線型方程式
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線型方程式(せんけいほうていしき、linear equation)とは、線型性を持つ写像(関数・作用素)の等式で表される方程式のことである。
線型方程式においては、その線型性から解の重ね合わせが成り立つなどいくつものよい性質が成り立つ。線型方程式(特に多変数の一次代数方程式)の研究から行列などの手法が整備され、線型代数学という一分野が形成された。
線型代数学の整備により、多くの場合に線型方程式の係数を実数や複素数に限らず、四則演算が自由にできる(つまり体と呼ばれる代数的構造をもつ)集合からとったとして広く適用できる結果が知られている。
以下、特に断らない場合は係数をとる集合 K を(可換な)体とする。多くの場合 K は、実数全体の成す集合 R または複素数全体の成す集合 C のことと思って差し支えない。
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[編集] 一次方程式
n 元の一次(代数)方程式とは、Kn の元 a, K の元 b および Kn を動く不定元 x により、(a, x) + b = 0 の形で表すことができる等式のこと。ここで、(·, ·) は Kn における内積である。これは a = (a1, a2, ..., an), x = (x1, x2, ..., xn) とおくと、
と書いても同じことである("一次" 方程式というのは、"一次多項式" を 0 に等しいとおいて定義される方程式という意味である)。b = 0 のとき斉次または同次形であるという。
fa(x) = (a, x) とおいて得られる写像 fa: Kn → K は x に関して線型性を持つ。
参考:一次関数
n 元一次方程式を m 本連立させた方程式系を考えよう。このとき、各方程式が (ai, x) + bi = 0 (ai = (ai 1, ai 2, ..., ain), i = 1, 2, ..., m) で与えられているなら、線型代数学で取り扱われるように、m 行 n 列の行列(係数行列) A = (aij) を用いて、この方程式系を
- A x + b = 0
の形に整理することが出来る(ただし、b = (b1, b2, ..., bm)T: 縦ベクトル)。これも b = 0 のときには斉次の方程式系であるという。方程式の本数 m は行列 A の階数 rank A まで減らすことが出来る。また、m = rank A かつ m > n のとき、m - n 個の任意定数を導入する(あるいは m - n 個の変数を任意定数と見做す)ことで、議論を m = n のときに帰着することが出来る。
fA(x) = A x と置いて得られる写像 fA: Kn → Km は x に関して線型性を持つ。
[編集] 線型微分方程式
[編集] 高階単独型
x の関数 y の高階微分 diy/dxi および、可微分関数 ai(x) (1 ≤ i ≤ n), b(x) により
で表される微分方程式を単独高階型の線型微分方程式という。b = 0 であるとき斉次であるといい、
を元の方程式に属する斉次方程式という。
微分作用素 f(d /dx) を
で定めると、未知関数 y への作用 f(d /dx)y は y に関して線型性をもつ。
[編集] 一階連立型
各成分が変数 x の(適当な階数の)可微分関数である n 次元縦ベクトル y(x), m 次元縦ベクトル b(x) および m × n 行列 A(x) に対し、
で定義される微分方程式(系)を A(x) を係数行列とする一階連立型線型微分方程式などとよぶ。 b(x) = 0 (for all x) であるとき、斉次(または同次)であるといい、
を元の方程式に属する斉次方程式という。右辺の A(x)y は y に関して線型性を持つ。
高階単独型線型微分方程式は、変換
(i = 1, 2, ..., n) により一階連立型の微分方程式に変形できる。
[編集] 重ね合わせの原理
斉次方程式の持つ線型性から、X, Y がその方程式の解ならばその一次結合 αX + βY もやはりその方程式の解となる。このことを指して重ね合わせの原理が成り立つという。 斉次でない方程式も、一つの特殊解が見つかれば、ほかの解はその方程式に属する斉次方程式の解を加えることにより得られる。
したがって、線型方程式の解の全体は一つのベクトル空間(あるいはアフィン空間)をつくる。これを方程式の解空間という。
[編集] 超平面
0 でない n 変数の K 係数一次多項式 a1x1 + a2x2 + … + anxn (ai ∈ K) に対し、
つまり、一本の一次方程式の解空間として定義される Kn の n - 1 次の部分線型空間を、超平面と呼ぶ。