音名
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音名(おんめい)とは、音楽において用いられる音の高さの呼び名である。
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[編集] 西洋音楽における音名
西洋音楽では、各オクターブの楽譜上の音の高さに対して、音名が与えられる。従って、階名に比べ、より絶対的な音の高さを示すということができる。楽譜上、オクターブの中には音が7つあるから、それら7つの音にそれぞれ固有の名前が与えられる。この7つは上下のオクターブで繰り返されるから、オクターブの関係にある音同士は同じ音名を持つ。また、♯や♭のつく音には、♯や♭を示す語が付け加えられる。
[編集] 言語ごとの音名
音名の付け方は言語によって異なる。
- 英語では音名にAからGまでのアルファベットを下から上に順に与えた。ただし、現在では、Aをオクターブの開始音とせず、Cを開始音として、順次上に、D、E、F、G、A、Bと呼んでいる。ドイツ語ではBの代わりにHを用いる。日本語では、英語のアルファベットのかわりにイロハを用い、Cに相当するハから、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、イ、ロとする。
- イタリア語やフランス語では、『聖ヨハネの夕べの祈り』の歌詞に基づいて、下から上にUt、Re、Mi、Fa、Sol、Laが決められ、後にイタリア語ではUtがDoになり、LaのあとにSiが加えられた。UtはCに相当する。
- ロシア語では、フランス語に準ずる。
- ♯や♭は、英語やイタリア語、フランス語では、それぞれの呼び名を後に付け加える。日本語では嬰、変などを前に置く。ドイツ語は、-isや-esを語尾として加えるのが原則であるが、♭系は不規則であるため、別表を設けた。
日本では、クラシック音楽ではドイツ語、ポピュラー音楽では英語、教育やフォーマルな文書では日本語が多い。イタリア音名は階名に用いられるため音名としては避けられるが、実際にはわかりやすいため、SolをSoとしたものが初心者向けでは多く用いられる。フランス音名は日本ではほとんど用いられない。
ドイツ語
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C | D | E | F | G | A | H |
---|---|---|---|---|---|---|---|
♯ | |||||||
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|||||||
♭ | |||||||
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[編集] オクターブ
オクターブを区別する必要があるときには、数字などを用いて区別する。あまり頻繁に用いられるものでないせいか、いくつかのシステムがあり一定しない。現在、電子楽器等をはじめ最も一般的に用いられているのは、英語の音名と組み合わせて、中央オクターブ(中央ハから半音11個上のロまで)を4とするものである。中央ハをC4、そこから半音11個上のロをB4とする。数字が大きいほど高いオクターブを示すので、B4を半音上げるとC5、C4を半音下げるとB3となる。日本では、日本語の音名と組み合わせて、中央オクターブを「一点」とする言い方も伝統的に用いられている。この場合、その1オクターブ上は「二点」、1オクターブ下は「片仮名」、2オクターブ下は「平仮名」、3オクターブ下は「下一点」となる。また、ドイツ語の音名と組み合わせて、中央オクターブを1とする言い方もある。この場合、その1オクターブ上は2、1オクターブ下は「小文字」、2オクターブ下は「大文字」、3オクターブ下は1となる。詳しくは音名・階名表記を参照のこと。
[編集] 音名と振動数
中央オクターブに含まれるA4を音波の振動数で440Hzを基準として440Hzから445Hzくらいに合わせる。ただし、古くは415Hzくらいに合わせられていたこともあると言われる。このことから分かるように、楽譜、音名と音波の振動数との対応はある程度自由に変更が可能である。この点において音名は音高の間の相対的な関係を示すシステムである。
[編集] 中国・日本の伝統音楽の音名
中国や日本では、音名のことを律名という。
- 中国では、オクターブ内に半音ごとに置かれた12の音にそれぞれ名前が付いており、十二律と呼ばれる。基準音を黄鐘(こうしょう)として、そこから順に半音ずつ上昇して、大呂(たいりょ)・太簇(たいそく)・夾鐘(きょうしょう)・姑洗(こせん)・仲呂(ちゅうりょ)・莚賓(すいひん)・林鐘(りんしょう)・夷則(いそく)・南呂(なんりょ)・無射(ぶえき)・応鐘(おうしょう)と呼ぶ。基準音である黄鐘の音高(ピッチ)は時代によって異なり、A=440Hzとしたとき、周・漢代にはG、唐代の雅楽ではC、俗楽ではD、明代にはGと変遷しており、現代ではDに相当している。
黄鐘 | 大呂 | 太簇 | 夾鐘 | 姑洗 | 仲呂 | 莚賓 | 林鐘 | 夷則 | 南呂 | 無射 | 応鐘 |
D | D# | E | E# | F# | F## | G# | A | A# | B | B# | C# |
- 日本では、A=440Hzとしたときの、ほぼDに相当するものを、雅楽では壱越(いちこつ)と呼び、そこから順に半音ずつ上昇して、断金(たんきん)・平調(ひょうじょう)・勝絶(しょうせつ)・下無(しもむ)・雙調(そうじょう)・鳧鐘(ふしょう)・黄鐘(おうしき)・鸞鏡(らんけい)・盤渉(ばんしき)・神仙(しんせん)・上無(かみむ)と呼ぶ。俗楽では一本 (A) ~十二本 (G#) と呼ぶ。
壱越 | 断金 | 平調 | 勝絶 | 下無 | 双調 | 鳧鐘 | 黄鐘 | 鸞鏡 | 盤渉 | 神仙 | 上無 |
六本 | 七本 | 八本 | 九本 | 十本 | 十一本 | 十二本 | 一本 | 二本 | 三本 | 四本 | 五本 |
D | D# | E | E# | F# | F## | G# | A | A# | B | B# | C# |
また、それぞれの楽器によって、その楽器の演奏法などに即した独自の音名がある。
[編集] ノートナンバー
音名ではないが、電子楽器の事実上の標準であるMIDIでは、中央ハを60 (C4) として低い音から半音ごとに0 (C-1) から127 (G9) までの128個の数字で音の高さを表し、これをノートナンバーと呼んでいる。128というと少なく感じるかも知れないが、一般的なピアノの鍵盤が88であることを考えると十分である。ちなみに、88鍵のピアノの最低音A0は21、最高音C8は108になる。
[編集] 教育音楽における音名
教育音楽において1970年ごろ、西塚智光 (1939-) は、1つの音には1つの音名があるべきとして、イタリア式音名を元に次のような音名を提唱した。これにより、異名同音がなくなる。小学生がメロディをドレミで歌うときや、リコーダー等の楽器で演奏するときに、別の音なのに同じ音名を用いて歌い間違えたり指使いを間違えたりするのを避ける効果がある。西塚式の音名は、階名としても用いられる。
鍵盤 | 英語式 | 独語式 | 西塚式 |
---|---|---|---|
C | C | ド (Do) | |
C#/Db | Cis/Des | デ (De) | |
D | D | レ (Re) | |
D#/Eb | Dis/Es | リ (Ri) | |
E | E | ミ (Mi) | |
F | F | ファ (Fa) | |
F#/Gb | Fis/Ges | フィ (Fi) | |
G | G | ソ (So) | |
G#/Ab | Gis/As | サ (Sa) | |
A | A | ラ (La) | |
A#/Bb | Ais/B | チ (Chi) | |
B | H | シ (Si) |
- E#/Eisは「ファ」、Fb/Fesは「ミ」、C##/Cisisは「レ」、Fbb/Fesesは「リ」となる。
- 白鍵の音はイタリア式音名をそのまま用いる(Gは「ソ (So) 」)。
- 黒鍵の音は半音下の音名の子音と半音上の音名の母音を組み合わせる(「フィ」、「チ」は例外)。