非コードRNA
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非コードRNA(non-coding RNA、ncRNA)はタンパク質へ翻訳されずに機能するRNAの総称であり、非翻訳性RNA(non-translatable RNA)ともいう。ncRNAが転写されるDNA配列はRNA遺伝子あるいはncRNA遺伝子とも呼ばれる。 ncRNAはしばしば機能性RNA(functional RNA)と言い表されることがあるが、一部のアンチセンスRNAでみられるように、転写産物であるRNA分子それ自体には生物学的な機能がなく、その遺伝子座で転写が起こることが重要である場合や、そもそもncRNA遺伝子そのものが生体にとって必要でない場合もみられるため、厳密にはすべてのncRNAが機能性RNAであるわけではない。 最も有名で量も多いncRNAは転移RNA(tRNA)とリボソームRNA(rRNA)であり、翻訳過程で機能する。しかし1990年代後期から新しいncRNAが多く見出され、ncRNAは以前考えられたより重要な役割を有すると考えられるようになった。
2005年、理化学研究所を中心とする国際研究グループはマウスの細胞内のトランスクリプトーム分析を行い、トランスクリプトームで合成される44,147種類のRNA中、53%に相当する23,218種類が蛋白質合成に関与しない非コードRNAである可能性を指摘している。
[編集] ncRNAのタイプ
[編集] 転移RNA(transfer RNA、tRNA)
tRNAは翻訳過程で伸長中のポリペプチド鎖に特定のアミノ酸を移すRNAである。
[編集] リボソームRNA(ribosomal RNA、rRNA)
rRNAはリボソームの主要な成分であり、普通の細胞にあるRNAの中では圧倒的に多い(約95%)。
[編集] mRNA様ncRNA(mRNA-like non-coding RNA)
poly(A)鎖を持ち、しばしばスプライシングを受ける高分子量(数百塩基〜)の非コードRNA分子の総称。ヒトおよびマウスのトランスクリプトーム解析により、哺乳類のpoly(A)+ RNAの約半分が非コードRNAである可能性が指摘されているが、これらはmRNA様ncRNAに分類される。哺乳類の遺伝子量補償に重要な役割を果たすXist RNAや、同じくショウジョウバエの遺伝子量補償に関与するroX RNAなどが代表的な例として知られている。また、makorin-p1 RNAのように、偽遺伝子から転写されたmRNAによく似た構造のRNAが、元になった遺伝子の発現調節に関与する例も報告されている。しかしながら、これらの例外をのぞき、ほとんどのものは機能がわかっておらず、実際にRNA分子として機能しているかどうかを含め、不明な点が多く残されている。
[編集] small nuclear RNA(snRNA、核内低分子RNA)
snRNAは真核生物の核に見られる小型RNAの一群であって、RNAスプライシング(hnRNAからイントロンを除去する)や、テロメアの維持など、様々な重要な過程に関わっている。必ず特異的なタンパク質と会合しており、これらの複合体はsnRNP(small nuclear ribonucleoprotein)と呼ばれる。
[編集] small nucleolar RNA(snoRNA、核小体低分子RNA)
snoRNAはrRNAや他のRNAの化学的修飾(メチル化など)に関与する一群の低分子RNAである。snoRNAはタンパク質と複合体(snoRNP)を形成し、核内の核小体に局在する。snoRNAがターゲットとなるRNAと相補的に結合し、タンパク質が反応を触媒する。
[編集] ステロイドホルモンRNAアクチベーター(steroid hormone RNA activator、SRA)
ステロイドホルモンは細胞内にある受容体と結合し、この複合体が核内で特定の遺伝子のDNA配列に結合して転写を制御する。この制御にはアクチベーターと総称される他のタンパク質などがさらに結合して転写複合体を形成することが必要であるが、これらアクチベーターの1種としてRNAが知られておりSRAと呼ばれる。
[編集] microRNA(miRNA、マイクロRNA)
miRNAは特定の他の遺伝子のmRNAに対する相補的配列を有し、その遺伝子の発現を抑制する。
[編集] gRNA
gRNA(guide RNA)はRNA編集に働くRNAである。これまでRNA編集はトリパノソーマなどのキネトプラスチド(ミトコンドリア)などで見つかっており、これはmRNA上で数塩基のウラシル(U)が挿入または除去されるものである。gRNAはeditosome(編集装置)の一部をなし、mRNAの対応する配列に相補的に結合する配列を含み、mRNA編集をガイドする。
なお"guide RNA"という用語は相補的結合によってRNA・タンパク質複合体をガイドするRNAという意味で広く用いられることもある。
[編集] signal recognition particle RNA(SRP RNA)
SRP(signal recognition particle)は細胞質にあるRNA-タンパク質複合体で、細胞外に分泌されるタンパク質のシグナル配列を認識する。真核生物のSRPにおけるRNA成分は4.5S RNAと呼ばれる。
[編集] pRNA
φ-29(DNA型バクテリオファージの1種)は、約120塩基の同じRNAからなる6量体を動力要素(エネルギー源はATP)とするDNAパッケージング装置を持っている。このようなものが一般的かどうかはまだ明らかでない。
[編集] mRNAの非翻訳領域
mRNAの翻訳されない領域には部分構造として多くのncRNAが存在する。これらは他のncRNAと異なりmRNA上でシスに(つまり連結した配列上で)機能する制御配列(cis-regulatory RNA)である。たとえば特定の物質を直接結合することで転写終結や翻訳を制御する配列“リボスイッチ”や、翻訳終止の代わりにセレノシステイン挿入を指示する配列“SECIS(セレノシステイン挿入配列)”がある。