研修医
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研修医 (けんしゅうい)
- 戦後、医師臨床実地研修制度において存在した「医師」の前の身分の名称。
- 臨床研修期間中の「医師または歯科医師」の呼び名。日本においては現在制度上「研修医」という資格はなかったが、2004年4月より研修必修化にともない、「研修医」の名称が公に使われるようになった。なお、病院独自に「前期・後期研修医」の名称を使用することがあるが、研修医(広義,1-5年目程度)= 研修医(狭義,=前期研修医,1-2年目) + 後期研修医(3-5年目程度)としていることが一般的である。一般に「研修医」の語を使う場合、「前期研修医」を指す。後期研修医とほぼ同義の語として、専修医、修練医、などがあるが、各々の病院独自のものである。
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[編集] 制度
日本では大学において6年間の医学教育が行われているが、医師免許・歯科医師免許を持たない学生は法律的に医療行為を行えないため、大学卒業時点では医師・歯科医師としての実地経験はないに等しい。そのため、臨床研修の名で上級医の指導の下に臨床経験を積む卒後教育が行われている。
臨床研修を受けることは以前は努力規定であったが、医科では、2004年から義務化され、歯科では2006年より義務化予定である。研修する期間は2004年現在では医科で原則2年間、歯科では原則1年以上である。
[編集] 歴史
[編集] 臨床実地研修制度とその廃止
戦後、日本の臨床研修は臨床実地研修制度(一般に米国のインターンに準えてインターン制度で知られている)で始まった。これは大学卒業後、1年間の「臨床実地研修」をした後に医師国家試験の受験資格を得られるというものであった。すなわち研修の期間中は学生でも医師でもなく、不安定な身分での診療を強いられた。また給与の保障もほとんどなかったため、学生による反対運動が起こり、ついには医師国家試験ボイコット運動などの大規模な学生闘争にまで発展した(インターン闘争)。こうした状況を受けて1968年医師法が改正され、制度は廃止された。
[編集] 劣悪な研修環境が社会問題化
この法改正により、大学卒業後すぐに医師国家試験を受けて医師免許を得ることが可能になった。臨床研修制度も改正され、医師免許取得後に2年以上の臨床研修を行うよう努めるものと定められた(努力規定)。こうして研修医は医師としての身分の保障はなされたものの、依然として労働面や給与面での処遇には問題も多かった。特に私立大学病院の大半では労働者としての扱いすらされておらず、社会保険にも加入できなかった。研修医には長時間の過酷な労働の対価として月額数万円程度の「奨学金」が支払われるに過ぎず、生活費を当直などのアルバイトに依存せざるを得なかったのである。
こうした研修医のアルバイト当直による医療過誤が社会問題化[要出典]し、また大学病院における専門分野に偏った研修の弊害も指摘されるようになり、36年ぶりに臨床研修制度が改正されるに至った。
なお、2005年6月、最高裁にて「研修医は、教育的な側面があるとはいえ、病院の開設者のために患者の医療行為に従事することもあり、労働基準法に定める労働者にあたる」とした判断が下され、最低賃金の保障など待遇の向上が期待される。
[編集] 新しい臨床研修制度
新しい臨床研修制度は2004年4月1日にスタートした。プライマリ・ケアを中心とした幅広い診療能力の習得を目的として、2年間の臨床研修を義務化するとともに、適正な給与の支給と研修中のアルバイトの禁止などが定められている。
歯科医師の場合は、2006年4月より、1年以上の臨床研修が義務化されることになっているが、多くの歯学部では既に2年間を中心とした臨床研修制度を行っている。
[編集] 問題点
[編集] 地域医療への影響
都市部以外の医師数は(病院数および患者数に対して)決定的に不足しており、研修医のアルバイトが禁じられることで、夜間および休日の当直業務を行う医師の確保が非常に困難となっている。また、労働力としての研修医を多く抱えることのできなくなった大学病院が人手確保のため関連病院へ派遣した医師を引き上げ始めており、人口過疎地では医療そのものが成り立たなくなるなどの問題も出始めている。
もっとも今までの医局人事が崩壊しつつあることで病院の経営者である医療法人や地方自治体は地元医学部に気を使うことなく採用活動を行うことが可能になり、特に地方の病院は新人研修医に対して各大学で説明会を開いたり、病院見学会を行うなど積極的な求人活動を行うようになった。今までのブラックボックス的医局人事を捨て、病院経営者による自主的な人事権の行使による公正な病院作りが可能となるか、注目されている。
[編集] 財源問題
新制度では研修医に対する適切な処遇の確保を謳っているが、実際には国は十分な財源の確保をしておらず、それをうやむやにするために給与も諸経費も一括して研修施設に交付し、その後の使い道は各施設に丸投げしてしまった。すなわち研修医の給与にどれだけ回すかに関して各施設の裁量を認めており、適切な処遇がなされない可能性を残している。 実際には、国は各研修施設に月30万円程度の給与を支払うよう求める一方で、経費込みで月十数万程度の補助しかなされていない。厚生労働省の調査で全国平均30万円を達成しているとされているが、これは高待遇の地方の民間病院と、給与の低い都市部の大学病院やその関連施設との平均に過ぎず、実態を反映していない、との指摘がある。
[編集] 研修の質の確保
幅広い診療能力の習得を目的に、内科・外科・産婦人科など複数の科で研修するカリキュラムを組むこととされているが、こうした研修を初めて実施する施設も多く、研修の質の確保が今後の課題とされる。
[編集] 診療科の選別
新臨床研修制度により、新任医師は専門科を選択するまでに多くの科をローテーションするようになった。 その結果、小児科や産婦人科、脳外科など労働条件の劣悪な科の実態が知れ渡り、訴訟リスクなどの影響も相まって、研修終了後にそれらの科を希望する医師が激減した。逆に皮膚科や眼科などが好待遇を求める新任医師に人気となった。 そのため、多忙な科や、常に緊急対応の必要な科ほど不人気になり、人員不足に陥る悪循環が発生しつつある。 これにたいして厚生労働省は人気のある診療科の報酬引き下げ、人手不足が生じている小児科等の報酬引き上げを実行し、今後の動向が注目されているところである。
[編集] 研修医を扱ったマンガ
[編集] 研修医を扱ったテレビドラマ
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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