胎児
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胎児(たいじ)とは、生物学上は哺乳類の母体の中で胚の器官原基の分化が完了してから出産までの成長中の子を指す。我々ヒトも哺乳類であるため、胎児の扱いは生物学上の扱いだけではなく、医学的判断、法学的判断も必要となる。
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[編集] 生物学における胎児
胎生の動物において、母親の体内で成長途上にある胚を胎児とも言う。胎児は子宮の中で成長し、十分に成長して生まれる。胎児は母親との繋がりを持ち、母親から酸素と栄養分の供給を受け、老廃物と二酸化炭素の排出を母親に任せる。母親と胎児がこのやりとりをするために形成される器官が胎盤(たいばん)および臍帯(さいたい)である。生まれるときの視力は約0.3である。
[編集] 法学における胎児
[編集] 民法における胎児
民法においては、原則として権利能力をもつのは出生してからであり、まだ出生していない胎児の段階では権利能力はもたない(b:民法第3条の2)。しかし、将来権利能力者となることが予想されているのに権利取得の可能性を否定することは不公平であることから、民法は、例外的に胎児を生まれたものとみなし、これに権利能力を与えている。
例:
なお、生まれたものとみなすということの意味は、胎児が生存状態で生まれてきた時に、そこで生じた権利能力が、遡って問題の時点に生じたものとして扱うという意味であり、胎児が流産または死産によって出生されなかった場合にはその時点で権利はなかったものとされる。
[編集] 刑法における胎児
胎児を自然の分娩期に先立ち人為的に母体外に排出し、又は胎児を母体内で殺害する罪として堕胎罪がある(刑法第212条~第216条)。
- 刑法第212条
- 妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により堕胎したとき(1年以下の懲役)
- 同法第213条
- 女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた者(2年以下の懲役)
- それにより女子を死傷させた者(3月以上5年以下の懲役)
- 同法第214条
- 同法第215条
- 第1項 女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者(6月以上7年以下の懲役)
- 第2項 その未遂についても罰せられる。
- 同法第216条
- 前条の罪を犯し、それによって女子を死傷させた者(傷害の罪と比較して、重い刑により処断される)。
堕胎とは、胎児の生命・身体を犯すとともに、母体の健康をも犯すものである。もし、母体と関係なく胎児だけを殺害したとすれば、むしろそれは殺人罪に等しい。そこで、刑法においては、胎児が母体から一部露出した場合にこれを殺害した場合、堕胎罪ではなく殺人罪であるとされている。
[編集] 母体保護法における胎児
刑法第214条では、医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、3月以上5年以下の懲役に処せられるが、母体保護法第14条に規定されてる事由があるときは、人工妊娠中絶としての堕胎が許されることになっている。
- 母体保護法第14条
なお、母体保護法における人工妊娠中絶の対象要件は母体の生命・健康に限定され、先天的な異常など胎児に関するものは認められていない。
[編集] 死産の届出に関する規程(厚生労働省令)
妊娠満12週以降における死児(死亡した胎児)の出産を死産といい、人工妊娠中絶もこれに含まれる。死産の届出は原則として父母が7日以内に市町村長に届け出る義務を負う。死産の場合、医師又は助産師は死産証書又は死胎検案書を作成する義務がある。
[編集] 問題点
妊娠満12週未満の中絶胎児の廃棄については、特に法律的な規制はなく一般廃棄物として処理される場合が多い。中絶胎児であっても、中絶する以前は生命の宿っていたものであり、生命倫理の観点から、妊娠満12週未満の中絶胎児の取扱いについて検討がなされている。
また、先天的異常の胎児に対する堕胎手術は禁止されているが、母体保護法第14条1項1号の規定にある
妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるもの。
の条文より「先天的異常児の育成・扶養」=「家計の圧迫」=「経済的理由」と拡大解釈し、母体保護法に基づき合法な妊娠中絶手術が行われている現実も問題視すべきであろう。