電話交換機
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電話交換機(でんわこうかんき)とは、電話回線を相互接続し電話網を構成するための交換機である。2000年代に入り、VoIPへの置き換えが開始されたため、日本ではNTTなど電気通信事業者(キャリヤ)向けの電話交換機はほとんど製造されていない。事務所や工場などの内線用(自営設備)の構内交換機は現在も製造されている。
手動交換機からクロスバー交換機へ、さらにデジタル交換機に至るまでの間、交換機は段階的に、かつ大幅に小型化された。そして、従来交換機が陣取っていた局舎内のスペースは空きスペースとなり、現在はコロケーション(co-location=共同の設置場所)スペースとして、ADSL等の他社通信事業者などに貸し出されている。
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[編集] 交換機間の情報伝送方式
電話番号・輻輳処理・料金計算などのための交換機間の情報伝送方式には、次のようなものがある。
[編集] 共通チャネル形信号方式
通話チャネルと同じ伝送路に多重化された別のチャネルで制御信号を送受信するものである。ISDNのDチャネルを用いる場合、「Dチャネル共通線信号方式」と呼ばれる。
遠隔多重加入者線伝送装置(Remote Subscriber Line Terminating Module)・内線電話交換機と加入者交換機との間に用いられている。
[編集] 特徴
- 同じ伝送路を用いるため低コスト化が可能である。
- 制御チャネルが多数の通話チャネルで共用できる。
[編集] 共通線信号方式
制御信号を、通話路とは物理的に別の伝送路で、送受信するものである。事業用のデジタル交換機・電子交換機相互間で用いられている。
[編集] 特徴
- 制御線が多数の通話路で共用できる。
- 個別線信号方式と比較して多くの情報のやり取りができ、多機能化が可能である。
- 物理的に別の伝送路を用いるため管理が煩雑である。
- 通話路の断絶時でも接続操作が行われて課金される可能性もある。
[編集] 個別線信号方式
通話路と同じ伝送路で制御信号を送受信するものである。多周波数(Multi Frequency)信号が事業用クロスバー交換機相互間に、DTMF・モデムを用いるものが内線電話交換機と加入者交換機との間に用いられていた。
[編集] 特徴
- 共通線信号方式と比較して単純な情報のやり取りしかできない。
- 物理的に同じ伝送路を用いるため管理が単純である。
- 通話路の断絶時は接続操作が行われない。
- 音声信号を用いるため交換機などの不正操作が行われる場合がある。
[編集] デジタル交換機
デジタル交換機は、情報をデジタル信号で中継交換するものである。ISDN網の構築に用いられる。
ハードウエアの機能が次のように分類される。
[編集] 中央処理
ソフトウェアのみで機能の追加を行うことの出来る蓄積プログラム方式である。各機能を処理するため、優先順位つきの時分割多重化処理が行われている。
[編集] 保守運用
自動故障検知・予備系切替えが行われる。遠隔保守・統計機能などのオペレータ向けヒューマンマシンインターフェースも充実している。
[編集] 信号処理
通話路の監視・信号の処理、呼び出し音・話中音などの音声信号の発生をデジタル回路で行っている。
[編集] 通話路
通話路制御方式として時分割(Time Division)が用いられる。伝送路をハイウエイ(High Way)と呼び、交換操作に時間スイッチと空間スイッチとが用いられる。
- 時間スイッチ(Time Switch) : 時分割多重化された信号を一時的に半導体メモリに蓄え、時間的位置を入れ替えることで交換操作を行うもの。
- 空間スイッチ(Space Switch) : 入力された信号を時間位置ごとに別の出力回線に振り分けるもの。
通話路スイッチを多段構成する場合は、多重化されるチャネル数が増大するにつれて網の使用能率が上昇するTSTの構成が用いられる。
[編集] 特徴
- 完全にデジタル化されているため伝送・交換による音質などの低下が少ない。
- 集積回路化されているため信頼性が高い。
- RSBM・RTを用いた時分割多重化による集線で、伝送路の有効利用が可能である。
- 通話路スイッチから大電力を供給できないため、各加入者線に個別にBORSCHT機能を持たせている。
[編集] 交換機形式
D60形 ,改D60形、D70形,改D70 DMS-10形など
[編集] 電子交換機
電子交換機は、制御回路にマイクロプロセッサ等の半導体素子を利用した、情報をアナログ信号で中継交換するものである。
[編集] 中央処理
蓄積プログラム制御されている。ソフトウェアのみで機能の追加を行うことが出来る。
[編集] 入出力
通話路の監視・信号の処理、呼び出し音・話中音などの音声信号の発生を、加入者線間で共用されているトランクと呼ばれるアナログ回路で共通制御している。また、BORSCHT機能を加入者線間で共用している。
[編集] 通話路
通話路制御方式として空間分割(Space Division)を用い、通話路スイッチを多段構成して多くの回線を接続している。また、通話路スイッチとして小型のリレーである多接点封止形スイッチ(Sealed Multi-Contact Matrix)を用いている。
[編集] 交換機形式
D10形(大規模局用) D20形・D30形(中小規模局用)など
[編集] クロスバー交換機
クロスバー(NTT内部表記は「クロスバ」)交換機は、機械式継電器を利用した、ダイヤルパルス・DTMFなどの電話番号情報を一時的に記憶し通話・課金制御を行う、情報をアナログ信号で中継交換するものである。
[編集] 制御方式
布線論理方式である。共通制御回路で電話番号などの制御情報を一時的に記憶し通話路制御などを行っている。
[編集] 特徴
- 伝送路の有効利用のための制御が可能である。
- 制御回路の配線を変更することで、付加機能の変更が可能である。
[編集] 通話路
通話路としてクロスバースイッチ(腕木式)が用いられる。
[編集] 交換機形式
C400形、C460形など
[編集] 開発者
加藤 善男 他
[編集] ステップ・バイ・ステップ(SxS)交換機
ステップ・バイ・ステップ交換機は、発信電話機のダイヤルパルスによる直接制御で、電動機で駆動されるセレクターが回転上昇しながら、順次二次、三次セレクターへと接続していき、特定の相手先電話に接続する仕組みの電話交換機。このSxS交換機に対応した電話機は、10pps(Pulse per second)の回転ダイヤル式電話機(3号・4号・650-A1など)であり、クロスバー機以降の20ppsには対応していない。当然、クロスバー機以降の機能であるプッシュ回線機能は備えていない。
日本では1926年から使用され始め、電話加入区域内通話のダイヤル即時自動化に貢献した。以下のような欠点のため、1950年代以降、クロスバー交換機に置き換えられた。
- 中継回線選択機能が無くスター形着信タンデム網構成となり中継回線の利用効率が悪い。
- 比較的大型の部品を多数使用するため回線あたりの設置面積が大きく局舎の収容能力が逼迫する。
- 機械駆動部分が多く、接続操作に時間がかかり、保守の工数が大きい。
[編集] 交換機形式
- A形
- H形
[編集] 手動交換機
手動交換機は、発呼者の要求に従って交換手が通話路・課金制御を行うものである。交換台とも呼ばれ、交換手が所定の方法で電話線のジャックを接続する。
- 単座席 : 1人の交換手が取り扱う小規模のもの。
- 単式複座席 : 回線を区分して収容した交換台を複数並べたもの。他の交換台に収容された回線との接続は複数の交換手が共同で取り扱うため効率が悪い。
- 複式複座席 : 1つの回線を複数の交換台に複式で収容し、交換台間の共同操作の確率を低くしたもの。
通話トラフィックの増大により交換手の負担が過重となり、自動交換機の開発へと進んだ。なお、大企業等の内線電話の交換手は、電話局の交換手より長く残存した。
[編集] 使用目的による分類
- 構内専用交換機(PAX : Private Automatic eXchange) : 公衆交換回線に接続されず専用線や内線電話網のみに接続されるもの。
- 内線交換機 (PBX : Private automatic Branch eXchange) : 内線電話網・専用回線と公衆回線とを相互に接続するもの。
- 加入者交換機 : 加入者線が直接接続されているもの。
- 中継交換機 : 交換機と交換機とを接続するもの。