にょう鉢 ポペン 本坪鈴 鈴 鰐口|わにぐち
[編集] 木質打楽器
棒ささら びんささら 勺拍子 拍子木 鳴子 木鉦 木魚 板木 枝つき木魚 小切子 ささら 銭太鼓 樽 壇版|たんばん 花木魚 張扇|はりおおぎ 版、板|はん 板木|はんぎ 編木|びんざさら 四つ竹|よつたけ 木琴
出典:日本音楽集団、”Japanese Music” by William P. Malm(Charles E. Tuttle Company)-M.Kaiser, 宇佐美陽一の「東の”耳”の聞く事は、、、、、、」(1989年1月12日Stuttgart)、打楽器辞典(網代景介、岡田知之: 音楽之友社)