第85回凱旋門賞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2006年10月1日にパリのロンシャン競馬場第7競走として芝2400メートルで行われた第85回凱旋門賞について記述する。
目次 |
[編集] 条件
- 発走:17時35分(日本時間2日0時35分)
- 賞金総額:2,000,000ユーロ(1着賞金1,142,800ユーロ)
- 出走条件:3歳以上牡牝
- 天候:晴
- 馬場硬度:3.0(良馬場)
[編集] レース施行時の状況
実際に出走したメンバー以外にも有力馬が登録していたが、エプソムダービー馬のサーパーシーは直前になって回避し、エプソムオークス馬のアレクサンドローヴァとヴェルメイユ賞に優勝したマンデシャは牝馬限定のオペラ賞に出走することになった。また、ヨーロッパ競馬界の2大馬主であるクールモアグループがハリケーンラン1頭、ゴドルフィンはエレクトロキューショニストが急死したこともあり出走馬無しとなった。このため、60年振りの一桁頭数となる8頭立てで争われることになった。それでも有力馬が揃って出走していた。
地元フランスからは、リーディングトレーナー(首位調教師)のアンドレ・ファーブル厩舎から3頭出し。その中でもハリケーンランは前年の同競走の優勝馬であり、同年もイギリスのキングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークスを優勝していた。シロッコは前年にアメリカのブリーダーズカップ・ターフを勝ち、同年もコロネーションカップで名牝ウィジャボードを破っていた。この同厩舎の2頭は凱旋門賞の前哨戦フォワ賞で対決し、ハリケーンランは直線で一度もムチを使わないなど互いに余裕を残した競走内容ではあったものの、シロッコがハリケーンランをクビ差抑えて勝利していた。3頭目のレイルリンクは3歳馬で、同年7月のパリ大賞典でGI(グループ1競走)初勝利。3歳馬限定の凱旋門賞前哨戦であるニエル賞も勝って4連勝で臨んでいた。凱旋門賞に有利な3歳馬であるが、主戦のクリストフ・スミヨン騎手がシロッコを選んだため、ステファン・パスキエ騎手に乗り替わることとなり、離された4番人気だった。
この3頭以外の出走馬はというと、6歳牝馬のプライドは同年になってから花開いた遅咲きで、サンクルー大賞典ではハリケーンランを破りGI(グループ1競走)初勝利。前走のフォワ賞は3着だった。また、イギリスから遠征してきた3歳馬シックスティーズアイコンはセントレジャーステークス優勝馬であり、近年においてその競走からの参戦は異例であった。地元フランスのアイリッシュウェルズはGII(グループ2競走)のドーヴィル大賞典優勝馬、ベストネームはGIII(グループ3競走)のプランスドランジュ賞優勝馬であった。
そして日本のディープインパクトである。前年の中央競馬三冠馬であり、この年も天皇賞(春)、宝塚記念を難なく勝ってフランスへやって来た。騎乗した武豊騎手は前日のGII(グループ2競走)で帯同馬(競走馬の遠征の際に同行する馬)のピカレスクコートに騎乗し日本の条件馬ながら2着と健闘、GI(グループ1競走)のフォレ賞でも惜しい2着に入っていた。
同馬の凱旋門賞挑戦のために、JRAでは馬券は購入できないにも関わらず凱旋門賞の宣伝CMを放送するほどの熱の入れようであり、NHKも地上波で生中継することとなった(同競走の地上波生中継は過去にフジテレビがシリウスシンボリの凱旋門賞挑戦のため第65回に放送した1回のみ)。この競走のテレビ中継の平均視聴率は関東地区で16.4%、関西地区で19.7%、さらに瞬間最高視聴率は関東地区で22.6%、関西地区で28.5%となり、深夜にも関わらず高視聴率を記録した。入場者も約60,000人のうち日本人が1割を占める6,000人と発表している[1]。しかし日本人が競馬場開門と同時にスタンドにめがけて走ったこと(いわゆる「開門ダッシュ」)、レーシングプログラムを取るため配布場所に押し寄せたことなどは、イギリスやフランスでは競馬場に社交場という一面があるため、日本人のマナーの悪さとして問題になった。日本国内でもウインズ後楽園・ウインズ道頓堀・プラザエクウス渋谷の3箇所でパブリックビューイングを行ったが、2,000人以上の観客が集まった。
前売り段階ではイギリス大手のブックメーカーはハリケーンラン、シロッコ、ディープインパクトの3頭を3~4倍程度に設定した[2]。しかし現地フランスに押し寄せた大量の日本人客により、パリミュチュエル方式で発売されるフランスギャロ(凱旋門賞の主催者)の最終オッズではディープインパクトが1.5倍、次いでハリケーンランとシロッコの5倍にまで変化したという。
[編集] 出走表
馬番 | 枠番 | 馬名(生産国) | 調教国 | 性齢 | 斤量 (kg) | 騎手 | 調教師 |
1 | 2 | ディープインパクト Deep Impact (JPN) |
日本 | 牡4 | 59.5 | 武豊 Yutaka Take |
池江泰郎 Yasuo Ikee |
2 | 1 | ハリケーンラン Hurricane Run (IRE) |
仏 | 牡4 | 59.5 | キーレン・ファロン Kieren Fallon |
アンドレ・ファーブル Andre Fabre |
3 | 6 | シロッコ Shirocco (GER) |
仏 | 牡5 | 59.5 | クリストフ・スミヨン Christophe Soumillon |
アンドレ・ファーブル Andre Fabre |
4 | 5 | プライド Pride (FR) |
仏 | 牝6 | 58 | クリストフ・ルメール Christophe Lemaire |
アラン・ド・ロワイエデュプレ Alain de Royer-Dupre |
5 | 4 | レイルリンク Rail Link (GB) |
仏 | 牡3 | 56 | ステファン・パスキエ Stephane Pasquier |
アンドレ・ファーブル Andre Fabre |
6 | 8 | シックスティーズアイコン Sixties Aicon (GB) |
英 | 牡3 | 56 | ランフランコ・デットーリ Lanfranco Dettori |
ジェレミー・ノスィーダ Jeremy Noseda |
7 | 7 | アイリッシュウェルズ Irish Wells (FR) |
仏 | 牡3 | 56 | ドミニク・ブフ Dominique Boeuf |
フランソワ・ロオー Francois Rohaut |
8 | 3 | ベストネーム Best Name (GB) |
仏 | 牡3 | 56 | オリビエ・ペリエ Olivier Peslier |
ロベール・コレ Robert Collet |
[編集] 競走内容
大きな乱れも無くスタートが切られた。ディープインパクトは良過ぎるほどの好発を見せ、先頭に立ってしまうが外のアイリッシュウェルズを行かせて2番手。
8頭立てということもありスローペースの一団でレースは進む。しかしディープインパクトは日本では常に最後方に構えていた馬である。800m(メートル。以下も同じ)辺りでシロッコが行きたがったためシロッコに譲り3番手に後退。その後はしばらく順位の動きも無く淡々と進むが、最後の直線手前のフォルスストレート(ロンシャン競馬場の項を参照)で騎手は持ったままだが早めに動いてしまった。
最後の直線。残り500mから前の2頭と3頭併走で先頭。残り300mで前の2頭をようやく交わしたかと思ったところで同時に外からレイルリンクが襲いかかった。そこからしばらく2頭は激しい追い比べを見せた。残り200m付近ではレイルリンクがやや前に出ていたが、残り100mではディープインパクトが一旦差し返しを見せるも力尽き、残り50mでは完全にレイルリンクに交わされ、残り20m付近では2頭の直後に付けていたプライドにも交わされ3着に終わった。
勝ったレイルリンクは道中は完全にディープインパクトの直後につけていた。ディープインパクトが早めに動いてもついて行き、追い出しも早めだったがディープインパクトの外に持ち出すと加速がつき、一気に並びかけ、競り落とした。
プライドは最後の直線まで最後方で我慢していた。直線は早くもバテてしまった馬を交わしたがディープインパクトとレイルリンクが壁になっており、残り300mでは5番手。残り200mでレイルリンクの外に持ち出すとそこから伸びを見せ、決勝線手前でディープインパクトを交わして2着に食い込んだ。
ハリケーンランは道中はディープインパクトの内に入る4番手で進んだ。しかし前が全く開かず馬の反応も悪かった。残り300m付近では完全に圏外で後ろから2番手まで下がってようやく外に持ち出し、そこから伸びを見せるも離された4着が一杯だった。
シロッコは前述のように2番手を進んだが、ディープインパクトに交わされるとその後はズルズル後退してしまい、最下位8着に沈んだ。(以上は競走当日の入線順位)
勝ったレイルリンクは近10年で8勝していた3歳馬の優位を見せつけた。フランス国外で生産された馬としては前年のハリケーンランに続く18頭目の凱旋門賞優勝。ステファン・パスキエ騎手は凱旋門賞初勝利。アンドレ・ファーブル調教師は前年に続く連覇で調教師最多の7勝目(2位は4勝で3人)。馬主のハーリド・ビン・アブドゥッラーは3勝目。
その後、同年10月19日に、レース後の理化学検査でディープインパクトの体内から禁止薬物イプラトロピウムが検出されたとフランスギャロが発表し、同馬は失格となった。詳細はディープインパクト禁止薬物検出事件を参照。
[編集] 競走結果
着順 | 馬名 | 勝ち時計 |
1着 | Rail Link (GB) | 2:26.30 |
2着 | Pride (FR) | クビ |
3着 | Hurricane Run (IRE) | 1/2 + 2 1/2 |
4着 | Best Name (GB) | 2 |
5着 | Irish Wells (FR) | 短クビ |
6着 | Sixties Icon (GB) | 4 |
7着 | Shirocco (GER) | 1 1/2 |
失格 | Deep Impact (JPN) | 3位入線 |
※主催者のフランスギャロは勝ち時計について当初は2:31.70としていたが、2:26.30に訂正した。