遺贈
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遺贈(いぞう)とは、遺言により人(自然人、法人を問わない)に遺言者の財産を無償(法律上の無償の意。一定の負担を要求できるが対価性があってはならない)で譲ることである。民法第964条により認められる。
本来の相続人に対する遺贈も法律的には可能だが、この場合は相続とすることもでき(#不動産登記を参照)、相続税などの計算の際は相続より遺贈の方が不利となる。また、遺贈は単独行為である点で、契約である死因贈与と異なる。
目次 |
[編集] 民法における論点
[編集] 遺贈関係人
[編集] 受遺者
胎児は、遺贈については既に生まれたものとみなす(965条・886条)。つまり、受遺能力がある。また、受遺者には相続の場合と同様に欠格事由がないことも必要である(965条・891条)。
受遺者が遺贈の放棄または承認をせずに死亡したときは、その相続人は自己の相続権の範囲内で遺贈の承認または放棄をすることができるが、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはそれに従う(第988条)。
[編集] 遺贈義務者
遺贈を履行する義務は、原則として相続人が負う(第896条)。包括受遺者も遺贈を履行する義務を負う(990条・896条)。相続人のあることが明らかでない場合には相続財産の管理人が(957条1項)、遺言執行者がいるときはその者が遺贈を履行する義務を負う(1012条1項)。
不特定物を遺贈の目的とした場合、受遺者が第三者から追奪を受けたときは、遺贈義務者は売主と同じ担保責任を負う(998条1項)。また、目的物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は瑕疵のない物と代えなければならない(998条2項)。
[編集] 種類
[編集] 包括遺贈
遺産の全部、または一部を割合をもって示し対象とする場合である。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つ(990条)。例えば、包括遺贈の放棄は自己のために遺贈のあったことを知った日から3ヶ月以内にしなければならない(990条・915条1項)。
[編集] 特定遺贈
具体的な特定財産を対象とする場合である。遺贈の放棄は、遺贈者の死後いつでもできる(986条)。特定遺贈の目的物は、遺言者の死亡と同時に直接受遺者に移転するとした判例がある(大判大正5年11月8日民録22輯2078頁)。
[編集] 負担付遺贈
遺贈者が受遺者に対して、対価とは言えないほどの義務を負担するよう求める場合である。受遺者は遺贈の目的の価値を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行しなければならない(第1002条1項)。
受遺者が遺贈を放棄すれば、負担の利益を受けるべき者は自ら受遺者になれるが、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはそれに従う(1002条2項)。
負担付遺贈を受けた者が義務を履行しないときは、相続人または遺言執行者は相当の期間を定めて履行を催告でき、なお履行がないときは遺言の取消しを家庭裁判所に請求できる(1027条・1015条)。
[編集] 後継ぎ遺贈
「全財産を妻Xに遺贈する(または、相続させる)。ただし、子Yが18歳に達した時にはYが当該財産を受け継ぐこととする」といった、順次財産を受け継ぐ者を指定する形の遺贈を、後継ぎ遺贈という。後継ぎ遺贈について民法は何ら定めていないため、この形態の遺贈が認められるかどうかについて解釈が定まっていない。判例は認めている(最判昭和58年3月18日家月36巻3号143頁)が、否定説も有力である。また、仮に後継ぎ遺贈が認められるとしても、相続開始後に法的状態の不安定化および手続上の煩雑さといった弊害を生むことになる。
現在国会で審議中の新しい信託法が成立すると、後継ぎ遺贈型受益者連続信託が認められる。これにより、後継ぎ遺贈と同様の効果を得ることができる。ただし、この場合の相続税の課税関係については明らかになっていないため、注意が必要である。
[編集] 遺贈の不成立・失効
遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、遺贈は効力を生じない(994条1項)。停止条件付き遺贈の場合、受遺者が条件成就前に死亡したとき遺贈は効力を生じないが、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはそれに従う(994条2項)。
遺贈が効力を生じなかったり放棄により効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属するが、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはそれに従う(995条)。
[編集] 不動産登記
[編集] 登記に関する判例
遺贈により所有権が移転した場合、登記をしないと第三者に対抗できない(最判昭和39年3月6日民集18巻3号437頁)。一方、相続人の一部に対して特定の遺産を「相続させる」旨の遺言によって不動産を取得した者は、その権利を登記なくして第三者に対抗できる(最判平成14年6月10日判時1791号59頁)。
[編集] 遺言の記載と登記原因
- 原則
- 遺言書の文言に従い、登記原因を決定する。その分類は以下の通りである。
- 例外
- 相続人全員に対して「包括遺贈する」旨の遺言については、登記原因は「相続」とする(昭和38年11月20日民甲3119号電報回答)。また、相続人以外の者に対して「相続させる」旨の遺言については、相続人でない者が相続をすることはできないので、登記原因は「遺贈」となる(登記研究480-131頁)。
[編集] 登記申請情報(一部)
- 登記の目的(不動産登記令3条5号)
- 登記原因及びその日付(不動産登記令3条6号)
- 包括遺贈・特定遺贈のいずれであっても登記原因は遺贈である。
- 原因と日付を組み合わせて、「平成何年何月何日遺贈」と記載する。
- 登記申請人(不動産登記令3条1号)
- 包括遺贈の場合、民法上は受遺者は相続人と同一の権利義務を有するものの、登記手続上は登記権利者として相続人または遺言執行者との共同申請で行う(昭和33年4月28日民甲779号通達)。ただし、受遺者が遺言執行者として指定された場合は、登記権利者かつ登記義務者として事実上の単独申請で行う(大正9年5月4日民事1307号回答)。
- 添付情報(不動産登記規則34条1項6号、一部)
- 登記原因証明情報(不動産登記法61条・不動産登記令7条1項5号ロ)、登記義務者(遺言者)の登記識別情報(不動産登記法22条本文)又は登記済証、書面申請の場合には登記義務者(遺言者は存在しないので相続人又は遺言執行者)の印鑑証明書(不動産登記令16条2項・不動産登記規則48条1項5号及び同規則47条3号イ(1)、同令18条2項・同規則49条2項4号及び同規則48条1項5号並びに同規則47条3号イ(1))、登記権利者の住所証明情報(不動産登記令別表30項添付情報ロ)を添付する。法人が申請人となる場合は更に代表者資格証明情報(不動産登記令7条1項1号)も原則として添付しなければならない。
- 農地を特定遺贈した場合、農地法3条の許可書(不動産登記令7条1項5号ハ)を添付しなければならない(昭和43年3月2日民三170号回答)。包括遺贈の場合は添付する必要はない(農地法施行規則3条5号[1])
- 代理権限証明情報の添付
- 遺言執行者がいる場合には、その資格を証する情報を添付しなければならない(不動産登記令7条1項2号)。具体的には、遺言により遺言執行者が指定された場合は遺言書及び遺言者の死亡により遺贈の効力が発生したことを示す戸籍謄本・除籍謄本である(昭和59年1月10日民三150号回答)。家庭裁判所で遺言執行者を選任した場合は選任の審判書及び原則として遺言書(通常家庭裁判所の選任の審判書のみでは遺言執行者が当該申請に係る不動産につき遺言を執行する権限を有するかどうか明らかでないから)であり(昭和44年10月16日民甲2204号回答、登記研究265-60頁)、死亡の事実は家庭裁判所で判断するので戸籍謄本等は不要である(登記研究447-84頁)。
- 一般承継証明情報の添付
- 遺言執行者がいない場合には、申請する人物が遺言者の相続人であることを証する情報を添付しなければならない(不動産登記令7条1項5号イ)。具体的には、遺言者の死亡を証する戸籍謄本・除籍謄本及び相続人の戸籍謄本・抄本である。一方、遺言書の添付は不要である(登記研究213-70頁)。
- 登録免許税(不動産登記規則189条前段)
- 受遺者が相続人でない場合は不動産の価額の1,000分の20である(登録免許税法別表第1-1(2)ハ)。受遺者が相続人である場合は相続による所有権移転登記の場合(登録免許税法別表第1-1(2)イ)と同様に不動産の価額の1,000分の4であるとされたが、この税率の適用を受けるには申請書に受遺者が相続人であることを証する書面(戸籍謄本等)の添付が必要である(平成15年4月1日民二1032号通達第1-2)。なお、端数処理など算出方法の通則については不動産登記#登録免許税を参照。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注及び参照
[編集] 外部リンク
[編集] 参考文献
- 香川保一編著 『新不動産登記書式解説(一)』 テイハン、2006年、ISBN 978-4860960230
- 「訓令・通達・回答-4020」『登記研究』265号、帝国判例法規出版社(現テイハン)、1969年、58頁
- 「質疑・応答-4206」『登記研究』213号、帝国判例法規出版社(現テイハン)、1965年、70頁
- 「質疑応答-6538」『登記研究』447号、テイハン、1985年、84頁
- 「質疑応答-6909」『登記研究』480号、テイハン、1988年、131頁