CGS単位系
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CGS単位系(シージーエスたんいけい)は、センチメートル(centimetre)・グラム(gram)・秒(second)を基本単位とする物理学の単位系である。"CGS"は基本単位の頭文字をつなげたものである。
この単位系は、1832年にドイツの天文学者カール・フリードリヒ・ガウスが提唱したのに始まり、1874年にジェームズ・クラーク・マクスウェルとウィリアム・トムソンが電磁気の単位を追加して拡張した。多くのCGS単位系の単位の大きさは実用上不都合であることが次第にわかってきたため、CGS単位系は電磁気学以外の分野では広く用いられなかった。CGS単位系は20世紀中頃までにより実用的なMKS単位系(メートル・キログラム・秒を基本単位とする単位系)に徐々に取って代わられ、さらにそれを発展させた現在の国際単位系(SI)に至っている。
CGS単位系は今日でも古い技術書、特にアメリカの電気力学や天文学の分野の本で見ることができる。
SIでは球に関する電磁気の方程式には4πが含まれる。コイルでは2πが含まれ、直線状の導線ではπが含まれない。これは電気工学の分野においては最も便利な選択であった。球に関する公式を多用する分野(例えば天文学)においては、表記についてはCGS単位系の方がわずかに便利であると主張された。
1940年代のMKSA単位系、1960年代の国際単位系の国際的な採択により、科学技術分野でのCGS単位系の使用は世界規模で次第に見られなくなっていった。アメリカ合衆国では他の国よりも移行はゆるやかに行われた。もはやCGS単位系は、多くの科学雑誌や教科書などでは受け入れられていない。
しかし、主要な単位系としてのCGS単位系の使用は弱まったものの、CGS単位系の個々の単位はSIのサブセットとして今でも有効なままであり、それらは教育機関での力学実験の実習などに使われている。多くの卓上での実験は、実世界の現象をスケールダウンした状況で行われる。そのときに、長さにセンチメートル、質量にグラムを使うと、実験に使用している装置のスケールと一致する。さらに、運動量(g·cm/s)や慣性モーメント(g·cm²/s²)のような組立単位の場合には、スケールダウンの効果がより大きくなる。類似した現象は、微量化学の実験による初歩の化学の実習にも見られる。このような場合にも、キログラムよりグラムを用いた方がわかりやすい。このような用途では、CGS単位系はしばしば"LAB units"と呼ばれる。
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[編集] 電磁気の単位
長さ・質量・時間だけが関わる物理量では、CGS単位系とSI単位系は 10 の整数乗をかければ互いに変換できることが多い。ところが、電磁気学に関連する単位についてはSI単位系とCGS単位系ではかなりの違いが生じる。
電磁気に関係する物理量は、長さ・質量・時間だけでは表すことができないため、もうひとつ別の物理量を単位系に加える必要がある。SI単位系では電磁気関連の基本単位として電流を採用しており、電流の流れる物体間に作用する力によって定義している。SI単位系では電荷は電流と時間の積として定義される組立単位となる。
一方、CGS単位系では、電磁気関連の基本単位として加える物理量が定まっていないため、分野・用途によっていくつかの異なる単位系が構築されている。物理法則を記述する数式は、用いている単位系によって記述が異なるため、CGS単位系で電磁気現象を記述する場合には用いる単位系に注意する必要がある。場合によっては各単位系が混在した形で記述されることもある。
- CGS静電単位系 (CGS-esu) においては、真空の誘電率が 1(無次元量)となるように組み立てられている。基準単位として静電単位 (esu) を用いる。静電単位系では、クーロンの法則は係数を含まない形で記述することができる。
- CGS電磁単位系 (CGS-emu) においては、真空の透磁率が 1(無次元量)となるように組み立てられている。基準単位として電磁単位 (emu) を用いる。電磁単位系では、ビオ・サバールの法則が係数を含まない形で記述することができる。
- ガウス単位系では、真空の誘電率と透磁率の両方を 1(無次元量)とする。各物理法則の定式中に表れる定数は光速度 c のみとなる。SI単位系と比べて利点が多いため、現在でも理論物理学などでは用いられることがある。
- ヘヴィサイド・ローレンツ単位系は、ガウス単位系を有理化したものである。マクスウェル方程式を最も簡単な形式で記述することができる。
各CGS単位系を相互に変換するには、簡単な計算で求められる係数を乗算すればよい。しかし、CGS単位系の基準単位となる物理量は実験的に決定するのが難しいものが多いという欠点がある。一方、SI単位系で基本単位に採用している電流(アンペア)は実験的に決定しやすいが、代わりに各物理法則には様々な係数・定数が含まれるようになる。
[編集] 単位
CGS単位系の単位を以下に示す(主として静電単位系)。
- 長さ: センチメートル 1 cm = 0.01 m
- 質量: グラム 1 g = 0.001 kg
- 時間: 秒
- 力: ダイン 1 dyn = g·cm/s² = 10-5 N
- エネルギー: エルグ 1 erg = g·cm²/s² = 10-7 J
- 仕事率・電力: エルグ毎秒 1 erg/s = g·cm²/s³ = 10-7 W
- 圧力: バリ 1 b = dyn/cm² = g/(cm·s²) = 0.1 Pa
- 粘度: ポアズ 1 poise = g/(cm·s) = 0.1 Pa·s
- 電荷: esu(フランクリン(fr), スタットクーロン(statC)とも) = √ (g·cm³/s²) = 3.336 × 10-10 C
- 電位: スタットボルト statV = エルグ毎esu(erg/esu) = 299.8 V
- 電場: スタットボルト毎センチメートル(statV/cm) = dyn/esu
- 磁場の強さ: エルステッド
- 磁束密度: ガウス 1 G = 10-4 T
- 磁束: マクスウェル 1 Mx = 1 G·cm² = 10-8 Wb
- 磁気誘導: 1 ガウス = 1 Mx/cm²
- 電気抵抗: s/cm
- 電気抵抗率: s
- 静電容量: cm = 1.113 × 10-12 F
- インダクタンス: s²/cm = 8.988 × 1011 H
上記リスト中の 2998, 3336, 1113, 8988 は近似値である。これらは光速度に由来するもので、正確には 299792458, 333564095198152, 1112650056, 89875517873681764 となる。
静電容量の単位としての「センチメートル」は、真空中にける半径1cmの球と無限遠点との間の静電容量である。半径 R, r の2つの球の間の静電容量 C は次式で表される。
ここで、R が無限大に近づくにつれて、 C の値が r の値に近くなっていくことがわかる。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 磁気学における単位系 (広島大学・PDFファイル)