血液型性格分類
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血液型性格分類(けつえきがたせいかくぶんるい)は、「ABO式」血液型が気質または性格と関連しているという考え方である。
これは、日本・韓国・中華人民共和国(中国)・中華民国(台湾)で流布されている。かつてフランスで提唱されたことがあったが、ほとんど普及しておらず、学術的な研究としては英米で若干の例があるのみである。科学的根拠が乏しいため、疑似科学の一つとされる。
本項の英語名がen:Japan_blood_type_theory_of_personalityとなっていることからも、西欧からは「日本の独特な考え方」と受け取られていることがわかる。
科学的根拠や理論が立証されていないにもかかわらず、特定の血液型と特定の性格の関係がしばしばテレビ番組で取り上げられることがあった。
しかし、発掘!あるある大事典における番組捏造事件以降、似非科学を事実であるかのように放送することに対する批判が強まり、最近では、このような内容を扱った番組は抑制される傾向にある[要出典]。
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[編集] 歴史
血液型と気質との関連に関する研究は、1916年に医師の原来復らによるものが最初とされているが、昭和初期になって、東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)教授であった教育学者古川竹二による一連の研究が広く注目を浴びた。現在も広く流布しているABO式血液型による性格判断の原型は、ここで作られたと言ってよい。
古川の最初の論文は、1927年に『心理学研究』誌上に「血液型による気質の研究」が発表され、その後に研究の集大成が1932年に『血液型と気質』として出版された。一般には、同書の内容が古川学説とされることが多い。
この学説で用いる主な手法は、ABO式血液型別の質問項目(自省表)をそれぞれ10項目程度ずつ作成し、質問紙法により血液型との一致率を測定するものである。古川自身によると、自省表は80%以上の一致率があるものとされていた。これとは別に、職業別にABO式血液型分布を調査し、職業特性と比較することも行われた。
古川学説は、当時金沢医科大学教授であった古畑種基らに支持され、心理学だけではなく、医学、教育など多くの分野で注目を集めた。このため、数多くの追試が行われたが、例外が多過ぎるため古畑も懐疑的になり、当時の学会では否定される結果となった。
しかし、当時は統計的仮説検定や性格検査などの手法が未整備であったため、それらの否定的な結論を無批判に受け入れることは必ずしも適切ではない、という見解も存在する。
大日本帝国陸軍でも上記の影響を受けて、血液型から将兵の気質・能力を分類し、部隊編成の際に最も適した兵科・任務に就けるようにとの考えから、各部隊から将兵の調書を集め研究が行われたが、期待した結果は全く得られず、また戦時大量動員の際には一々検査・分類するのは不可能に近いため、採用されずに終わった。
第二次大戦後は特に取り上げられることがなかった「ABO式血液型と性格の因果関係」であったが、1971年、能見正比古の『血液型でわかる相性』[1]以下一連の著作によって広く知られるようになる(能見の姉は古川の教え子であった)。能見の著作には著名人のABO式血液型リストがしばしば掲載されており、それが主張に説得力を持たせることになったものと考えられる。能見の死後は子の能見俊賢が父親の研究を元に多くの著書を記し、マスコミにもしばしば登場する第一人者的な存在となっている。平成以降は竹内久美子が著書『小さな悪魔の背中の窪み』[2]などの中で生物学的な正当性を主張した。しかし、一方では竹内の科学的態度に対しては批判の声もある。
ただ、科学的な根拠に乏しいにも関わらず、ある程度性格を知っている相手のABO式血液型であれば、25%をはるかに超える確率で当てることができる人が存在することは知られている。しかしA型とO型が日本人全体の約70%を占めるので不思議な話ではないとも考えられる(A・O・B・ABの日本人総人口に占める割合はそれぞれ4:3:2:1)。極端な話、毎回A型と言えば約40%の確率で正解するからである。また、ABO式血液型性格分類が流布されていることで、各人の行動様式に告げられた性格が織り込まれてしまっている影響が指摘されている。坂元章らは、これを血液型ステレオタイプによる予言の自己成就現象(ピグマリオン効果参照)と名付け、1992年に自己判断による性格はABO式血液型性格分類に一致する、とする研究結果を発表している。
例えば、生まれたときからA型は真面目だからと何度も繰り返し言われると、本人も自分が真面目だと思い込み、そのように行動してしまうことがないとは言えない。もしそうであれば、やはりA型は真面目だとする根拠にしてしまう因果の逆転が起こる、というものである。
血液型を常日頃から意識している人などおそらくごく少数で、その程度で性格が変わるほどの影響が出るのかという疑問もあるが、日本人の多くが自らの血液型と血液型性格分類(とその分類における各血液型の一般的な性格分類)の存在を知っている現状では、上記の自己成就現象により影響が出る可能性は考えられる。
血液型性格分類についての論争は、1970年代から現在まで続いており、従来は心理学や医学的な見地からの反対論がほとんどであったが、最近は大脳生理学や遺伝子工学的な見地による賛成論もある。一般の話題になることから、マスメディアにもたびたび取り上げられ、賛成、反対それぞれの立場から何度も実験が行われている。現在、まだ学術的には両者に関係ありという明確な根拠は示されておらず、「現状では、関連を認めることはできない」というのが穏当な結論であるが、それ以前の問題として、能見の説が学術の体を為していないという批判も存在する。また、特定の血液型に偏った人口構成になっている各国と比べて、四種類の血液型いずれもが一定数の割合を占めているアジア諸国の方が多様な性格の人で構成されているなどというデータも存在せず、まだまだ血液型と気質の関連性を証明することはできていない。
また、心理学的見地からも「血液型と性格に因果関係は科学的に立証できない」ということが常識とされている。
差別またはいじめの原因となることや、擬似科学として紹介されることによって、現在は血液型性格分類について反対もしくは慎重派が、以前に比べ増加している傾向にあるが、しばしばゲームや漫画などでは血液型を言及することが多く、旧世代の悪い価値観が未だに蔓延っている。
[編集] 血液型性格分類の問題点
数多くある遺伝形質の中で血液型が、それもABO型のみが性格または気質に関係するのか科学的に解明されていない。血液型の分類にはABO型以外にもRh+-型やMN型など様々な分け方がある。また、ABO型の分類は赤血球に関するものだが、白血球についてはヒト白血球型抗原 (HLA)型と呼ばれる種類があり、その組み合わせは数万種類あると言われている。また骨髄移植によって血液がドナーのものに変わった時にも、性格または気質が変わるのかといった問題もある。
さらに、4類型するための性格についての基準が何かなどに関しても極めて問題が多い。相手の血液型に対して、事前に情報を得て相手を知った錯覚に陥り、健全な人間関係を構築する上で障害となる場合もある。
現在は、血液型性格分類の肯定者は、「因果関係が無いとも立証できない」(だから間違いではない)という意見が少なからず存在しており、血液型性格分類を扱うテレビ番組等では、この類の意見を論拠に番組を作っている。実際、BPOへの苦情に対し、一部のテレビ局はそのような趣旨の回答をしている(外部リンク参照)。しかしこれは、科学的には全く無意味な主張である。 検証と反証の非対称性、悪魔の証明を参考されたし。
なお、脳にはABO血液型物質は存在しないが、弱いながら抗原抗体反応は起こるため、なんらかの類似物質が脳に存在する可能性は否定できないという説も存在するが、推測の域をでないものである。
一方で、白血球のHLA型により罹患しやすい疾病はあることが知られており、研究はまだこれからであるが、ABO型においてもそれぞれ性格よりも「体質」や罹患しやすい「病気」に影響があるとの研究もある。前出の「血液型別ダイエット」もこの一環で提唱されたものであり、決して性格の違いを問うものではない。この考え方が正しいとすれば血液型はまず体質に影響を及ぼし、次いで体質が性格や人格形成に影響を及ぼすものであると考えられなくはない。しかし、既に心理学の分野において、血液型と性格との関連について、現在の日本におけるようなステレオタイプ的な相関関係は確認されていないという事実も考慮すべきである。また、同じ血液型の人でも無論、様々な体質に分かれるものであり、仮に「筋肉質な人にA型が多い」という統計学的な「傾向」を発見することはできても、「A型以外の人は筋肉がつきにくい」と結論づけることには無理がある。この説に立っても血液型≒性格という結びつけは非常に困難である。
また、血液型性格分類の問題点を、科学的な成否だけではなく、その差別的な側面と捉える主張もある(後述)。 たとえば過去に血液型で性格を否定された経験のある人が、否定に回らず、後に何か社会に不満があると血液型に問題点を摩り替えるようになる傾向がある。 また自分に都合の良い情報だけを集め編集して紹介したり、捏造された情報を紹介している者も存在するが、分野を問わず血液型に拘っている人々はいる。
この問題はネット上でも浮き彫りになりつつある。地域や人種別の血液型の割合をさりげなく変えたり、特定の血液型が多いことを理由として特定の地域を評価したり貶したりする人々が存在するのも事実である。
[編集] 血液型性格分類と人権
ユネスコの総会で採択された「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」の第2条には
「何人もその遺伝的形質によらず、その人自身の尊厳と権利によって、尊重されるべき権利を有する。その尊厳により、個人はその遺伝的形質によってのみ判断されてはならず、またその人の独自性と多様性とが尊重されなければならない。」
とある。
20世紀初頭ドイツにおいて、A型がB型より優れているという理論が広く支持されたことがある。これはヨーロッパ系民族にA型の人が多く、アジア系民族にB型の人が多いという事実に着目して、ヨーロッパ人によるアジア人支配を正当化するために用いられた理論である。また、ユダヤ人の血液型は、地域や種族問わずB型は2割弱ほどしか存在しないが、一部の血液型論者はB型が多数派を占めるという捏造した情報を提示する場合もある。
1990年11月21日の朝日新聞11面には、「三菱電機発案者の伊藤円冗通信機器事業部長(当時)が血液型をもとにAB型のプロジェクト・チームを結成しており、ヒット商品の開発を目指している」と、真面目かつ好意的に報道されている。しかし、このプロジェクトは結局、常設されることなく終わったようである。
しかしながら、就職や配属をABO式血液型で判断している会社、子供の結婚相手は特定の血液型でなければならないという親、血液型別に色の違う帽子をかぶらせている保育園なども一部に散見され、遺伝的形質によってのみ個人を判断し差別する例が見られることが問題だとされる。
なお、上記の保育園については、バラエティ番組や能見親子の著書により取り上げられていることもあり、あたかも日頃から常に血液型別の保育を行っているような印象があるが、実際はそのようなことはない。年に数回の縦割り交流実施にあたり便宜的に血液型を用いているにすぎず、特に血液型別の保育を行っていることはない。埼玉県内にあるこの保育園は社会福祉法人により運営されている普通の認可保育園でもあり、バラエティ番組等で印象付けられているような血液型別の保育実施などはありえない。
田崎晴明・学習院大教授(統計物理学)の提案により、血液型性格分類など「科学的に見える非科学」にどう対応すべきか考えるシンポジウムが日本物理学会(佐藤勝彦会長)によって愛媛大学(松山市)で開かれている。このように、血液型性格分類を「なぜ信じてしまうのか」という社会心理学的考察も近年では主流になりつつある。
[編集] 他国での事情
この理論が流布している国では個人の自己紹介や有名人のプロフィールなどにABO式血液型が含まれることが多いが、それ以外の国では、人に血液型を尋ねるといった風習がないので、血液型を尋ねると「あなたは医者か?」、「献血でもするのか?」といった発言が返ってくる。場合によっては警戒されたりすることもあり、決して好ましい態度ではないとされる。
他国へ普及しない原因として国によっては血液型が偏っていることもあげられる。日本では全てのABO式血液型が約10~40%の比率でばらけているが、例えば欧米では、A型の人とO型の人が総人口の9割近くを占め、B型の人とAB型の人の割合が極端に少ない国もある。また、混血の少ないアメリカ先住民族集団には、ほぼ全ての構成員がO型だという集団もある。このような環境において、所属人口割合が偏った属性であるABO式血液型をもって、現実世界に存在する多種多様な性格を判断するという発想が生じにくい。一方、日本をはじめとする東アジアと同様に各ABO式血液型の人口割合が比較的平均的なその他のアジアで普及しない原因としては、そもそもその地域の人々は、自分の血液型を知る機会が少ないという理由が挙げられる。
ピーター・ダダモ(自然療法医)による血液型別ダイエット本「EAT RIGHT 4 YOUR TYPE」[3]は血液型分類に基づくダイエット法(学術的な検証は行われておらず医学的根拠は無いと見られている)を紹介し、米国でベストセラーになるなど、一時的な流行としてABO式血液型による分類が話題になることはあるが、基本的に血液型を問題にすることはなく、血液型で性格を判断しようというものとは別物である。
このように海外では「血液型性格分類」は普及していないが、一部のサイトでは曖昧な表現で海外でも流行っていると思わせぶりの表現をする。これで血液型が世界的なのだと勘違いしてしまう日本人もいるが、現実には全く流行していない。
[編集] 血液型性格分類が題材にされた例
[編集] フィクション
韓国では2005年、映画「B型の彼氏」が公開された。日本以上に血液型による過熱があるとの声が多い。
松岡圭祐の小説「ブラッドタイプ」は血液型性格分類のブームが過熱しすぎた日本を描いていて、白血病の女性が骨髄移植により血液型がB型に変わるのを嫌い(骨髄移植は白血球抗原 (HLA) 型の一致が必要とされるため、赤血球の型であるABO式の血液型より優先される)、輸血を拒否し生命の危機に陥るなど、迷信に基づく騒動が頻出、臨床心理士らがその非科学性をどう証明し混乱を鎮めるかという内容。
[編集] その他
2002年、大学入試センター試験の「現代社会」の設問において、下記の大村政男による血液型性格分類についての調査結果が資料問題として使われたことがある。[1](バーナム効果を示す調査)。
[編集] 参考文献
- 村上 宣寛『「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た』ISBN 4822244466
- 詫摩武俊&佐藤達哉編 『現代のエスプリ 血液型と性格―その史的展開と現在の問題点』(海外の学術文献リスト他)ISBN 4784353240
- 白佐俊憲&井口拓自 『血液型性格研究入門―血液型と性格は関係ないと言えるか』
- 前川輝光 『血液型人間学―運命との対話』 ISBN 4879841951
- 大村政男 『血液型と性格』 ISBN 4571240341
- 同名書 (ISBN 457124021X) の改訂版
- 松田薫 『「血液型と性格」の社会史―血液型人類学の起源と展開』 ISBN 430924145X
- 同名書 (ISBN 4309241247) の増補改訂版
- 山崎賢治&坂元章『血液型ステレオタイプによる自己成就現象~全国調査の時系列分析~』(現在の心理学者では唯一の肯定的な結果)
- 日本社会心理学会第33回大会発表論文集
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 血液型と気質の関連性の否定を実証した論文(数多に存在する否定論の一つ)
- 上記の論文を発表した研究者のサイト
- BPO/放送倫理・番組向上機構に寄せられた意見
- 遺伝学からみた血液型性格判断
- 血液型-性格関連説について
- 血液型性格判断に対する反論
- BLOOD FACTORY
- 進化論と創造論~科学と疑似科学の違い~
- 血液型性格判断資料集
- 能見正比古「血液型」シリーズを推計学で検証すれば?(現在は消えているページのキャッシュ)
- 血液型性格判断リンク集
- オープンディレクトリー:科学: オルタナティブ科学: 血液型性格判断
- 血液型性格判断資料集
- 血液型性格判断の謎
- 血液型性格判断をやめよう(広島修道大学人文学部助教授 中西大輔氏のページ。血液型性格判断の持つ問題点や差別性が心理学者の立場から詳説されている)
- NPO 血液型人間科学研究センター
- 「ブラッドタイプ」(「血液型で性格が変わらない」ことを証明するストーリーの小説)
- 究極の血液型心理検査(じつは判断結果はランダム表示されるだけのものだが、常時9割前後の人々が「当たっている」と回答している。バーナム効果実証サイト)
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