S3 Graphics
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米S3社は1989年に設立された老舗のグラフィックチップメーカー。 2000年に米S3が台湾VIA Technologiesにグラフィックス・チップ部門を売却する事に伴い両社でS3 Graphicsが設立された。
[編集] 概要
2Dがパソコンの主流の時代、S3は86C911という製品を発表した。この製品は、それまでの画面に表示するデータの保存場所でしかなかったフレームバッファと一線を画した画期的な製品である。グラフィックアクセラレータと名づけられたそれは、それまでフレームバッファへの描画を行っていたCPUの処理の多くを肩代わりし、CPUを本来の情報処理により多く使うことでパソコンの性能を向上させるというとても野心的な製品である。その成功により、他社からも類似的な製品が多数発売されることとなった。 911(S3のチップの型番は原則的に頭に86Cと付くことから、下3桁で呼ばれることが多い)はポルシェ 911に由来し、以後、924、928などポルシェ由来の型番の製品が多い。
最初の製品である911で既にトップメーカーとなり、ハイエンドを好む日本市場では911以外の製品は見向きもされず、さらに同じ911採用製品の中でもDiamond Multimedia SystemsのStealth VRAMが指定買いされるという状況が長らく続いた。
その後、バリエーションが増え、900番台はデュアルポートDRAMを用いる高額高性能製品向け、800番台はシングルポートDRAMを用いるメインストリーム向け、700番台はシングルポートDRAM利用とともにRAMDAC内蔵した普及価格製品となる。24bitカラーを可能とした924、その800番台である805、シングルポートDRAMを用いていた805のメモリアクセスをインターリーブで高速化した805i、32bitカラーを可能とした928と、グラフィックアクセラレータほぼ全ての市場でトップシェアを取るまでになった。メモリアクセスを64bit化した製品が発売され、この製品からVision 964・Vision 864・Vision 764とペットネームが用いられるようになる。764には別にTrio64という名称も付けられている。それに続いたのが動画再生支援を追加したVision 968・868である。
グラフィックアクセラレータ市場では2D描画が十分な性能となった頃に、3dfx社から3D演算専用アクセラレータVoodooが発表され、また、MicrosoftからDirect3Dが発表され3D性能が重要視され始め、市場は3D描画に着目し始めた。S3社は独自の命令セットS3dとそれを用いた新製品ViRGEシリーズを発表した。しかしS3社は致命的な製品開発の方向性の判断を誤る。S3社は性能向上に伴う価格上昇を避け製品の低価格化(当然ながら性能もそれなりに低くなる)が主流となると見てViRGE(86C325)とデュアルポートDRAM版のViRGE/VXを開発し発売した。その後、325を基に低価格市場向けで開発を計画していたが、その予測は完全に外れ市場の性能競争はさらに激化していった。
ViRGEの後継のViRGE/DX、その後継の同/GX、同/GX2(ViRGE/GX2でViRGEの3倍速)と3D機能強化を行っていたが、市場での印象は好ましいものではなかった。そこで開発中の同/GX3・同/GX4をSavage3D・Savage4に改名しSavageブランドを発表しイメージを一新するも時は既に遅く、より開発資金が必要となる高性能化を前に販売不振による財務状況悪化がそれに追い討ちをかけることとなった。それ以後、大きな差のない製品(ほぼ同時期にViRGEシリーズで15種類、Savageシリーズで30種類、その他Trio3D等)とブランドを乱発し、製品ラインナップすら満足に確立できなくなっていった。
そしてS3が停滞している間に専用APIのGlideを採用する2D描画機能を持たない3D専用アクセラレータVoodoo、Voodoo2、3Dのほかに2D描画も可能となり低価格で爆発的人気を博したVoodooBansheeを3dfxが発売、NVIDIAはDirect3Dに対応し3D描画が高速なRiva128、RivaTNT、RivaTNT2、RivaTNT2 M64、RivaTNT2 Vanta、RiVA TNT2 Ultraを矢継ぎ早に発売しローエンドからハイエンドに至る市場を席巻した、NVIDIA社がS3社のみならず3dfx社やその他のチップベンダーすら市場から駆逐しはじめたところへ決定的な製品として従来の製品に比べ低価格ながら従来製品を過去のものとしうる高性能なGeForce256を発表した。 NVIDIAは、ジオメトリエンジンの搭載によりグラフィックアクセラレータではなくGPUであると自らの製品を高らかに宣言した。NVIDIAやATIといった新勢力に性能面で遅れを取り、その一方で低価格(低性能)化路線は90年代後半にGPU機能がマザーボードのチップセットに統合されたことで、単体GPUの低価格製品市場も徐々に無くなっていく状況にあった。ジオメトリエンジンを搭載したSavage2000だったが、性能の低さとドライバのサポート問題やハードウェアT&Lエンジンのバグ問題及び、CPUなどの高性能化によりGPUで処理させるよりCPUで処理させた方が速いという本末転倒の状況すら発生してしまう。
1999年に老舗のGPUカードメーカーのDiamond Multimedia Systemsを吸収合併しマルチメディア機器部門を設立。チップ単体の開発と販売のみならずカード製品の販売をも行うことでテコ入れを計るものの凋落の勢いは止められず、2000年4月11日にGPU部門を3億2,300万ドルで台湾VIA Technologiesに売却し、S3はVIAグループの一員として生き残る道を選ぶ。その際に設立されたのがS3 Graphicsである。S3本体は2000年8月3日にGPU関連業務から撤退し社名をSONICblueに変更しマルチメディア機器に注力したが、2003年3月21日に連邦破産法11条の申し立てを申請した。
その後、S3 Graphicsは長い間活動状況が不明であったが2003年10月にDeltaChrome S8(S8 Pro/XE)を発表。DeltaChromeに関しては最大性能よりも省電力性を重視した設計とし、3D性能はNVIDIAやATIに劣るものの最大1080px出力可能なビデオエンコーダーを搭載。HDTV出力可能といった独自の機能を搭載しているのが最大の特徴である。またチップからの発熱が少ないため、発売されるビデオカードはファンレスのものが多く、静音性を重視するユーザーに好まれている。
最新モデルのChrome S2xシリーズではNVIDIAのSLIやATIのCrossFireに類似した、MultiChromeというマルチGPUシステムを導入した。MultiChromeは特に専用マザーボードを用意する必要がなく(むしろそのようなマザーボードは発売されていない)、SLIやCrossFire対応のマザーボードにS2x搭載のビデオカードを2枚挿すだけで有効となる。しかしNVIDIAのSLIおよびATIのCrossFireでも明らかなように低性能なプロセッサを2個連動させるより高性能な1個の方が価格面および性能面で優れていることから実用性は薄い。SLIやCrossFireが有効なのは1個のGPUでは物理的に不可能のさらに上を狙うハイエンド市場にしか存在せず、低性能チップの連動は全く存在意義を持たない。
Chrome S27のコアクロックは当初700MHzとされていたが、後に650MHzに変更されてしまった。S2xシリーズまでは1世代遅れたSM2.0しかサポートしていなかったが、2006年後半に投入すると言われているOnward FamilyではSM4.0をサポートし、DirectX10にも完全対応する予定である。
[編集] GPU
チップ名 | DirectX 世代 |
プロセス | コア クロック |
メモリ クロック |
インター フェイス |
発表 |
---|---|---|---|---|---|---|
Savage4 GT/LT | DirectX 6 | 250nm | 110Mhz | 125Mhz | AGP x4 | 99/02 |
Savege4 Pro | 110Mhz | 125Mhz | ||||
Savege4 Pro+ | 125Mhz | 143Mhz | ||||
Savage4 Xtreme 143 | 143Mhz | 166Mhz | 99/08 | |||
Savage4 Xtreme 166 | 166Mhz | 166Mhz | ||||
Savage2000 | 180nm | 150Mhz | 166Mhz | 99/08 | ||
Savage2000+ | 200Mhz | 200Mhz | ||||
SavageXP | DirectX 7 | 150nm | 166Mhz | 166Mhz | 2002 | |
DeltaChrome S4 Pro | DirectX 9 (SM2.0) |
130nm (TSMC) |
300Mhz | 600Mhz | AGP x8 | 03/01 |
DeltaChrome S8 | 250Mhz | 500Mhz | ||||
DeltaChrome S8 Pro | 300Mhz | 600Mhz | ||||
DeltaChrome S8 Nitro | 325Mhz | 630Mhz | ||||
DeltaChrome S8 XE | 350Mhz | 500Mhz | ||||
DeltaChrome F1 | 300Mhz | 600Mhz | ||||
GammaChrome S14 | 375Mhz | 600Mhz | PCI-E x16 | 04/03 | ||
GammaChrome S18 CE | 300Mhz | 600Mhz | ||||
GammaChrome S18 Pro | 400Mhz | 800Mhz | ||||
GammaChrome S18 Nitro | 450Mhz | 800Mhz | ||||
GammaChrome S18 Ultra | 500Mhz | 900Mhz | ||||
Chrome S25 | 90nm (富士通) |
600Mhz | 1Ghz | 05/11 | ||
Chrome S27 | 650Mhz | 1.4Ghz | ||||
Onward Family | DirectX 10 (SM4.0) |
~1.0GHz | ~2.0GHz | 未定 |
[編集] 外部リンク
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